年次報告 2019 貧困の撲滅 機会への投資 世界銀行 世界銀行グループ 目次 2 はじめに 3 総裁からのメッセージ 10 理事会からのメッセージ 12 IBRD/IDA 最高経営責任者からのメッセージ 17 地域別展望 43 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 59 世界的にインパクトをもたらす金融ツールの開発 61 知識を活用した開発の推進 64 パートナーシップを通じたインパクトの強化 67 プロジェクトの開発効果を向上 70 世界銀行グループの価値観と人材 73 世界銀行を主導 74 プロジェクトの説明責任と透明性の確保 77 資金の戦略的活用 88 成果重視 主な図表 82 IBRD の主要財務指標、2015~19 年度 86 IDA の主要財務指標、2015~19 年度 本年次報告は、2018 年 7 月 1 日から 2019 年 6 月 30 日までの活動を対象に、国際復興 開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA) (世界銀行と総称される)の理事達により、 それぞれの機関の規定に従い作成されたものです。世界銀行グループ総裁及び理事会 議長を兼務するデイビッド・マルパスは、本年次報告、運営予算、及び監査済み財務諸表 を総務会に提出しました。 国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、及び投資紛争解決国際センター (ICSID)の年次報告は別途刊行されます。 本年次報告において、 「世界銀行」及びその略称である「世銀」は、IBRD と IDA のみを 指しています。また、 「世界銀行グループ」及びその略称の「世銀グループ」は IBRD、 IDA、IFC、MIGA の総体としての取組みを指しています。本年次報告中のドル表記は 全て、特に断りがない限り、米ドルの現在価額を示しています。複数の地域にまたがる プロジェクトに配分された資金は、図表及び本文中では国レベルで集計されています。 年 度 別 の 承認 額・ 実 行 額 のデ ー タ は 2019 年 度 の IBRD 及 び IDA の 財 務諸 表 並 び に 「世界銀行マネジメントによる議論及び分析」の中で報告されている監査済みの数値に 基づいています。また、四捨五入の結果、表中の数字の合計値が総計と異なる場合や、 図中のパーセンテージの合計値が 100 にならない場合があります。 人的資本とは、人々が生涯にわたって蓄積 2018 年、世界銀行グループは公平性と経済成長の拡大を目的とした していく知識、技能、健康で構成されており、 人への投資を質と量の両面から促進する人的資本プロジェクトに 持続可能な成長と貧困削減の原動力です。 着手しました。 仕事に就けるよう 発育阻害を軽減し 学習成果を向上し 人口構成を重視 技能を強化 人的資本 人が主導する開発 国内資金の動員 若者を重点対象に 組織としてのガバナンスの向上 脆弱な状況への取組みを拡大 およびサービスの提供 人的資本プロジェクトの 3 つの柱 : 人的資本指標(HCI) 測定・研究の拡大: 国別支援: 世界銀行 保健と教育が 何が有効か、 各国で政府一体型の グループと共に 次世代労働者の生産性に 資金をどこに アプローチを活用し 人的資本成果強化に もたらす影響を 充てるべきかを把握 人的資本開発にとって 取り組む国は 数値化 最大の障壁解消を推進 60 カ国以上 * *2019 年 7 月現在 バングラデシュ: イエメン: ザンビア: IDA18 の難民 緊急保健栄養 GEWEL サブウィンドウを通じ プロジェクトを通じ (女児の教育と女性の 人的資本への投資 ロヒンギャの子供 1,400 万人に エンパワーメント) 35 万人に 基礎的保健サービス プロジェクトを通じ 基礎的な教育・研修 を確保 女性と女児 8 万 9 千人 を提供 を支援 #InvestInPeople 敬意 世界銀行グループの使命の中心を成す 2 つの目標: 成果 2030 年までに極度の貧困を撲滅 誠実 世界中で 1 日 1.90 ドル未満で生活する人々の割合を減少 チームワーク 繁栄の共有を促進 イ ノ ベ ー ション 途上国における所得の下位 40%の人々の収入を増大 開発課題が一層複雑さを帯びる中、世界銀行は、援助受入国の持続可能 かつ包摂的な開発の実現に必要なソリューションを特定するという、独自の役割を 貫いています。 不可欠な資金:世界銀行は、その多角的なポートフォリオと出資国からの拠出金を 基に、資本を効果的に活用・動員して開発資金を提供することが可能です。こうし た資金は、民間セクターの参加により得られた資金と共に、援助受入国が開発目標 達成に必要な資金の調達に役立てられます。 グローバルな経験:世界銀行は、地方・国・グローバルそれぞれのレベルにおいて 多様な経験を有しており、援助受入国にベスト・プラクティスを用い革新的かつ 持続可能なソリューションを実施できる豊富な知識を備えています。 セクター横断的な専門性:世界銀行のように全てのセクター及び開発分野を網羅し ている機関は他に類を見ません。エネルギー、教育、気候変動、ガバナンス等、多岐 にわたる分野での専門性に裏打ちされ、開発課題の多面的ソリューションを模索 する途上国にとっての不可欠なパートナーとなっています。 動員力:世界各地で活動しグローバルな経験を有する世界銀行は、共通の目標に向 けて世界中の多様なパートナーを結集し、より大きな開発インパクトをもたらすた めの協力を促進します。 世界銀行はこれからも、世界の開発リーダーとして極度の 貧困撲滅及び繁栄の共有促進という目標に向けた革新的、効果的、持続可能な取組み を支援していきます。 2 世界銀行 年次報告 2019 総裁からのメッセージ 世界銀行は、開発を進めるに当たり 2 つの目標を掲げています。それは、繁栄の 共有の促進と極度の貧困撲滅で、どちらも今なお差し迫った課題です。多くの国で 貧困削減の歩みが減速または逆行する中、生活水準の引き上げに十分な投資や成長 は見込まれていません。貧困国は、基本的な開発を進めていく上で数多くの課題に 直面しています。例えば、清潔な水、電力、保健、教育、雇用、民間セクターの 競争力等の著しい不足、経済・社会への女性の全面的参画に対する障壁、貧困層の ための就業機会創出や支援の代わりに富裕層ばかりを利するような政策、環境・気候 変動をめぐる喫緊の課題、更には真の成長を妨げる債務の急増等が挙げられます。 経済成長は、世界各地で貧困削減の大きな推進力となってきました。しかし多く の国々、とりわけ資源に依存する国々では、成長の恩恵が広がることはなく、平均 所得は上昇したものの、所得の中央値や下位 40%の人々の所得を引き上げるには 至っていません。世界的な成長の鈍化に伴い、所得中央値の伸びは世界の多くの 地域で鈍く、貧困国の多くが低下傾向にあります。中所得国では、成長率の低下が 中産階級の生活水準を引き下げ、多くの人々の貧困化を招いています。そのため、 2030 年を目標年とする持続可能な開発目標(SDGs)は一層厳しい状況に直面し、 貧困削減のための主要目標の達成が危ぶまれています。 2019 年度(2019 年 6 月 30 日までの 1 年間) 、援助受入国の開発成果向上に向 けた世界銀行グループの融資承認額は約 600 億ドルでした。多くの途上国では 投資の見通しが思わしくなく、ヨーロッパでは景気後退リスクがある中、世界銀行 グループ(IBRD、IDA、IFC、MIGA)が有効性と影響を拡大することがこれまで 以上に急務となっています。 世界銀行グループの各機関は相互に連携し、世界各地の課題に対応するための ツールを擁しています。2018 年 10 月に総務会の承認を受けた IBRD・IFC 資本 パッケージにより融資能力が拡大されると共に、IBRD の長期的な財務の持続可能 性を確保するための制度面・財政面の変革が進められています。IBRD はまた、 持続可能な年間融資限度額の導入を含む財務持続可能性フレームワークを取り入れ るなど、財務管理を一段と強化しています。加えて、2019 年 12 月に決定される IDA 第 19 次増資(IDA19)により世界銀行は、開発成果の確かな達成と世界の 最貧困層の生活向上に向けてこれまで以上に貢献することができるでしょう。 世界銀行は、成長と開発成果を高めるため、 大きな影響力を有する国別プログラムを選りす ぐ り、 重 点 的 に 進 め て い ま す。2019 年 度、 IBRD の貸出承認額は 230 億ドルを上回りまし た。世界の最貧国 75 カ国にグラントや低利の 融資を提供する IDA は、融資承認額が 220 億 ドルで、内 80 億ドル近くをグラントが占めて います。このように世界銀行のプログラムは、 援助受入国による開発の重点課題達成を可能に するため貢献してきました。 人的資本投資は、長期的な包摂的成長の促進 と貧困の緩和に重要な役割を果たします。この ことから、人的資本投資に対する需要は 2019 年度も引き続き増加しました。世界銀行プロ ジェクトの 60%以上がジェンダー格差解消を 進めており、経済や社会への女性の本格的な 参画を促しています。かつては閉鎖的であった いくつかのコミュニティで、女性と女児に関連 総裁からのメッセージ 3 した法的、経済的、社会的条件の改善が見られるようになりました。しかし、更なる 改善が今後も不可欠です。 法の支配と透明性向上の必要性は、開発の重点課題として益々認識されるように なっています。開発金融では、資本や新規投資の質向上と有益な配分のために、 ソブリン債及び負債類似項目の透明性が不可欠です。 2019 年度の IBRD/IDA 融資承認額の内 31%に気候変動とのコベネフィットが 含まれており、2020 年までに 28%にするという目標を上回りました。2018 年 12 月、世界銀行は気候変動課題への取組みを推進すると共に、適応策にも軽減策 と同等の融資を実施するため、2 千億ドルに上る 5 カ年動員目標を発表しました。 世界銀行の目標は、援助受入国が経済的成功と生活水準の向上を達成することで す。国の発展に伴い、世界銀行との関係も進化していきます。こうした変化によ り、所得が更に低い国に向けた IBRD 貸出を拡大することができるのです。例えば 中国は、GDP と所得中央値を大きく押し上げ、繁栄を達成することができました。 そのため、世界銀行の支援はより専門的なものへと移行し、貸出は減少傾向にあり ます。中国の政策は、地球公共財の促進、環境や気候変動の問題への対処、更には 河川におけるプラスチックやマイクロプラスチックの削減へと急速に変化しつつあ ります。中国は、かつての主要借入国から、開発対話の場で重要な発言力を持つ 存在、そして IDA の主要ドナー国へと進化しているのです。 世界銀行は、サヘル地域やアフリカの角といった脆弱地域で、若者が移住を考え るのではなくその地に留まることができるよう、国家の基盤強化を図っています。 脆弱性・紛争・暴力の影響下にある国々に対する IDA の 2019 年度の融資承認額は 80 億ドルに達しました。 多くの国で、民間セクターの成長促進による雇用の質と量の向上を目指した意欲 的なアジェンダが必要です。これに伴い、民間セクターが国家と公平な立場で競争 できるようビジネス環境の大規模な変革が求められます。こうした変革は、雇用、 利益、イノベーションの創出にとって不可欠です。 世界銀行グループは、途上国における民間投資と雇用創出を強化する経済・制度 改革への融資を拡大しています。民間セクターに主眼を置いた最大の国際開発機関 である IFC は、支援を必要とする地域で持続可能な民間投資の市場と機会を創出し ています。また、確実に利益が見込め、世界の最貧国への民間投資拡大につながる プロジェクトを準備するため、上流での取組みにより重点を置くようになっていま す。MIGA は政治的リスク保証を提供する最大の多国籍機関であり、途上国への 外国直接投資の誘致を通じた開発インパクト創出を使命としています。 2019年度、 MIGA の保証プログラムのおよそ 30%が、IDA 支援対象国及び脆弱な状況下での プロジェクトに充てられ、 約 3 分の 2 が気候変動の適応または緩和に貢献しました。 IBRD/IDA、IFC、MIGA は、開発見通しが改善された低所得国へのコミット メントを拡大すると共に、脆弱性・紛争・暴力の影響下にある国々に資金を振り向け ています。援助受入国のニーズや課題に対応するための資金をより多く確保すべ く、これからの 1 年間も世界銀行グループの有効性と財政規律の向上を進めていき ます。 何事にも屈することのない賢明なリーダーシップと確たる政策をもってすれば、 支援を必要とする人々の生活の質の向上は可能であると私は確信しています。4 月 に訪問したサブサハラ・アフリカ地域では、開発課題の規模と緊急性を直接目にし ました。エチオピアのアビィ首相率いる政府が立ち上げた意欲的な改革、エジプト の世界最大の太陽光発電所に秘められた可能性、2 度にわたるサイクロンで壊滅的 被害を受けたモザンビークの人々が見せた強靱さ、大統領の平和的交代が初めて 実現したマダガスカルの人々の感動。これらを目の当たりにし、私は未来へとつな がる道が開けていると希望を抱いています。 途上国の人々は大きな課題に直面しています。世界銀行グループとその職員は 一丸となって、あらゆる資源を駆使して、世界中のパートナーと共に生活の質向上 のための政策や解決策を実現すべく尽力して行く所存です。 デイビッド・マルパス 世界銀行グループ総裁兼理事会議長 4 世界銀行 年次報告 2019 イノベーションの 75 年間-進歩と繁栄に向けて 1944 年 7 月 1 日、44 カ国の代表 が米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズ で開かれた連合国通貨金融会議に集まり、戦争回避のみならず恒久的平和の促進 を目的とする新たな国際金融体制が構築されました。 この会議の狙いは、為替の安定、国際収支の不均衡是正、戦争で荒廃した国々 の再建、世界の貧困国の開発を促進する体制づくりにありました。3 週間にわた る議論の結果、国際通貨基金(IMF)と国際復興開発銀行(IBRD)の両機関が 新たに設立され、その後 IBRD は世界銀行として知られるようになりました。 この新体制が打ち出していたのは、繁栄に限界はない、つまりいかなる国家も 成長と開発の恩恵を受けることができるという信念です。個々の国が単独では取 り組むことのできない課題に共同で取り組もうという姿勢の基盤となっているの は、あらゆる人に機会が与えられるべきとする考えです。議長を務めたヘンリー・ モーゲンソー米財務長官も会議初日に、「機会の自由こそ他のあらゆる自由の 基礎である」と述べています。 世界銀行が業務の準備を進める中、復興・開発のみならず、新たな金融体制の 構築という、世界銀行の果たすべき役割の概要が明らかになってきました。 1947 年、世界銀行は最初の融資契約―フランス復興のための 2 億 5 千万ドル― を締結したほか、初の債券発行を通じ復興開発プロジェクトの資金 2 億 5 千万 ドルを調達しました。当初の融資は設備や原材料に充てられた他、それ以上に大 きな意味を持つ投資として、戦争で傷ついた人々が自らの生活を再建するための 支援にも充てられました。 1952 年には、世界銀行の主眼は欧州の再建から途上国の人々の機会促進へと 移行していきました。その後の数十年間に、そうした国々のニーズは更に大きく 複雑になり、世界銀行はニーズに対処するための資源や専門知識の新たな活用法 を編み出し、IFC、IDA、ICSID、MIGA の各機関が設立されて現在の世界銀行 グループの組織構造が出来上がりました。 1973 年、ロバート・マクナマラ第 5 代総裁が、世界銀行の設立協定には含ま れていなかった「貧困」という言葉を、その使命に加えました。同年、ケニア で開催された年次総会においてマクナマラ総裁は、出資国に対し「絶対的貧困」の 緩和を世界銀行の使命とすべきであるとし、絶対的貧困とは「人間としての尊厳 を害するほどの生活状態の悪化」であり、「途上国では人口の約 40%が該当する までに拡大している」と述べました。 極度の貧困撲滅というコミットメントは、現在も世界銀行の使命の中心にあり ます。現在、世界銀行グループには世界中から様々な専門性を有する優秀な職員 が集まっています。1944 年のブレトンウッズ会議では 700 人を超える出席者の 内、女性はわずか 2 名でしたが、現在は世界銀行職員の約 53%、マネージャー の 42%を女性が占めています。また、業務範囲の拡大が続く中で現地への権限 移譲が進み、これまでに 141 の現地事務所が設置され、脆弱性・紛争・暴力の 影響下にある地域に駐在する職員の数も増えています。 世界銀行グループの使命はこの 75 年間で、紛争後の復興から、繁栄の促進と 貧困の緩和へと進化してきました。今後も、途上国における所得中央値の上昇、 雇用の創出、女性と若者の経済参画、万人のためのより堅固かつ安定的で強靱性 のある経済の構築を助ける飛躍的な打開策の追求を続けていきます。こうした 目標、そしてその達成に向けた協力こそ、ブレトンウッズ会議の出席者らが当初か ら思い描いていたものです。同会議で産声をあげた機関は、今日までに、各国が 協力して喫緊の世界的課題に対応し、世界中の人々の生活向上を実現できる強力 な機関へと進化したのです。 ブレトンウッズ会議から75年 5 世界銀行グループの各機関 世界銀行グループは、途上国に資金や知識を提供する世界有数の機関であり、 貧困の撲滅、繁栄の共有の促進、持続可能な開発の推進という共通の目的 を持つ 5 つの機関で構成されています。 国際復興開発銀行(IBRD) 中所得国及び信用力のある低所得国の政府を対象に貸出を提供 国際開発協会(IDA) 最貧国の政府を対象に極めて譲許的な条件で資金を提供 国際金融公社(IFC) 途上国の民間セクター向け投資を促進するための融資、直接投資、アドバイザ リー・サービスを提供 多数国間投資保証機関(MIGA) (FDI) 新興国への対外直接投資 を促進するために投資家や貸手に政治的リスク 保証や信用補完を提供 投資紛争解決国際センター(ICSID) 国際投資紛争の調停と仲裁を行う場を提供 6 世界銀行 年次報告 2019 世界銀行グループによる支援 表 1:世界銀行グループの承認額、実行額、総引受額 年度別 単位:100 万ドル 2015 2016 2017 2018 2019 世界銀行グループ 承認額a 59,776 64,185 61,783 66,868 62,341 実行額b 44,582 49,039 43,853 45,724 49,395 IBRD 承認額 23,528 29,729 22,611 23,002 23,191 実行額 19,012 22,532 17,861 17,389 20,182 IDA 承認額 18,966 16,171 19,513c 24,010d 21,932e 実行額 12,905 13,191 12,718c 14,383 17,549 IFC 承認額f 10,539 11,117 11,854 11,629 8,920 実行額 9,264 9,953 10,355 11,149 9,074 MIGA 総引受額 2,828 4,258 4,842 5,251 5,548 援助受入国実施信託基金 承認額 3,914 2,910 2,962 2,976 2,749 実行額 3,401 3,363 2,919 2,803 2,590 IBRD、IDA、IFC、援助受入国実施信託基金(RETF)のコミットメント、並びに MIGA の a. 引受総額を含む。RETFコミットメントは援助受入国実施グラントの全てを含んでおり、信託基金 による活動の一部のみを反映する世界銀行グループのコーポレート・スコアカード記載のコミット メント総額とは異なる。 IBRD、IDA、IFC、RETF の支援実行額を含む。 b. パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万ドルの承認額及び実行額を含む。 c. IDA18 で承認された IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウでの 1 億 8,500 万ドルを除く。この d. 内、IDA 分は保証 3,600 万ドルとデリバティブ 900 万ドル。 IDA18 で承認された IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウでの 3 億 9,300 万ドルを除く。この e. 内、IDA 分は保証 1 億 600 万ドル、デリバティブ 2,500 万ドル、IFC-PSW 関連の直接投資が 100 万ドル。 IFC 自己勘定の長期コミットメント。短期融資や他の投資家を通じて動員した資金を除く。 f. 世界銀行グループによる支援 7 世界各地での活動 2019 年度、世界銀行グループは引き続き、迅速に成果を収め、援助受入国やパートナー との関係強化に加え、世界各地の課題解決に向けたグローバルなソリューションを途上国 に提供することができました。 ラテンアメリカ・カリブ海地域 107 億 ドル 総額 623 億ドル 加盟国の政府・民間企業に対する融資、グラント、 直接投資、保証等の支援総額 複数の地域にまたがるプロジェクトやグローバルな プロジェクトを含む。地域別内訳は世界銀行の分類 による。 世界銀行グループ ヨーロッパ・中央アジア地域 58 億 ドル 東アジア・大洋州地域 75 億 ドル 82 億 ドル 中東・北アフリカ地域 117 億 ドル 南アジア地域 184 億 ドル サブサハラ・アフリカ地域 2019年度の成果概要 9 理事会からのメッセージ 2019 年度、理事会は全会一致でデイビッド・マルパスを世界銀行グループ総裁 に選出しました。任期は 2019 年 4 月 9 日から 5 年間です。理事会は、新総裁及び 世界銀行マネジメントと協力し、世界銀行グループの中期的ビジョンである 「フォワード・ルック」及び資本パッケージの実施、成果連動型プログラム融資 制度を拡大する貸出ツールキットの調整、査閲パネルの説明責任フレームワークの 強化、IDA18 プログラムの業務調整、革新的プロジェクトの規模拡大といった 戦略的分野に積極的に取り組んでいます。 理事会は、「フォワード・ルック」及び資本パッケージがもたらす成果を実現す るための政策措置や内部改革について議論しました。例えば、民間セクターの 動員、組織面・人事面の再編成、財務の持続可能性の新枠組みと危機時のバッファー、 IBRD 地球公共財イノベイティブ・ソリューション基金等です。 世界銀行グループのプロジェクトや政策対話に気候変動対策を主流化する動きが 大きく進む中、理事会は、この分野における世界銀行マネジメントによる意欲的な 新目標・対応についてレビューを行い、気候変動への適応と強靱性に関する行動 計画を承認しました。また、ジェンダーと開発において改善が見られたことを確認 すると共に、あらゆる年代の男女間格差を解消するための世界銀行グループのアプ ローチを歓迎しました。加えて、多様性と包摂性に関し、スタッフ内及びマネジ メント内で進歩があったこと、世界銀行グループ内で、また援助受入国との取組み においても一層の多様性と包摂性を促進していく必要性を確認しました。 10 世界銀行 年次報告 2019 起立(左から右へ) :Erik Bethel、米国(世界銀行 /IFC 理事代理兼 MIGA 理事) ;吉田正紀、日本; Werner Gruber、スイス;Adrián Fernández、ウルグアイ;Nathalie Francken、ベルギー(世界銀行 / IFC 理事代理兼 MIGA 理事) ;Kunil Hwang、韓国;Jean-Claude Tchatchouang、カメルーン; Richard Hugh Montgomery、英国;Jorge Alejandro Chávez Presa、メキシコ;Koen Davidse、オランダ; Susan Ulbaek、デンマーク ;Guenther Schoenleitner、オーストリア(世界銀行 /IFC 理事兼 MIGA 理事代理) ; Yingming Yang、中国;Roman Marshavin、ロシア連邦;Armando Manuel、アンゴラ(代理) 着席(左から右へ) :Juergen Karl Zattler、ドイツ;Shahid Ashraf Tarar、パキスタン;Aparna Subramani、 インド;Hesham Alogeel、サウジアラビア;Anne Kabagambe、ウガンダ;Merza Hussain Hasan、 クウェート(筆頭理事) ;Kulaya Tantitemit、タイ;Patrizio Pagano、イタリア;Christine Hogan、 カナダ;Hervé de Villeroché、フランス(共同筆頭理事) ;Fabio Kanczuk、ブラジル 世界経済の成長鈍化に伴い途上国の外的環境は厳しさを増してきており、脆弱 性、紛争、暴力の影響下にある国々にとって、状況はこれまでにも増して困難と なっています。そうした中、理事会は、債務の脆弱性への対応、ショックに対する 強靱性の強化、長期成長見通しの促進に向けた更なる取組みについて議論し、世界 銀行が債務持続性の確保において鍵となる役割を担っていると指摘しました。 更に、革新的かつ画期的な技術、人的資本開発、未来の労働のあり方、域内 統合、貿易促進、ジェンダー平等といった問題に関して世界銀行グループが果たす 指導的役割についても議論し、開発資金動員のためにグループ一丸となって連携し ていくことの重要性を強調しました。また、世界銀行グループの 2 大目標と持続 可能な開発目標(SDGs)の 2030 年までの達成に鍵となる生産性向上に向けた改革 及び人的資本やインフラへの投資について、民間セクター、金融機関、政府との パートナーシップを奨励しました。 世界銀行が支援する援助受入国のプロジェクトの効果を確認するため、プロジェクト の現場を視察し、世界銀行の支援モデルの有効性について政府関係者、市民社会、 民間セクター代表者、その他の関係者らと意見交換を行っています。2019 年度 は、アンゴラ、カンボジア、モーリシャス、モンゴル、シンガポール、ウガンダを 訪問しました。 理事会からのメッセージ 11 IBRD/IDA 最高経営責任者(CEO) からのメッセージ 2018 年 11 月にルワンダを訪問した際、2050 年までに高所得国になるという 目標を掲げているが達成は可能かと尋ねられました。多くの国がこうした意欲的な 目標を掲げており、私は訪問する先々で同じような質問を受けます。将来を予測す るのは困難ですが、正しい政策をもってすれば大きな進歩は可能なはずです。 世界銀行は、援助受入国が飛躍的な開発の進歩と市民の機会向上を実現できるよ う、正しい政策の選択を支援しています。具体的には、大胆な改革、革新的な 発想、人・制度・接続性への投資の促進です。しかし、過去 25 年間で 10 億人を超 える人々が貧困から抜け出した一方で、取組みは失速傾向にあり、中には貧困率が 上昇している国さえあります。グローバル経済が減速する中、成長の達成はこれま でよりも困難になっていると言わざるを得ません。 多くの国では、債務返済のリスクが高まっています。これを踏まえ世界銀行は、 この 1 年間、そうした国にとって重要な債務管理への取組みをより一層強化してき ました。債務問題については国際社会と緊密に協力を続けています。G7 及び G20 では、この他にも雇用、課税、ブレンド・ファイナンス、ジェンダー、保健といった 分野で大きく貢献しています。 世界銀行グループは 2019 年度、多くの分野で目覚ましい実績を上げました。例 えば IBRD と IDA は、約 100 カ国で 351 件の画期的なプロジェクト(内 3 件は IBRD と IDA のブレンド・プロジェクト)に対して総額 451 億ドルの融資を承認し ました。活動が世界各地に広がっていることは、世界銀行が、真にグローバルな 開発機関として開発のベスト・プラクティスを各国に伝える役割を果たしていること を示しています。世界銀行は、援助受入国が次のような共通の課題に取り組めるよ うこれまで以上に力を注いでいます。 第一に、戦争や不安定性が開発の進捗を妨げるケースが増えています。2030 年 には世界で極度の貧困層の 46%が脆弱性・紛争・暴力の影響下にある国(FCV 国) で暮らすようになると見られます。そこで世界銀行は 2019 年度、IDA 融資だけで 80 億ドルを増額し、より多くの職員を現場に配置しました。また、人道援助パート ナーとの協力拡大により、長期にわたる紛争下にあっても開発効果を高め、危機を 予測し防止できるようになっています。 第二に、世界銀行は多くの国から気候変動に関連した目標達成への支援要請に、 排出量削減や温暖化への適応といった形で応えています。2019 年度の IBRD 及び IDA の融資承認額の内 31%がコベネフィット型の気候変動対策を含んだものでし た。既に 2020 年度の目標 28%を上回ることから、現在、目標値の更なる引き上 げを検討中です。2018 年 12 月、世界銀行グループ全体として 5 年間で 2 千億 ドル(内、 2 分の 1が IBRD 及び IDA による直接融資)の気候変動対策目標を発表し、 気候変動への適応策にも緩和策(排出量削減)と同水準の融資を提供するなど、 世界的な動きを主導しています。 第三に、援助受入国が成長の新たな原動力を模索する中、世界銀行は、ジェン ダー平等が経済にもたらす価値を明確にしています。世界銀行の主要報告書 「Women, Business and the Law(仮題:女性・ビジネス・法律) 」の第 10 版 が、他の多くの知識成果物と同様、政策担当者やアドボカシー・グループにとって 重要な判断基準となっており、改革推進の論拠を一層強化するために役立つなど、 世界銀行はジェンダーの分野においても世界的な動きを主導しています。また、 世界銀行が自らも組織内においてジェンダーの平等を実行していることは私の誇りで あり、現在、全職員の半数以上を女性が占めており、昨年 12 月には幹部の男女比 12 世界銀行 年次報告 2019 が同数になりました。 世界銀行は、開発業務へのイノベーション導入に絶えず努力しています。新たな 課題が生じた際に、援助受入国がソリューションを見極めることができるよう、 ナレッジ・バンクとして最先端の研究・分析を推進しています。2018 年度の世界 銀行バリ年次総会で打ち出された人的資本プロジェクトは現在、早期参加 63 カ国 と 24 のグローバル・チャンピオンが国家による人への投資を促進しています。こ の取組みは、イノベーションと技術進歩が仕事、技能、生活の質にもたらす変化を 分析した世界開発報告(WDR)2019 を反映したものでもあります。 テクノロジーは、最貧国が世界の他の国々に追いつくための新たな道筋を提供す る一方で、より一層格差を広げるリスクももたらします。ただし、今後数十年間に 雇用創出を上回るペースでの人口増加が起こりかねないアフリカでは、デジタル 経済により好機がもたらされると期待されています。デジタル・インフラ、デジタル 認証、フィンテック、テクノロジー等の分野におけるイノベーションが幅広いセク ターでの飛躍的進歩を可能にし、人、政府、企業に各種の機会を創出します。そこ で世界銀行は、北アフリカ及びサブサハラ・アフリカでのデジタル・トランス フォーメーションに向けて 2030 年までに 250 億ドルを投資すると発表した他、 民間セクターからの 250 億ドルの動員を目指しています。 世界銀行は常に、研究機関として援助受入国の要求にこれまで以上に応え、効果 的な支援モデルの確立を目指しています。その一環として世界銀行は、プロジェクト の有効性向上と出資国にとっての価値拡大に向けて大規模な改革を実施しました。 低所得国や FCV 国への支援を強化するため、援助受入国に近い場所により多くの 職員を配置し、現場のマネージャーに権限を委譲しています。また、グローバル・ プラクティス・グループ内での上級管理職の責任を見直すことにより、業務モデル の柔軟性を維持しながらセクター別・地域別のチーム間でのつながりや協力の強化 を図っています。 機敏性を高めるために継続中のアジャイル・プログラムでは、業務の向上やプロ ジェクトの効率化を図る新たなアイデアの試行や評価を続けています。その結果、 プロジェクト準備期間が最大 10%短縮され、その結果として節約できた人件費 年間 800 万ドル以上を援助受入国に焦点を絞った付加価値のある活動に振り向け ることが可能となっています。また、 「強靱な住宅設計」コンテストといった取組み を拡大しています。同コンテストでは、クラウド上で、自然災害に弱い地区に住む 人々のために災害耐性のある持続可能な住宅を 1 万ドル以下で建設できる設計を 募集したところ、300 件以上の案が寄せられ ました。 いずれも、困難かつ複雑な環境にあっても 結果を出し続ける世銀職員らの献身的な取組み なくしては達成できませんでした。どの地を訪 れても、職員らの努力が実を結んでいることは 一目瞭然です。職員の熱意、 出資国からの信頼、 世界銀行の取組みを支える価値観はいずれも確 かなものであり、私達の共通の目標は、たとえ 野心的に見えたとしても達成可能であると確信 しています。 クリスタリナ・ゲオルギエヴァ IBRD/IDA 最高経営責任者(CEO) IBRD/IDA最高経営責任者(CEO)からのメッセージ 13 国別事例 強靱性と包摂的成長の促進:モザンビーク との連携 2019 年、モザンビークでは 2 つの大型サイクロンが壊滅的な被害をもたらし、 被災者数が数百万人に上ったことは報道でも大きく取り上げられました。国内第二 の港湾都市ベイラをサイクロン「アイダイ」が直撃した直後にサイクロン「ケネス」 が上陸し、山崩れの発生が被害拡大につながりました。 世界で最も貧しい国々がこのような打撃を受けた場合、それまでに培ってきた 何年分もの開発の進捗が失われてしまいます。しかしモザンビークの場合、壊滅的 なサイクロンの被害を受けたにもかかわらず、気候リスクへの対処で大きな成果を 上げました。その際にパートナーとして大きな役割を果たしたのが世界銀行です。 2019 年 5 月、デイビッド・マルパス世銀グループ総裁は、就任後初の公式訪問 としてベイラを訪れ、IDA 危機対応ウィンドウから3 億 5 千万ドルの対モザンビーク 緊急融資を発表しました。同緊急融資は、給水サービス復旧、被災インフラの再建、 農業活動の再開、疾病防止、食糧安全保障、社会的保護、コミュニティの早期警戒 システム等の支援に役立てられました。この他にも、自然災害からの財政保護 促進、備えと対応の強化、気候変動に強靭な学校建設を目指した成果連動型防災・ 強靱性プログラム等、長期的な強靱性構築の取組みにも充てられています。 モザンビーク政府は国家災害管理院が中心になり、14 カ国以上、救援隊 1 千人、 188 組織を結集し災害後の対応に当たりました。世界銀行はこの大規模な取組み を支援し、 「アイダイ」による被災から 1 カ月以内には、100 万人以上が食糧援助 を受け、約90 万人が清潔な水を使えるようになり、75 万人近くがコレラの予防接種 を受けました。ベイラ港も市が後片付けを行い、操業が再開されました。世界銀行 がドイツ復興金融公庫(KfW)と共同投資した雨水排水システムによって市内の 洪水が軽減されたことも一助となりました。同プロジェクトで提供されたソーラー 式の街路灯はサイクロンに耐え、しばらくの間、市内で唯一の光源として活用され ました。 近年、経済成長に進歩が見られたモザンビークには、今般の災害からの力強い 復興後は、長期経済成長の支援を再開できるでしょう。そうした成長、そしてあらゆ る人を包摂した成長において中心となるのが人的資本です。経済活動における連鎖 的な非効率性と連携不足が教育や保健医療の質低下につながっていたためモザン ビーク政府は 2014 年、問題解決と省庁間の協力強化を目指し、成果連動型の財政 管理プログラムを立ち上げました。 同アプローチが、例えば学校運営における脆弱性、コミュニティとのつながりの 希薄さ、蔓延する生徒の欠席、学校予算執行の遅れ等、学習成果の足かせとなる 要因に対象を絞った結果、改善が見られるようになっています。2017 年にはプロ グラムに参加した 1,300 の小学校全てが年度開始前にグラントを受け取り、学習 教材の購入や特に困難を抱える生徒への支援に充てることができました。 「この グラントにより、年初に計画を立てられるようになりました。とても大きな改善で す。」とモザンビーク南部の 3 de Fevereiro 小学校の Matilde Xilume 校長は感想 を述べています。 14 世界銀行 年次報告 2019 保健制度においても同様で、公共施設に薬剤のストックを保管し、期限切れ等の 理由で廃棄すべき薬剤の使用を未然に防ぐことにより、保健医療サービスの提供や 治療が改善されています。モザンビーク保健省の高官 João Grachane が述べてい る通り、「薬剤は適切な患者に適切なタイミングで処方されて初めて効果がある」 ものです。プログラム開始前の 2013 年時点で妊産婦の健康のための薬剤が常備 されていた公共施設は 79%でしたが、2018 年にはこの割合が 83%に上昇しまし た。また、抗レトロウィルス薬剤の備蓄を切らしている治療所の割合も 27%から 5%に低下しました。 こうした進歩を踏まえモザンビークは 2017 年、国内の僻地におけるプライマリ ・ ケアに主眼を置いた新たな成果連動型プログラムに着手しました。 同プログラムは、 初年度から、医療施設での出産件数の増加、家族計画の普及、プライマリケア・ センターや農村部のスタッフ増員、コミュニティ保健従事者による僻地の家庭への 支援の拡大等、目覚ましい成果を上げています。また、国内中部・北部地域で サイクロン被害が特に大きかった地区での保健施設再建にも資金が提供されました。 このように大きな進捗が見られるにもかかわらず、モザンビークは依然として 非常に貧しく、直面する開発課題は深刻です。世界銀行が取りまとめた 2018 年の 人的資本指標(HCI)によると、モザンビークは予想される就学継続年数、共通テスト の得点、生存率、小児発育阻害等の指標が低く、所得グループ別及びアフリカ全体 の平均をいずれも下回っています。近年、成長は安定してきたものの、その恩恵が 十分に共有されているとは言えません。公的債務の水準が高いため、債務再編及び 投資家の信頼回復努力を継続的に進めていく必要があります。サイクロンからの 復旧は好調に始まりましたが、大規模な自然災害への不安は今後も大きく、生活や インフラへのリスクの頻度も高まることが予想されています。 世界銀行は、こうした課題克服に向けたモザンビークの取組みを引き続き支援し ていきます。具体的には、政府による貧困緩和、そして人々の生活の質向上を支援 するため、包摂的成長、長期的な持続可能性、そして強靱性を推進していきます。 国別事例:モザンビーク 15 地域別展望 世界銀行は現在、140 カ国以上に置く現地事務所を通じて業務を展開してい ます。現場に権限を委譲することにより、援助受入国に対する理解を深め、 協力や連携を密にし、これまで以上に迅速にパートナーにサービスを提供す ることができます。現在、国別担当局長・マネージャーの 96%、職員の 45% が、6 地域の国々で活躍しています。本セクションでは、2019 年度に達成さ れた主な目標、実施されたプロジェクト、実施された戦略、発表された報告 書等についてご紹介します。 アフリカ地域 サブサハラ・アフリカ地域の 2018 年度の成長率は、2017 年度の 2.6%から 推定 2.5%に低下しました。2019 年度は 2.9%まで回復する見込みですが、大幅な 貧困削減には依然として不十分です。貧困率は1990 年度の54%から2015 年度には 41%まで低下したものの、年間 2.6%のペースで進む人口増加により相殺され、 貧困人口は 1 億 3 千万人増加しています。 貿易摩擦と保護貿易主義に加え、回復傾向ながらなおも不透明な商品価格等、 世界的に不安定な環境が引き続きアフリカ経済に悪影響を及ぼしています。域内で 成長の妨げとなっている要因としては、不十分な債務管理、インフレ、赤字等マクロ 経済の不安定性、政治や規制の不確実性、紛争・脆弱性等があります。脆弱性の例 を挙げると、わずか数カ国が脆弱であるがために、アフリカ地域全体の年間成長率 が 0.5%ポイント、5 年間で 2.6%ポイントも押し下げられています。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行は、アフリカ地域の152 件のプロジェクト(内、2 件はIBRD とIDA のブレンド・プロジェクト)向けに150 億ドルの融資を承認しました。その 内訳は、IBRD の貸出承認額が 8 億 2 千万ドル、IDA 支援承認額が 142 億ドルでした。 中・高所得国 6 カ国に提供した有償助言サービスからの収益は 700 万ドルでした。 世界銀行のアフリカ地域戦略は、より力強い開発を目指し、人的資本の強化と 女性のエンパワーメント、デジタル経済の拡充、域内統合の促進、気候変動に対す る脆弱性への対処と強靱性の構築、開発資金の動員を 5 つの重点分野としています。 人的資本の強化:女性に重点 アフリカ地域における人的資本構築の優先課題は女性のエンパワーメントです。 2019 年 4 月に発表した「対アフリカ人的資本計画」では、各国の取組みを加速す るために人的資本投資を 50%拡大する予定です。ここには、子供の死亡率の大幅 削減(人数にして 400 万人) 、1,100 万人の子供の発育阻害予防、学業成績の 20%向上を目指す 2021~23 年度の新規グラント及び譲許的融資(総額 150 億 ドル)が含まれます。 マダガスカルでは、脆弱層の女性と子供を重点対象とする貧困緩和のための セーフティネット拡大、人的資本の構築、強靱性の強化に1億 6,500 万ドルを提供し、 現在までに 17 地区の 14 万世帯以上がその恩恵を受けています。コンゴ民主共和国 では、子供の栄養への投資として国内で過去最大規模となる 4 億 9,200 万ドルの IDA プロジェクトが 2 歳未満児 250 万人、妊婦及び授乳中の母親 150 万人を対象 に進められています。 デジタル・トランスフォーメーションの促進 世界銀行グループとパートナーは、2030 年を期限にアフリカ地域の全ての個人、 企業、行政機関のデジタル化完了を目指しています。デジタル・トランスフォー メーションは、域内の成長率を年間 2%ポイント近く押し上げ、貧困率を年間 表 2:アフリカ地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 1,163 1,120 820 427 734 690 IDA 10,679 15,411 14,187 6,623 8,206 10,190 実行中プロジェクトのポートフォリオ:777 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 18 世界銀行 年次報告 2019 約 1%ポイント低下させる可能性があります。更に、人的資本への投資と組み 合わせることで効果の倍増が可能です。 投資の対象はインフラ整備のみならず、スキル構築、デジタル身分証明、電子 商取引、デジタル・ビジネス等も含まれます。世界銀行は、今後 2030 年までに アフリカのデジタル・トランスフォーメーションに 250 億ドルを投資する予定で、 加えて民間セクターから 250 億ドルの動員を目指しています。また、現在のポート フォリオを通じて、コンゴ共和国とガボンを結ぶ光ファイバー回線等、高速 インターネットのインフラに資金を提供する他、アフリカの若い起業家が技術を駆使し て教育・運輸・保健サービスへのアクセスといった課題を克服できるよう、デジタル・ インテグレーションを推進しています。ガーナでは、世界銀行の融資を受けた技術 拠点において、最先端の仕事や新たな産業への参入を目的に 650 人以上に研修を 実施しています。 脆弱性及び気候変動リスクへの対処 気候変動がコミュニティにとって負担となり、食糧の確保を脅かしていることか ら、気候変動への適応性・強靱性と防災への投資が不可欠です。世界銀行は 2016 年から進めている対アフリカ気候変動対策の下でこれまでに 176 件のプロジェクト (総額 170 億ドル)を承認しています。これらのプロジェクトは、気候変動に強い 農業と海洋経済、沿岸部の強靱性、総合的な流域管理、再生可能エネルギーを中心 に、予定よりも短期間で成果を上げています。 紛争多発地域では、インフラの復旧、経済機会の開発、基礎的サービスの提供、 政府及び市民社会のキャパシティ・ビルディングを進めています。ブルキナファソ、 チャド、マリ、モーリタニア、ニジェール、ソマリアでは、最近ようやく安定を取 り戻した地区においてサヘル同盟を支援しています。サヘル同盟は、主要な開発 パートナー諸国・機関が参加して発足したもので、各国が社会的盟約を刷新し、改 めて国家としてのプレゼンスを確立できるよう連携しています。マリでは、2013 年の爆撃で破壊された漁港の再建を支援し、中央アフリカ共和国では、労働引換 現金給付(CFW)プログラムが雇用創出や自営の促進に役立っています。 民間セクター主導型の成長の促進 アフリカの開発に対する民間セクターの参画は伸びており、報告書「2018 Private Participation in Infrastructure(仮題:民活インフラ 2018)」によると、 インフラ投資総額は 77 億ドルに上っています。しかし、拡大の余地は更に残され ています。世界銀行グループは、多様な資金、専門知識、ソリューションの確保を 図ると共に、各国政府と共に投資家のための環境整備を進めています。 世界銀行の支援の下、アフリカ地域の発電はその大半がクリーン・エネルギーで 占められています。域内の電力セクターには、民間セクターが大きく貢献してお り、世界銀行は今日までに、ケニアに 20 億ドル超、カメルーンに 10 億ドル近く の民間投資をそれぞれ誘致しています。また、ケニアでは、世界銀行の支援により 大手電力会社 2 社が上場するなど、電気事業者の業務面・財務面での実績が向上し 図 1:アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 150 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 7% 12% 農業・漁業・林業 運輸 4% 8% 教育 社会的保護 10% 22% エネルギー・採取産業 行政 12% 情報通信技術 3% 5% 金融セクター 産業・貿易・サービス 8% 9% 保健 地域別展望 19 た他、地熱発電や太陽光発電等、再生可能エネルギーの開発も行われています。 国境を越えた取組みでより大きなインパクトを実現 2017 年 3 月のアフリカ大陸自由貿易圏協定の採択を受け、世界銀行は域内統合 支援を強化し、地域経済共同体と密接に連携して活動を拡大しています。同時に、 「アフリカの角」 、チャド湖周辺地域、サヘル地域の共通課題に取り組むため空間的 問題解決アプローチを導入しました。世界銀行による域内統合の取組みは、70 件 以上のプロジェクトで総額 100 ドルを超えています。 アフリカの「センター・オブ・エクセレンス(COE) 」に対する世界銀行の支援 は 1億 6,500 万ドルから 4 億 6,500 万ドルに増えており、19 カ国の 45 大学で科学、 工学、経済学、数学を中心に大学院教育の向上を進めています。また、アフリカ プロジェクト紹介 サヘル地域変革のための女性と女児のエンパワーメント 2 億 9,500 万ドルのサヘル地域女性エンパワーメント人口ボーナス・プロジェクト (SWEDD)は、女性と青年期女子のエンパワーメント、性と生殖に関する健康と母子 保健の分野での良質なサービスへのアクセス向上、人口とジェンダーを成長の中心に位置付 ける政策アジェンダの構築を目的に、2015 年に開始されました。対象となるのは、ベナン、 ブルキナファソ、チャド、コートジボワール、マリ、モーリタニア、ニジェールです。 女児の中等教育、高齢出産、出産間隔の調整、家族計画、ジェンダーに起因する暴力と の闘いをテーマに宗教組織のリーダーによるコミュニティ対話が実施されています。男性 も家事に参加する他、健全な性と生殖に関する健康のための行動、女性や子供に対する 暴力の削減を促す学習プログラムにも参加しています。女児のためのセーフ・スペースが 設置され、問題解決、交渉、拒絶の方法、性と生殖に関する健康についての知識、栄養等、 日常生活における基本的な対応能力の指導が行われています。青年期の女子や若い女性に は、より高収入を見込める職業に就くための研修を実施しています。例えばチャドでは、 脆弱層の女子1万 3 千人以上が学用品の提供、授業料支給、住居、学生支援等を受けた結果、 中退率が半減しました。学校施設内に設けられた 400 近くのセーフ・スペースでは、 280 人の女性が再生可能エネルギー、農業機械の操作・保守に関する研修を受けました。 SWEDD は、議員、判事、弁護士による法令の整備、既存法令の知識や適用の拡大、 ジェンダーに起因する暴力の被害者でそれまでサービスをほとんど受けられなかった人へ の対応拡大等に役立っています。省庁も、人口政策や投資の参考となるデータの収集や 分析のためのキャパシティ・ビルディングを進めています。 20 世界銀行 年次報告 2019 連合委員会、アフリカ開発銀行、EU、国連等とのパートナーシップも強化し、 貿易、電力アクセス、紛争・暴力の防止、経済統合等、共通の重点課題において更に 確かな成果を上げるべく取り組んでいます。 表 3:アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 665 869 1,078 人口増加率(年率、%) 2.7 2.8 2.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 551 1,430 1,506 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 0.8 2.7 –0.3 1日1.90ドル未満で生活している人口(100万人) 391 b 409 413 平均寿命、女性(歳) 52 58 63 平均寿命、男性(歳) 49 55 59 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 61 64 72 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 72 75 79 二酸化炭素排出量(100 万トン) 564 746 822 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 55.3b 46.5 41.0 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 43 38 34 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)c SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 846 625 547 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 154 101 75 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 54 67 69 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 83 84 85 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 12 19 24 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 44 53 58 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 24 27 28 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 26 33 43 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 73 71 70 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 <1 7 22 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 c.発育阻害率は全所得レベルを含む。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/afr 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 21 東アジア・大洋州地域 成長を続ける東アジア・大洋州地域は 2018 年度も引き続き堅調で、成長率は 6.3%を記録しました。域内の多くの国は国内需要がなおも活発で、輸出減速の 影響も一部相殺されています。東アジア・大洋州地域は近年の減速にかかわらず 依然として世界経済の主たる牽引役であり、 世界成長の約 3 分の 1 を占めています。 その大部分は中国によるものです。 中国は、2017 年度に予想以上のペースで成長を遂げた後、2018 年度は 6.5% とやや減速しました。タイとベトナムの成長率はそれぞれ 4.1%、7.1%と堅調で した。インドネシアの成長率は、投資と民間消費の見通し向上により 5.2%とやや 上向きました。フィリピンの成長率は 6.2%まで減速しましたが、公共投資の拡大 が予定されていることから中期的な成長率上昇が見込まれます。マレーシアは輸出 の伸び率と公共投資の減速により、成長率は 4.7%に低下しました。 域内の小国も 2018 年度の成長見通しは引き続き堅調で、カンボジア、ラオス 人民民主共和国、モンゴル、ミャンマーで平均年率 6.5%超となっています。 東ティモールは、政治的膠着状態が解消された後、2019 年には成長が再開すると 見られる一方、パプアニューギニアは 2018 年の大地震の影響がなおも残る見通し です。大洋州島嶼国は、自然災害の影響を受けやすいものの、引き続き比較的安定 した成長が見込まれます。 東アジア・大洋州地域では、極度の貧困の撲滅に向け大きな進展が見られます。 1 日 1.90 ドル未満で生活する人の割合は今や 1.5%を下回る(中国を除くと 3.8%) と推定され、2021 年には 1%(中国を除くと 2.7%)に到達する見込みです。 一方で、人口高齢化、急速な都市化、世界貿易の成長鈍化、飛躍的な技術進歩が、 地域の持続可能な発展に新たな課題を突き付けています。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行は、東アジア・大洋州地域の 49 件のプロジェクトに対し 53 億ドルの融資を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 40 億ドル、 IDA 支援承認額が 13 億ドルでした。また、4 カ国と有償助言サービス協定を締結 し、その総額は約 500 万ドルに上りました。世界銀行の東アジア・大洋州地域 戦略は、民間セクター主導の成長、強靱性と持続可能性、人的資本と包摂の 3 点を 優先分野としています。 民間セクター主導の成長の促進 東アジア・大洋州地域の持続可能な成長を確保するには、民間セクターの機会 拡大及び投資とイノベーションのための環境整備が不可欠です。発展が続くマレーシア では、新技術が大きな役割を果たしています。そこで世界銀行は、デジタル経済 の可能性を引き出すための診断調査を実施しました。その結果、報告書を踏まえて 表 4:東アジア・大洋州地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 4,404 3,981 4,030 3,961 3,476 5,048 IDA 2,703 631 1,272 1,145 1,252 1,282 実行中プロジェクトのポートフォリオ:362 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 22 世界銀行 年次報告 2019 政府が講じたデジタル面の施策により、安価で高速なインターネット・アクセスの 普及が実現しました。 フィジーでは、途上国初のソブリン・グリーンボンドの発行を支援し、これにより 気候変動の緩和・適応を進めるため 5 千万ドルが調達されました。投資家にとって グリーンボンドは、魅力的な投資先であると共に、環境に配慮したプロジェクトを 推進する機会でもあります。世界銀行と IFC は、フィジー準備銀行からの要請を受 け、グリーンボンドの開発プロセス全体にわたり技術協力を提供しました。 強靱性と持続可能性の強化 世界銀行は、気候変動に対する脆弱性が特に大きな地域において、各国やパート ナーと協力し、強靱性の強化、温室効果ガス排出量の削減、クリーン・エネルギー の普及を進めています。中国では、世界銀行の支援を受けたプログラムの下、エネ ルギー効率の向上、クリーン・エネルギーへの投資、華夏銀行による大気汚染管理 の強化に対し9 億ドル超の融資を企業に提供しています。同プロジェクトの重点対象 は、北京市・天津市・河北省を結ぶ経済圏(Jing-Jin-Ji)及びその周辺の山東省、 山西省、内モンゴル自治区、河南省です。同プロジェクトの資金は気候変動対策に も役立てられており、現在までに炭素排出量の年間 180 万トン削減が実現してい ます。 ラオス人民民主共和国は、災害復旧と共に自然災害に対する強靱性向上を図って います。ラオス東南アジア防災プロジェクトは、ウドムサイ県における洪水の影響 削減と同時に、自然災害のモニタリング、予測、早期警告を強化しています。同 プロジェクトはまた、保険メカニズム及び国家災害リスク・ファイナンス戦略を通 じて、自然災害に対する財政面での強靱性を高めています。更に、道路セクターの プロジェクトに、気候変動に対する強靱性が「道路保守」の一環として組み入れら れています。両プロジェクトには、IDA 危機対応ウィンドウから、多額の費用を要 する洪水からの復興を後押ししながら将来の災害に備えた強靱なインフラ構築を 目的とする融資が行われる予定です。 人的資本の構築と包摂 人的資本への投資は、同地域における持続可能な長期的成長の確保と貧困削減の 鍵です。インドネシアでは、セーフティネットの不備を解消し、人的資本を構築す るために社会保護制度の強化を進めています。条件付き現金給付 プロジェクト (CCT) 「希望ある家族プログラム」 (PKH)は、参加者の小児発育阻害率、学校中退、児童 労働の削減に貢献しています。こうした優れた実績を踏まえ、2017 年度の成果 連動型プログラムからの追加融資が行われた結果、PKH の対象が人口の 17%に当 たる 1 千万世帯に拡大され、CTT プログラムとしては世界第 2 位の規模となったこ とで、対象世帯の拡大、提供システムの強化、より効果的な調整が可能となってい ます。 図 2:東アジア・大洋州地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 53 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 7% 5% 農業・漁業・林業 7% 教育 運輸 10% 7% エネルギー・採取産業 社会的保護 9% 1% 金融セクター 5% 保健 6% 産業・貿易・サービス 行政 40% 3% 情報通信技術 地域別展望 23 同様の CCT プログラムであるPantawid Pamilya Pilipino は、18 歳未満の子供を 持つ 400 万世帯以上を対象として子供の健康と教育への投資を促すインセンティブ を提供していますが、同プログラムにより就学率向上と就学者のジェンダー格差 緩和が確認されました。フィリピンにおける過去 7 年間の貧困削減全体の内、4 分 の 1 は同プログラムの成功によるものです。 プロジェクト紹介 パプアニューギニア都市部の若者に実務技能を提供 パプアニューギニアでは、24 歳未満人口の内、半数以上が就職の見通しが立たないほ ど、雇用問題が緊急度を増していました。そこで 2010 年、国内の社会経済情勢に対応す るため、都市部若年層雇用プログラムが開始されました。同プログラムにより首都ポート モレスビーでは、1 万 8,500 人の若者が研修と就業体験に参加できるようになった他、約 1 万 8 千人が新たに銀行口座を開設し、延べにしておよそ 81 万 5 千日分の仕事が創出さ れました。 同プログラムの実施以前は、参加者の 70%は賃金労働の経験がなく、33%は高校に 通ったことがなく、35%は犯罪に関与しており、74%は銀行口座を持ったことがありま せんでした。実務研修の 6 カ月後、参加者の半数近くに当たる 41%がフルタイムまたは パートタイムの仕事を得たと報告しており、雇用者側からもプロジェクト参加者の 97% はフルタイムの仕事に就く能力を身に付けたとの報告がありました。 オーストラリア外務貿易省との協調融資を受けて実施された同プロジェクトは、今や パプアニューギニアで最も大規模な若年層失業対策の公共プログラムです。長期にわたって 失業状態にある若者に対して職業訓練、就職斡旋、全額補助金による就労体験を提供する 総合的なアプローチであり、パプアニューギニアの産業の中心地であるラエ市まで拡大さ れる予定です。 24 世界銀行 年次報告 2019 表 5:東アジア・大洋州地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 1,816 1,966 2,082 人口増加率(年率、%) 1.0 0.7 0.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 914 3,763 7,601 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 6.5 9.0 5.6 1日1.90ドル未満で生活している人口(100万人) 549 b 221 47 平均寿命、女性(歳) 73 75 77 平均寿命、男性(歳) 69 72 73 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 97 99 99 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 98 99 99 二酸化炭素排出量(100 万トン) 4,197 10,040 11,689 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 29.7b 11.2 2.3 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 25 16 12 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)c SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 120 79 63 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 42 23 17 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 92 102 97 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 82 79 78 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 17 18 21 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 78 89 93 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 60 70 75 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 90 95 97 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 32 16 16 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 2 29 51 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 c.発育阻害率は全所得レベルを含む。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/eap 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 25 ヨーロッパ・中央アジア地域 2018 年度、ヨーロッパ・中央アジア地域の成長は 3.1%に減速しました。 2019 年度は世界的な景気後退と先行き不透明感のために更に 2.1%まで失速する と予想されています。 域内諸国の成長にはばらつきが見られますが、最大の経済大国であるロシアが、 アルバニア、ハンガリー、ポーランド、セルビアと共にこの地域の成長に大きく 貢献しています。2020~21 年度にはトルコの緩やかな回復が中央ヨーロッパに おける鈍化を相殺し、域内成長率はわずかながら回復すると見込まれますが、同地域 は依然として、厳しい課題に長期的に直面すると見られます。 1990 年代の出生率低下により、域内の労働年齢人口の割合は大幅に低下してい ます。生産性も 2013~17 年度の間に年率 0.8%まで低下しました。投資の伸び率 は世界金融危機の 5 年前には平均 15%を超えていましたが、2014~18 年度には 平均でわずか 1.6%まで大幅に低下しています。この地域の一部の国、とりわけ 中央アジア及び西バルカン諸国は、干ばつ、洪水、頻発する自然災害等の気候変動 の影響に対して極めて脆弱です。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行はヨーロッパ・中央アジア地域の 40 件のプロジェクトに 対し 43 億ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 37 億 ドル、IDA 支援承認額が 5 億 8,300 万ドルでした。世界銀行はまた、域内 8 カ国と 有償助言サービス 22 件(総額約 3,900 万ドル)の協定を締結しましたが、 対象は、 公共財政と財政改革、都市計画と開発、教育や就業スキルの強化等に特化した専門 的助言です。 世界銀行は、域内全体での生産性引き上げと強靱性構築を戦略目標に掲げていま す。生産性向上については、人的資本開発、社会から取り残された人々の包摂、新 たな市場や技術へのアクセス普及、市場競争の促進、セーフティネットへの投資が 重点課題です。強靱性の構築とは、マクロ経済及び金融の安定性強化、成長を支え る効果的なガバナンスの構築、気候変動への対応、民間セクターの繁栄につながる 規制制度の整備、域内統合等を通じ、包摂的な市場の基盤を確立することです。 生産性向上に向けた人的資本強化 世界銀行は同地域で、保健医療制度への投資、スキルの向上、新テクノロジーへ の移行支援、貧困世帯を保護するセーフティネットへの投資を目的とするプロジェクト の推進を継続しました。 2019 年度、世界銀行は北マケドニア共和国で社会サービスへのアクセス拡大及 表 6:ヨーロッパ・中央アジア地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 4,569 3,550 3,749 2,799 4,134 2,209 IDA 739 957 583 310 298 931 実行中プロジェクトのポートフォリオ:271 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 26 世界銀行 年次報告 2019 び質の向上を目的とするプロジェクトに3,300 万ドルを提供しました。タジキスタン では、実施中の社会的セーフティネット強化プロジェクトに対する 200 万ドル の追加融資が、最脆弱層の生活を引き続き保障するため社会扶助の提供に充てられ ました。ベラルーシでは、教育近代化プロジェクトへの 1 億 200 万ドルの追加 融資により、学業成績向上と学校制度の近代化を進めました。ジョージアの革新・ 包 摂・ 品 質 プ ロ ジ ェ ク ト に 対 す る 1 億 300 万 ド ル の 融 資 は、 就 学 前 教 育 へ の アクセス拡大及び教育の質向上による人的資本開発の強化に役立てられます。 成長のための確かな基盤と強靱性の構築 世界銀行は、マクロ経済と金融の安定性の向上、効果的なガバナンスと制度の構築、 気候変動等、絶えず変化する脅威に対応するためのキャパシティ・ビルディング を、引き続き同地域における重点課題としています。 2019 年度、世界銀行はセルビアで税務行政近代化プロジェクト(5,200 万ドル) を通じ、徴税効果の向上と税務コンプライアンスに伴う負担の軽減を推進しまし た。モルドバでは、4,500 万ドルの競争力強化プロジェクトにより企業の輸出 競争力強化と規制負担削減が進められています。キルギス共和国では、2 千万ドル の融資を通じ、自然災害に対応して財務面への悪影響を軽減するため国家機能強化 を図っています。 民間セクターの高い生産性を達成するための市場整備 2019 年度のプロジェクトは、起業・競争・イノベーションの促進、新たな市場 やテクノロジーへのアクセス確保、域内経済の統合推進、世界的なバリューチェーン への参画を目的としたものでした。 コソボでは、1,500 万ドルのプロジェクトを通じ、輸出指向型企業の競争力強化 とキャパシティ・ビルディングを進めました。ウズベキスタンでは、フェルガナ盆地 の農村部にある中小零細企業による財源の確保、助言サービスの活用、都市部の 市場アクセス確保のために、2 億ドルの融資を承認しました。トルコでは、4 億 ドルのプロジェクトを通じ、シリア難民受入れの影響下にある地域で女性参画企業に よる長期資金へのアクセス向上を図ります。 世界銀行はソートリーダーシップに関する報告書をまとめ、主要な政策課題につ いて分析を行いました。そのひとつである「Toward a New Social Contract: Taking on Distributional Tensions in Europe and Central Asia(仮題:新し い社会契約に向けて:ヨーロッパ・中央アジア地域に広がる緊張に立ち向かう) 」 は、労働、税務、社会福祉の各政策を検証し、域内で拡大中の社会的分断を緩和す るため、政策を根本的に見直すよう求めています。 図 3:ヨーロッパ・中央アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 43 億ドルに占める割合 運輸 2% 5% 水・衛生・廃棄物処理 社会的保護 5% 11% 農業・漁業・林業 13% 教育 行政 24% 12% エネルギー・採取産業 情報通信技術 11% 金融セクター 3% 産業・貿易・サービス 12% 3% 保健 地域別展望 27 主要報告書である「Critical Connections: Promoting Economic Growth and Resilience in Europe and Central Asia(仮題:結びつきの重要性:ヨー ロッパ・中央アジア地域の経済成長と強靱性の促進) 」は、域内での貿易、投資、 移民、通信、運輸等の結びつきを通じて経済的利益を最大化しようという政策と、 それが成長にもたらす影響を分析しています。 プロジェクト紹介 西バルカン諸国の域内経済統合 西バルカン諸国では、国境を越える際の所要時間が他の EU 諸国の 5 倍に上ります。 物流コストを EU の平均水準まで引き下げることができれば、同地域全体の GDP の 1 パー セントに相当する年間 11 億ドル以上の節約が見込まれます。西バルカン諸国からの輸出 品はゼロ関税で EU 諸国に持ち込むことができますが、輸出企業は全体の 10~20%にす ぎません。検査や通関等の手続きの遵守と国境での所要時間が、効率の低下とコストの 増大を引き起こし、貿易の妨げとなっていますが、こうした経済統合の障壁を解消し各国間 のつながりと貿易を向上させることが、持続可能な成長のために不可欠です。 世界銀行の西バルカン諸国貿易運輸促進プロジェクトは、域内統合に主眼を置き、物品 の国外移動の促進、運輸システムの効率化、市場アクセスと投資の強化のために参加 6 カ 国に総額 1 億 4 千万ドルを提供します。 同プロジェクトの第一フェーズは 2019 年度に承認され、セルビア(4 千万ドル) 、 北マケドニア(3 千万ドル) 、アルバニア(2 千万ドル)に融資を提供しました。これによ り年間で、輸出入コストの 10%超の削減が期待されます。同プロジェクトは、域内の インフラ整備、新技術の導入、関係機関間での連携強化によって貿易と成長を促進するも のです。運輸インフラ・サービスの近代化と交通の流れの改善は、温室効果ガス排出量の 削減にも役立ち、各国の気候変動緩和目標の達成に向けた取組みを後押しします。 28 世界銀行 年次報告 2019 表 7:ヨーロッパ・中央アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 392 399 418 人口増加率(年率、%) 0.0 0.5 0.5 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,784 7,440 7,781 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 8.0 4.5 2.3 1日1.90ドル未満で生活している人口(100万人) 28 b 11 7 平均寿命、女性(歳) 73 75 77 平均寿命、男性(歳) 63 66 69 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 98 99 100 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 99 100 100 二酸化炭素排出量(100 万トン) 2,693 3,014 3,030 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 6.0b 2.4 1.5 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 — — — (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)c SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 56 29 25 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 36 19 13 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 94 97 98 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 73 72 71 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 7 15 21 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 93 95 96 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 87 91 93 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 99 99 100 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 6 6 6 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 2 36 66 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 c.対象人口が不十分であるため、データなし。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/eca 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 29 ラテンアメリカ・カリブ海地域 ラテンアメリカ・カリブ海地域の 2018 年度の成長率は 1.6%でしたが、2019 年度は 1.7%に上昇すると見込まれています。21 世紀最初の 10 年間で商品市場 高騰と広範な成長により域内の貧困率が 2 分の 1 に低下したことから、大きな社会 的変革がもたらされました。世界銀行は、こうした変革の強化を図っています。同 地域の極度の貧困層の割合は、2003 年から 2016 年の間に 24.5%から 9.9%まで 低下しました。しかし、その後、経済見通しが不透明になり、多くの人々が貧困 状態に逆戻りすることが懸念されます。 同地域の半期報告書「Effects of the Business Cycle on Social Indicators: When Dreams Meet Reality(仮題:景気循環が社会指標に及ぼす影響:夢が 現実になるとき) 」は、 域内の貧困削減は景気循環の拡大局面に依るところが大きく、 根本的かつ長期的な経済構造の改善に起因したものではないと強調しています。よ り強力かつ包摂的な成長を支えていくために、そうした制約の解消が域内諸国の 課題です。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行はラテンアメリカ・カリブ海地域の 37 件のプロジェクト (内、1 件は IBRD と IDA のブレンド・プロジェクト)に対し 61 億ドルの支援を 承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 57 億ドル、IDA 支援承認額が 4 億 3 千万ドルでした。また、域内 8 カ国と有償助言サービス 18 件(総額 600 万 ドル)の協定を締結しました。同地域における世界銀行の戦略には 3 つの柱があり ます。第一の柱は、包摂的な成長に重点を置き、生産性、競争力、透明性、説明責任 の向上の他、先住民族、アフリカ系住民、農村コミュニティ等、従来から疎外されて きた人々の社会への統合や、民間投資の誘致を促進します。第二の柱は、デジタル 化及び仕事の質の変化に伴う課題と機会への備えを視野に人的資本への投資に力を 入れます。第三の柱は、各国が自然災害、経済の激変、移民、犯罪や暴力といった ショックに対処できるよう強靭性の強化を目指します。 包摂的な成長の促進 世界銀行は生産性の向上、説明責任の強化、機会の拡大に重点を置いて包摂的な 経済・社会の成長促進に取り組んでいます。ブエノスアイレス都市圏再生プロジェクト (3 億ドル)は、貧困地区「バリオ 31」を首都ブエノスアイレスの他の地区と物理 的・社会的に統合して住民の経済的機会を創出しています。メキシコでは農村 金融普及プロジェクトを通じ、従来型の銀行システムが整備されていない地区にお いて、15 万件以上のローンの提供や小規模農村企業への融資拡大等、金融システム の普及に努めました。その際、重点対象となったのは、女性や、社会に取り残され た区域です。 表 8:ラテンアメリカ・カリブ海地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 5,373 3,898 5,709 3,885 4,066 4,847 IDA 503 428 430 229 223 340 実行中プロジェクトのポートフォリオ:300 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 30 世界銀行 年次報告 2019 ボリビアの農村地区コミュニティ投資プロジェクトは、チュキサカ、 コチャバンバ、 ラパス、オルロ等、僻地の最貧困農村コミュニティで基礎的サービスのインフラ を構築した他、灌漑、農村道路、飲料水、衛生、電気を整備しました。これにより 28 万 2 千人近くが恩恵を享受しました。エクアドルのキト地下鉄1号線プロジェクト (17 億ドル)では、IBRD とラテンアメリカ開発銀行、米州開発銀行、欧州投資 銀行等、複数の国際開発金融機関との協調が効果的に行われました。プロジェクト はほぼ 80%完了しており、遅延やコスト超過の心配はない見込みです。 成長と繁栄に向けた人的資本への投資 教育、保健、機会提供を通じた人的資本の拡大は、成長と繁栄の基盤です。就学 や母子保健サービス活用といった条件を設けて貧困世帯への現金給付を行うブラジル のボルサ・ファミリア・プログラム(2 億ドル)に続き、パラグアイでも社会的 説明責任・社会監査のためのグローバル・パートナーシップ・プロジェクトの下で 同様のプログラムを支援しています。同プロジェクトは、不登校の削減、医療の質 向上、基本的な医薬品の供給確保について現地からのフィードバックを参考とし、 最貧困地域で 1 万 3 千人以上の子供に恩恵をもたらしています。 ペルーでは、技術協力プロジェクトの結果、条件付き現金給付、極度の貧困層向 けの年金、保育園・小学校の児童向け給食プログラム等、開発・社会包摂省による 社会包摂プログラムの実績、対象範囲、モニタリングが改善されました。 強靱性の構築 ラテンアメリカ・カリブ海地域は自然災害のリスクが極めて高い上、ベネズエラ や中央アメリカからの大量の移民の問題にも直面しています。コロンビアには、 ベネズエラからの大量の移民・難民の流入の管理、移民・難民の雇用や基礎的サービス へのアクセス向上、受入れコミュニティのための政策に対し、世界銀行が運営する グローバル譲許的資金ファシリティから 3,200 万ドルのグラントが提供されまし た。 ハリケーン「マリア」により電力網の 75%が被害を受けたドミニカの復興に向 けて、世界銀行はエネルギー構成の多様化を図る政府の国家強靭性強化戦略を支援 しました。同戦略には 7 メガワットの地熱発電所建設のための 2,700 万ドルが含 まれており、「気候変動に対応可能な世界初の国」になるというドミニカの目標 達成を後押ししています。同戦略はまた、再生可能エネルギーの比率を押し上げ、 費用対効果が高く気候変動に対する強靱性を備えた地熱発電への民間投資にとって 明確なロードマップになると期待されています。 アドバイザリー・サービス、技術協力、動員力の活用 世界銀行は、ラテンアメリカ・カリブ海地域諸国の開発目標達成に向けて、有償 図 4:ラテンアメリカ・カリブ海地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 61 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 9% 3% 農業・漁業・林業 運輸 2% 8% 教育 4% エネルギー・採取産業 社会的保護 19% 12% 金融セクター 5% 保健 行政 20% 情報通信技術 1% 17% 産業・貿易・サービス 地域別展望 31 助言サービスや技術協力を提供した他、詳細な分析作業を実施しました。ドミニカ 共和国では、債務超過の問題に取り組み、投資環境改善のための政策改革を支援し ました。ベネズエラでは移民危機を受け、コロンビアの国家対応政策及び戦略の 策定に向けて、移民流入のもたらす影響の評価を実施し、ペルーとエクアドルでも 同様の調査を実施中です。報告書「Afro-descendants in Latin America: Toward a Framework of Inclusion(仮題:ラテンアメリカのアフリカ系住民:包摂の 枠組みづくりに向けて) 」は、アフリカ系住民コミュニティの貧困削減、自らの 懸念解消のための発言権の確保、そしてコミュニティの全面的な社会・経済包摂の 妨げとなっている構造的な障壁の克服に向けた進捗状況を取り上げています。 2018 年10 月発行の半期報告書 「From Known Unknowns to Black Swans: How to Manage Risk in Latin America and the Caribbean(仮題:既知の未知から ブラックスワン(前例のない未知)まで:ラテンアメリカ・カリブ海地域における リスク管理のあり方」は、リスク管理のために活用可能な様々な種類の保険メカニズム を理解しておくことの重要性を強調しました。 世界銀行はまた、共通の目標を持つ主要な政策担当者や国際パートナーを動員し ました。例えば、カリブ海地域における災害・気候変動に対する強靱性構築に関す るハイレベル会議、長期的かつ持続可能な民間セクター投資の促進手段を見極める ため、G20 ブエノスアイレス・サミット開催を前にアルゼンチン政府と共催した 投資フォーラム、不正対策及び開発のための民間資金動員拡大を目的として米州 機構及びパナマ政府とまとめたパナマ協定等があります。 プロジェクト紹介 先住民族が開発の在り方を自ら決定 包摂的で成果をもたらす開発モデルの策定に向けて、世界銀行はラテンアメリカ各地の 先住民族の組織やコミュニティと戦略的対話を進めており、彼らの抱く開発ビジョンや 期待、そして直面する深刻な貧困と不平等を認識しています。世界銀行は、8 千万ドルの プロジェクトを通じ、パナマ先住民族開発計画の実施を促進していますが、その際、先住 民族コミュニティ自らが開発アジェンダ決定の主導権をとりました。同プロジェクトの 受益者は女性と若者を中心に 20 万人以上に上り、先住民族団体が優先課題として提案した 分野への投資を進めています。重点 対象は、保健、教育、水と衛生の各 部門において、固有文化に配慮した、 アクセスが容易な質の高いサービス です。 同プロジェクトには、長期にわた る構造的障壁や長年の民族的差別 克服に向けたガバナンス、 計画立案力、 先住民族団体と政府との調整のため の 投 資 が含まれています。同プロ ジェクトで既に達成された成果指標 は、 政 府と先住民族間の常設的な 協議の場となる国家先住民族開発 審議会を法的に承認することと、 審議 会に参加する各代表団に女性アド バイザーを含めること、の 2 つです。 32 世界銀行 年次報告 2019 表 9:ラテンアメリカ・カリブ海地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 456 519 565 人口増加率(年率、%) 1.5 1.2 0.9 1 人当たり国民総所得(GNI) 3,741 7,719 7,968 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.7 4.4 0.9 1日1.90ドル未満で生活している人口(100万人) 63 b 36 24 平均寿命、女性(歳) 74 77 79 平均寿命、男性(歳) 68 71 72 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 95 98 99 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 94 97 98 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,095 1,376 1,530 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 11.8b 6.1 3.9 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 17 12 10 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)c SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 104 84 70 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 35 25 19 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 98 99 98 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 60 66 67 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 15 23 31 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 90 94 96 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 73 81 84 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 91 96 98 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 31 31 30 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 3 33 60 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 c.発育阻害率は全所得レベルを含む。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/lac 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 33 中東・北アフリカ地域 中東・北アフリカ地域の 2019 年度の成長は、世界的な経済の減速と金融市場の 不安定性が要因となり 2018 年度の 1.6%を下回る 1.5%にとどまる見通しです。 域内の 1 人当たり実質成長率はマイナス 0.1%で、2018 年のマイナス 0.2%から わずかに改善する見込みです。 イエメン共和国とリビアでは紛争が続き、シリアでも、下火になってはいるもの の紛争は継続しています。そのため域内の極度の貧困率は、2011 年度の 2.7%か ら 2015 年は 5%へとほぼ 2 倍に上昇しました。イラクでは、復興と再建が遅々と したペースながらも進んでいます。エジプト・アラブ共和国は、財政及びエネル ギー分野での徹底した改革により 2019 年度は 5.5%の成長が見込まれます。 ヨルダンとレバノンは、数百万人に上る難民の受け入れが経済的に負担となってい ることから大規模な経済改革の準備を進めています。チュニジアは、議会選挙と 大統領選挙を控えていることから、改革政策の進捗が遅れています。一方、モロッコ は低成長ながらも引き続き安定しています。ジブチは2019 年度の成長率が域内最高 の 7%を記録したにもかかわらず、国内の高い貧困率にはほとんど影響が見られま せんでした。湾岸協力会議(GCC)諸国の成長率は引き続き約 2%でしたが、多 くの国で改革が行われました。特に顕著だったのはサウジアラビアです。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行は、中東・北アフリカ地域の 19 件のプロジェクトに対し 55 億ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 49 億ドル、 IDA 支援承認額が 6 億 1,100 万ドルでした。有償助言サービスからの収益は、対 GCC 諸国を含め、総額約 5,600 万ドルに上りました。助言サービスは拡大され、 GCC 諸国での改革プロセスに引き続き支援を提供しています。 同地域における世界銀行の戦略の中心は、平和と社会的安定の促進です。2018 年度には戦略が拡大され、開発資金の調達、人的資本、デジタル開発が新たに重点 として加えられましたが、新たな社会的盟約の構築、域内協力の強化、難民問題へ の対応も含めた強靱性の構築、経済の回復と再建の支援という 4 つの柱(Pillar) から成る構成に変更はありません。拡大された戦略には、持続可能かつ包摂的な 成長、人的資本への投資、強靱性の強化という世界銀行の 3 つの重点課題が取り入 れられています。世界銀行の活動の多くは、上記 4 つの中から複数の柱、そして新 たな重点分野を掲げて進められています。 社会的盟約の一新 中東・北アフリカ地域における世界銀行の重点課題には引き続き、民間セクター を対象とする包摂的で説明責任を備えた構造の推進、雇用の量的・質的改善、並び にデジタル技術がもたらす教育、健康、機会が含まれています。例えば、モロッコ 表 10:中東・北アフリカ地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 4,869 5,945 4,872 5,335 3,281 4,790 IDA 1,011 430 611 391 569 647 実行中プロジェクトのポートフォリオ:193 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 34 世界銀行 年次報告 2019 の金融包摂・デジタル経済プログラム(7 億ドル)は起業とデジタル機会を拡大す るものです。チュニジアの革新的スタートアップ・中小企業プロジェクト(7,500 万ドル)は、デジタル技術に特化した起業家を含め、スタートアップの成長加速 システムを支援しています。エジプトの包摂的成長のための民間セクター開発プロ グラム(10 億ドル)は、零細起業家向けモバイル・サービスの普及を進め、スタート アップ向けの資本市場と環境を強化し、税制の近代化を図ります。 域内協力の強化 中東・北アフリカ地域は、経済統合の進捗が世界で最も遅れている地域です。そ こで世界銀行は、国境を越えた投資の拡大と域内市場促進のため、エネルギー・ セクターと民間セクターを中心に、協力、効率性、相互依存の拡大を図っていま す。ヨルダンの第 2 次公正な成長と雇用創出プログラム(15 億ドル)は、効率化と 民間セクター参加を重視しながら、外国、特に GCC や域内諸国からの投資に対す る市場開放に重点を置くものです。ヨルダン及びレバノンでの新たな電力改革プロ グラムは、域内の連携促進を可能にすると共に、域内の投資家を呼び込むことが 期待されています。エジプトの雇用創出のための起業プロジェクト(2 億ドル)は、 新規事業のための環境整備を通じ投資家が革新的な地元企業に投資する機会を拡大 します。 強制移動に対する強靱性の構築 域内諸国、特にジブチ、イラク、ヨルダン、レバノンでは、引き続き強制移動 (難民及び国内避難民)が地元自治体にとっての課題です。ジブチでは多くの避難 民・難民が都市部に住みついており、IDA18 の難民サブウィンドウも資金援助し ている 2 千万ドルのプロジェクトを通じ、12 万人以上の住民を対象に、都市・ 社会サービスへのアクセス向上と雇用機会拡大が進められています。ヨルダンでは 緊急保健プロジェクトに対する 1 億 4,100 万ドルの追加支援が行われ、シリア 難民および受入コミュニティへの保健サービスが重点的に実施される予定です。 ヨルダンの緊急保健プロジェクトには、難民危機の影響下にある中所得国向けに ドナー9 カ国及び EU の資金で支えられているグローバル譲許的資金ファシリティ (GCFF) か ら の 資 金 も 提 供 さ れ る 予 定 で す。GCFF は こ れ ま で に 域 内 で 世界銀行が融資した 9 件のプロジェクトに対して 4 億 5,200 万ドルを承認してお り、これにより 21 億ドルが動員されています。 経済の復興と再建の支援 復興と再建は(承認が可能な状況の場合は、紛争の只中にある人々への支援を 含む)、特に紛争が沈静化または終結した後の世界銀行の地域戦略にとって鍵とな る要素です。イラクの電力事業再建・強化プロジェクト(2 億ドル)では、民間投資 図 5:中東・北アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 55 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 6% 0% 農業・漁業・林業 運輸 0% 10% 教育 社会的保護 13% 16% エネルギー・採取産業 行政 15% 18% 金融セクター 情報通信技術 6% 産業・貿易・サービス 10% 6% 保健 地域別展望 35 を促進しながら、補修及びサービス拡大が進められます。今なお紛争からの回復 途上にあり暴力が頻発するガザでは、ガザ労働引換緊急現金給付・自営業支援プロ ジェクト(1,700 万ドル)が小規模事業者及び貧困層を対象とする現金給付プロ グラムを実施すると共に、ガザ緊急労働集約プロジェクトへの 1 千万ドルの追加 融資を通じ脆弱層に一時雇用の機会を提供しています。2019 年度、イエメン共和国 は、保健と栄養、都市サービス、一時雇用、電力の緊急提供のために3 件のグラント (総額 5 億 4 千万ドル)を受領しました。 プロジェクト紹介 モロッコの金融包摂とデジタル経済 モロッコは、大規模な公共投資と広範な改革により過去 15 年間で飛躍的な社会的・ 経済的発展を遂げると共にマクロ経済の安定性を確保してきましたが、依然として深刻な 開発課題に直面しています。雇用創出が落ち込み、若者と女性を中心に失業率が高く、 サービスが行き届かず、社会的・地域的な格差が根強く残っています。新たな雇用創出の 鍵となる民間セクター開発は包摂性に欠け、起業家や中小企業(SME)は資金調達への アクセスが難しい状況です。教育システムも、就業に際して要求されるスキルを育成する に至っていません。 こうした中、世界銀行は、総合的な対策を講じて、デジタル化と金融包摂に関する国家 戦略を軸とする、モロッコ政府の 2017~21 年度プログラムを支援しました。世界銀行 と同国政府により共同開発された金融包摂・デジタル経済プログラムは、若者や女性を 中心に起業の可能性を開くと同時に、デジタル技術を活用した金融包摂の拡大、スタート アップや中小企業の支援を目的としています。これにより同プログラムは、近代的な ブロードバンド回線の普及及び全国的なデジタル決済システムを同地域で短期間で創出す るための理想的なプラットフォームとなりました。完成は 2021 年の予定です。 同プログラムは相互に関連する 3 つの柱から構成されています。第一の柱は、制度面・ 規制面の変革と共に、従来型及び代替的な金融商品の多角化により金融包摂の強化を目指 すもので、特に女性を重点対象とするマイクロ・ファイナンス、アグリ・ファイナンス、 保険が対象です。第二の柱では、接続性とモバイル決済の拡大を重点にデジタル・プラット フォームとインフラ開発を促進し、第三の柱では、デジタル起業家を支援します。同プロ グラムは、政府及び民間セクターが主体的に進めており、その実績は、マラケシュで開催 される 2021 年 IMF・世界銀行年次総会で紹介される予定です。 36 世界銀行 年次報告 2019 表 11:中東・北アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 279 333 383 人口増加率(年率、%) 1.8 1.8 1.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,576 3,983 3,868 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.6 3.4 1.3 (100万人) 10 1日1.90ドル未満で生活している人口 c b 8 16c 平均寿命、女性(歳) 71 74 75 平均寿命、男性(歳) 68 70 71 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 80 84 87 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 89 91 92 二酸化炭素排出量(100 万トン) 872 1,282 1,418 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 3.4b 2.3 4.2c 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 23 18 15 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)d SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 125 99 90 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 46 30 25 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 81 91 89 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 24 25 25 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 4 11 17 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 87 90 92 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 83 86 88 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 91 95 98 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 3 3 3 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 <1 21 50 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 同地域の貧困データは 2015 年のものであり、域内の紛争や脆弱性のために変化している可能性 c. がある。 d.発育阻害率は全所得レベルを含む。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/mena 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 37 南アジア地域 南アジア地域は旺盛な民間消費、回復傾向にある輸出、政策改革とインフラ刷新 に伴う投資に牽引され、引き続き世界で最も急成長を遂げている地域であり、経済 成長率は 2019 年が 6.9%、2020 年が 7.0%、2021年が 7.1%と予測されています。 政治的にも安定しており、大半の国の政権移行が民主的かつ平和的に進められてい ます。この見通しを阻むリスクとしては、輸出の軟調化、財政再建の遅れ、赤字の 拡大、自然災害による混乱等、主として国内要因から生じるものが挙げられます。 力強い成長に伴い域内の貧困は減少し、保健及び教育の面でも大きな進歩が見ら れます。にもかかわらず、1 日 1.90 ドル未満で生活している人の割合は、2015 年には 12.4%、人数にすると約 2 億 1,600 万人1 に上り(世界の貧困層の 3 分の 1 に相当) 、多次元貧困指数は世界平均を上回っています。更に、多くの国で極端な 社会的排除や深刻なインフラ・ギャップが存在しています。同地域はまた、近代で は最多の難民が発生しており、国連の推定によると 2017 年 8 月以降 74 万人を超 えるロヒンギャ難民がバングラデシュに逃れています。 世界銀行の支援 2019 年度、世界銀行は南アジア地域の 54 件のプロジェクトに対し総額 89 億 ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 40 億ドル、IDA 支援承認額が 49 億ドルでした。また、域内 8 カ国への 178 件の助言・分析サー ビスを通じて、エネルギーセクター改革、女性の労働参加、気候変動といった分野で 専門的助言を提供し、その総額は 7,900 万ドルに上りました 世界銀行の同地域に対する戦略は、包摂的成長の持続、国民への投資、強靱性の 強化が重点課題であり、民間セクター主導による雇用創出のための政策改革、セク ター横断的な方法による発育阻害対策、女性の労働参画の促進、難民・帰還者・ 国内避難民の支援、災害への備えと管理等を通じた気候変動リスクへの対応を重視 しています。 持続可能な成長の支援と雇用の創出 南アジア地域は投資と輸出の両方の堅調な伸びがなければ高水準の成長を維持す ることはできません。更に、今後 20 年間にわたり毎月 150 万人が雇用市場に加わ ると推定されることから、雇用の創出は不可欠です。こうした課題に対応するた め、世界銀行はバングラデシュで、雇用問題に対処すると同時に労働者保護と強靱 性構築のシステムを強化する雇用プログラム開発政策プロジェクト(2 億 5 千万 ドル)等を進めています。アフガニスタンでは、女性の経済的エンパワーメントに よる農村開発プロジェクト(1 億ドル)を通じ、貧しい農村女性の社会的・経済的 エンパワーメントの拡大を目指しています。 世界銀行はまた、民間セクターの持続可能なソリューション活用を通じた途上国 この推定値は域内人口の 40%未満を基に算出。推定値割出しの基準は、当該年のものとされる 1  調査の内、少なくとも 1 件が基準年から 2 年以内に実施されたものであること。 表 12:南アジア地域 2017~19 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2017 年度 2018 年度 2019 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 IBRD 2,233 4,508 4,011 1,454 1,698 2,598 IDA 3,828 6,153 4,849 3,970 3,835 4,159 実行中プロジェクトのポートフォリオ:534 億ドル(2019 年 6 月 30 日現在) 38 世界銀行 年次報告 2019 の開発資金最大化を目指しています。ネパールでは、連続する 2 件のプロジェクト の内 1 件目となる 1 億ドルのプロジェクトで、電力部門の財政的存続可能性と ガバナンスを強化しました。また、IDA18 の IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウ からのアッパートリシュリ1水力発電所のための 1億 300 万ドルの融資と保証によ り、リスクが抑えられ、民間セクターの投資が促進されます。インドでは太陽光 発電・ハイブリッド技術革新プロジェクト(4 億ドル)を通じ、再生可能エネル ギー及びバッテリーを用いたエネルギー貯蔵のソリューションを推進しています。 人的資本への投資と包摂的成長の支援 成長の原動力である人的資本の強化のため、世界銀行は南アジア地域で教育への アクセスと教育の質の向上、子供の発育阻害と栄養不良への対策、保健システム及 び保健サービスの拡充、最貧困層を守るセーフティネット拡大を進めています。 世界銀行は開発パートナーと共にブータン、ネパール、パキスタンにおいて人的 資本サミットを開催しました。新たな報告書 「Pakistan@100: Shaping the Future (仮題:Pakistan@100:将来を形作る)」は、パキスタンが 2047 年までに国民を より豊かにし、より良い教育を提供し、より健康にするためには国民への投資を質 と量の両面で高めることが急務であると強調しています。また、インドの結核撲滅 プログラム(4 億ドル)等は、保健・栄養サービスの質・アクセスの向上に向けた 過去の取組みを踏まえたものです。 紛争及び気候変動への強靱性の促進 南アジア地域では、紛争と脆弱性のリスク増大に伴い難民の数が膨らみ、国境で の緊張が高まりつつあります。世界銀行はパートナーと協力し、多数の難民の流入 が続く都市での雇用と経済機会の強化を目指すアフガニスタン Eshteghal Zaiee– Karmondena プロジェクトへの 2 億ドルのグラント等、 難民や受入れコミュニティ への基本的サービス提供に努めています。 加えて、南アジア地域は、気候変動により誘発される自然災害や海水面上昇等に 極めて脆弱です。報告書「South Asia’s Hotspots: Impacts of Temperature and Precipitation Changes on Living Standards(仮題:南アジアのホット スポット:気温・降水量の変化による生活水準への影響) 」は、同地域では生計 手段が気候変動の影響を受けやすい地区に8 億人が暮らしていると指摘します。対応 策の成否は炭素排出量の削減、エネルギー構成の変化、気候変動の影響緩和、強靱 性の構築にかかっています。例えば、スリランカの気候変動に強い灌漑農業プロ ジェクト(1億 2,500 万ドル)は、気候変動対応型農法の導入と水管理の改善を通 じて農業の生産性と多角化の向上を目指すものであり、インドのアンドラ・プラデ シュ州総合的灌漑農業変革プロジェクト(2 億 4,600 万ドル)は、自作農の生産性、 収益、気候変動への強靱性を高めることが目標です。バングラデシュの持続可能な 林業と生計プロジェクト(1 億 7,500 万ドル)は、より効果的な森林管理と森林に 図 6:南アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資 – 2019 年度 総額 89 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 8% 13% 農業・漁業・林業 運輸 20% 6% 教育 11% エネルギー・採取産業 社会的保護 3% 2% 金融セクター 行政 15% 11% 保健 情報通信技術 4% 7% 産業・貿易・サービス 地域別展望 39 依存するコミュニティの利益拡大を目指すもので、女性と青年期女子が重点対象と なっています。 域内統合の推進 南アジア地域は依然として、経済統合が世界で最も遅れている地域の 1 つです。 そのため世界銀行は、域内諸国間での貿易、交通網やエネルギー取引、長期的な水 の安全保障と環境の持続可能性の拡大に取り組んでいます。カイバル峠経済回廊 プロジェクト(4 億 6 千万ドル)は、鍵を握るこの回廊に沿った域内連携の向上と 民間セクター開発の推進を通じて、パキスタンとアフガニスタンの間での経済活動 拡大を目指します。報告書「Exports to Jobs: Boosting the Gains from Trade in South Asia(仮題:輸出雇用比率:南アジア地域の貿易利益の拡大) 」は、労働 市場政策がいかにして、多様な労働者それぞれに求められる適正技能の習得に役立 ち、輸出拡大による利益の社会全体での幅広い共有につながるかを分析していま す。 ま た、 報 告 書「A Glass Half Full: The Promise of Regional Trade in South Asia(仮題:楽観的展望:南アジアの域内貿易の展望」は、貿易統合にお ける深刻な障壁を解明し、貿易と統合の主要分野における目に見える改善を助け、 域内の全ての国に恩恵をもたらす的確かつ実施可能な政策提言を示しています。 プロジェクト紹介 ネパールを魅力的な投資先に ネパールは、4 年前に壊滅的な地震によって数千人が犠牲となり、その後も混乱が続い ていましたが、今日、将来の展望はかなり明るくなったと言えます。極度の貧困率は着実 に低下傾向にあり、成長率も過去 2 年間は比較的堅調に推移しています。また、数十年ぶ りに安定多数の議席を有する政権が誕生し、長期的な開発ビジョンの遂行に当たっていま す。外国直接投資の促進、事業環境の改善、知的財産の保護を目的とした新法も制定され ました。 こうした要因により、ネパール政府が 2019 年 3 月に開催したネパール投資サミットに は 40 カ国 300 社以上の企業から 700 人を超える外国人投資家が集まりました。サミット 終了時までに、水力発電及び太陽光発電、5G ネットワーク・サービス、高級リゾート、 穀物貯蔵倉庫、官民パートナーシップの開発等に関する 15 件の契約が締結されました。 それ以外にも、政府が紹介した 77 件のプロジェクトの内 11 件に投資家からの申し込み がありました。 世界銀行グループは、マレーシアとシンガポールの投資家の関心を惹くために資金と 技術を提供し、両国内で各地を巡回するプレサミットを主催しました。これは、50 年 以上に及ぶネパールへの支援、そして 2030 年までに中所得国入りするという同国の意欲的 な目標達成に向けた世界銀行のコミットメントを改めて示すものです。 40 世界銀行 年次報告 2019 表 13:南アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状a 傾向 総人口(100 万人) 1,391 1,639 1,814 人口増加率(年率、%) 1.9 1.4 1.2 1 人当たり国民総所得(GNI) 444 1,153 1,925 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.1 6.2 5.5 1日1.90ドル未満で生活している人口(100万人) 555 b 401 274 平均寿命、女性(歳) 64 68 71 平均寿命、男性(歳) 62 66 67 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 63 77 86 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 80 87 90 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,181 1,969 2,516 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、 38.6b 24.6 16.1 2011 年 PPP、%) SDG 2.2 発育阻害率 51 42 35 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%)c SDG 3.1 妊産婦死亡率 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり) 388 228 182 の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 94 63 45 (出生児千人当たり) の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 70 88 95 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 36 34 34 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 8 20 18 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全で安価な飲料水を利用できる人 82 86 88 (人口に占める割合、%) SDG 6.2 適切な衛生設備を利用できる人 24 39 46 (人口に占める割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人 57 75 86 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 53 42 38 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 <1 7 30 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~18 年までの最新データ。それ以降のデータについては data.worldbank.org をご参照 a. ください。 2002 年のデータ。貧困に関する推定値は iresearch.worldbank.org/PovcalNet/data.aspx b. の地域別データをご参照ください。 c.発育阻害率は全所得レベルを含む。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/sar 及び data.worldbank.org/country 地域別展望 41 持続可能な開発ソリューションを 援助受入国に提供 現在、世界の貧困率は過去最低の水準まで改善されており、貧困の撲滅と繁栄の 共有促進に向けた国際社会の開発努力は実を結んでいると言えるでしょう。しか し、その勢いは失われ気味であり、地域によって、中でもサブサハラ・アフリカ 地域では、貧困率が依然として高いばかりか上昇傾向さえ見られます。成長を脅か す地球規模課題としては、マクロ経済の厳しい展望、財政負担、自然災害、最貧困 層の所得の鈍い伸び、過去最高水準にある難民の数、紛争と脆弱性の継続等が挙げ られます。更にこうした課題は、世界成長の鈍化だけでなく、貿易障壁、財政圧迫 の再燃、主要国の景気後退といったダウンサイド・リスクによっても増幅しています。 途上国が苦労して達成した成長を維持し、進捗を加速できるよう、世界銀行は他 のパートナーと協力しながら包摂的かつ持続可能な経済成長の促進、人への投資の 量的・質的改善、強靱性の構築に取り組んでいます。世界銀行グループは、最重要 戦略枠組みとしてそのビジョンを示す「フォワード・ルック」の 4 つの柱(全ての 援助受入国を支援、市場を創出、開発資金の動員、地球規模の問題への取組みを 牽引)を指針と定めています。「フォワード・ルック」は、2030 開発アジェンダ と持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための道筋を示しています。 開発分野における世界銀行の強みは、グローバルな経験、幅広いセクターにわた る豊富な知識、主要ステークホルダーの動員力にあります。我々は、セクター横断 的な観点から問題を捉え、最大限のインパクトを確保し、より総合的なソリュー ションを提供すべく尽力しています。例えば、安全かつ定時性の高い輸送機関への 女性・女児のアクセス確保、気候変動の影響に耐えられる強靱なインフラの構築、 脆弱性・紛争・暴力の影響下にある地域での保健システムの向上等、対象はあらゆ る分野に及びます。世界が複雑さを増し相互に結びついていく中、世界銀行は、 援助受入国がそれぞれの開発課題に対する持続可能なソリューションを見出せるよ う、複数の地域やセクターに広がる取組みを進めています。 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 43 包摂的かつ持続可能な成長 債務の透明性促進 借入れによる資金調達は開発のために重要であり、効果的に活用すれば、調達し た投資資金を持続的かつ包摂的成長の達成に役立てることができます。しかし、 新興国や途上国では債務がリスクとして表面化してきており、堅実な制度、プロセス、 返済能力を重視した慎重な公的債務管理の必要性が高まっています。 公的債務管理への支援では、大きく 3 つの側面の強化を目指しています。まず、 債務の透明性が促進されれば、借入国にとっては情報を吟味した上で借入れ判断を 下すことが可能になり、債権者や格付機関にとってはソブリンの信用力の評価や 債券の適切な価格決定につながります。次に、各国による債務・財政リスクの効果 的管理は、財政の脆弱性抑制、マクロ経済の安定への貢献、債務持続性の確保、 投資家間での自国の評判維持に結びつきます。そして、偶発債務による財政リスクの 監視・管理の強化は、自国の債務水準が持続不可能な水準に陥ることを予防します。 2018 年に、世界銀行と IMF は新協調プログラム「新たな債務脆弱性に対する 世界銀行・IMFの多面的アプローチ」を発表しました。このプログラムは、SDGs 等 の国際的開発アジェンダに沿うもので、債務脆弱性の監視強化、債務の脆弱性低下に 向けた構造改革、債務の透明性向上、債務管理に関するキャパシティ・ビルディング の拡大を進めていきます。本プログラムの主な要素や持続可能な資金調達について は、IMF と世界銀行が G20 のために作成したペーパーに示されています。 世界銀行はまた、IMF と共同で、低所得国のための債務持続性枠組みを実施しま した。同枠組みは、債権者が将来のリスクを予測して融資条件を調整することを 可能にし、借入国が資金の必要性と債務返済能力との間でバランスを取る上で役立 ちます。このように同枠組みは、借入国の利息負担能力が限定的な場合に、いかに して SDGs 達成を目指していくかについての指針となります。 世界銀行独自の債務管理ファシリティは、援助受入国の債務管理能力を強化する ための助言、研修、分析ツール、ピア・ツー・ピア・ラーニングを提供しています。 同ファシリティは、2008 年の設置以降、75カ国以上のキャパシティ・ビルディング 及び改革を進め、290 件以上の技術協力を実施してきました。2019 年、世界銀行 は同ファシリティの第 3 フェーズとして、債務の管理と透明性の拡大に着手しま した。 万人に恩恵をもたらす国際貿易のビジョンの推進 貿易は、雇用創出、貧困削減、経済機会の創出を通じて、成長の鍵を握る原動力 となります。1990 年以降、開放的な貿易によって支えられた成長により、10 億人 以上が貧困から脱出することができました。貿易はまた、女性の経済的包摂の促進 にも貢献します。途上国の輸出業者は非輸出業者と比べ女性を多く雇用しており、 輸出加工区では労働者の内、最大 90%を女性が占めています。 世界銀行グループは、誰もが貿易の恩恵を受けられるよう、強力なセーフティ ネットを備えた強靱な経済、将来の仕事に備える教育、再研修、求職支援、転職に 伴う転居費の補助等、広範な改革と投資を促進しています。 グローバル・バリューチェーンは、開放的な貿易に欠かせない要素であると同時 に、雇用創出に大きく貢献する要素でもあります。経済の多様性が乏しい国や経済 規模の小さい国が世界経済の中でニッチ市場を見いだすために役立ち、 バングラデシュ、 コスタリカ、レソト、ベトナム、そして最近ではエチオピア等、多くの国がこの アプローチを用いて成長率を大幅に高めています。 「2020 World Development 」ではバリューチェーンがテーマになります。 Report(世界開発報告2020) 44 世界銀行 年次報告 2019 貧困動向データの収集 世界的には極度の貧困の削減に著しい進歩が見られるものの、低所得国、紛争や政治的 混乱の影響下にある国々の貧困率は依然として高い水準にあります。サブサハラ・アフリカ 地域では貧困人口が増加しており、2015 年の同地域における極度の貧困層の人口は、同 地域を除いた世界全体の貧困人口を上回っています。最も楽観的なシナリオを除く全ての 予測が、同地域の貧困率は 2030 年になっても依然 2 桁のままであるとしています。 取組みの第一歩としては、データの精度を高めより多く収集することが挙げられます。 世界銀行は 2015 年、世界の最貧国による 3 年ごとの世帯調査の実施を支援することを明 らかにしました。3 年毎というのは、貧困対策の進度を把握する上で必要な頻度です。 世界銀行の支援を受けてサブサハラ・アフリカ地域の 41 カ国が 2015~18 年に世帯調査 を実施しました(2012~15 年はわずか 18 カ国)。2018~20 年には、サブサハラ・ アフリカ地域の人口の 76%を占める推定 34 カ国が調査を実施する予定です。世界銀行は、 アフリカ及びその他の地域においてもこのペースでの実施を目指します。 経済改革を通じた包摂的でより良い雇用の創出拡大 経済成長には、社会を変革し、所得を押し上げ、市民の繁栄を促進する力があり ます。とは言え、成長だけで十分なわけではありません。貧困削減と繁栄の共有 促進には、より包摂的でより良い雇用の創出を拡大するような成長が求められてい ます。金融アクセスの拡大、技能訓練の強化、強力な民間セクターの支援、持続 可能なインフラの構築はいずれも人々を雇用機会と結びつけ、最貧国における極度の 貧困撲滅を後押しします。 今後 10 年間に求職者は 6 億人近くに上り、その大半を世界の最貧国の人々が占 めると予測されます。南アジア地域だけを見ても、域内の人口拡大に伴い年間 1,300 万人分以上の雇用創出が必要となります。サブサハラ・アフリカ地域では、 人口が少ないにもかかわらず状況は更に厳しく、新たに年間 1,500 万人分の雇用 が必要になります。24 歳未満が人口の 60%を占める中東・北アフリカ地域では、 毎年 1千万人分の雇用創出が必要です。途上国の大半は、 経済のフォーマルセクター における雇用創出の拡大、インフォーマル雇用の質の向上、雇用やより良い雇用 と脆弱層の結びつき、という 3 つの課題に直面しています。 世界銀行は、3 つの柱から成る総合的かつセクター横断的な雇用戦略の策定と 実施を支援しています。第一に、雇用診断により、援助受入国が雇用面の主要課題 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 45 をマクロレベル、企業レベル、世帯レベルで特定することを可能にします。この 診断は、世界銀行の体系的国別診断及び国別パートナーシップ枠組みに欠くことの できない部分です。第二に、グローバルな知識を動員し、頻発する雇用問題の解決策 を特定します。そして第三に、投融資プロジェクトや政策改革を通じて援助受入国 による雇用戦略を実施します。更に世界銀行は、各プロジェクトで雇用成果測定 方法を標準化するモニタリング・評価ツールを設計しました。 援助受入国の雇用創出支援を最前線に立って進めてきたのが IDA であり、雇用 と経済的変革は、現在実施中の IDA18 の 3 年間の対象期間でも特別テーマの 1 つ に挙げられています。金融商品や拡張アナリティクスを用いて、雇用インパクトを 評価測定する新たなツールを適用するなど、革新的なプロジェクトに資金を提供し ています。2019 年 6 月現在、世界銀行が実施する雇用関連プロジェクトは 579 件、 投資総額は約 780 億ドルです。 ヨルダンでは、成果連動型プログラムの下、シリア難民の流入に対する全体的 アプローチを用いて受入れコミュニティと難民を支援しています。同プログラムは、 新規投資を誘致すると共に原産地規則の簡素化によるEU市場アクセスをより容易にす ることを目指しており、ヨルダン国民及びシリア難民のための雇用創出を助ける一方 で、紛争後のシリア経済を支援しています。同プロジェクトでは、これまでに約4 万 。 3 千人の難民に労働許可を発行しています(目標は 2019 年 12 月までに 13 万人) 全ての市民に役立つ実効的かつ説明責任を備えた制度の構築 世界銀行の国別意識調査では、援助受入国の最大の懸念は不正とガバナンスの 問題であることが以前から確認されています。このため世界銀行は、援助受入国が 不正の問題に取り組み、組織・制度面の質と能力を高め社会的盟約を強化できるよ う取り組んでいます。インドネシアでは 3 段階の公共支出レビューを行った結果、 成長推進及び貧困削減プログラムへの予算配分が拡大され、社会的保護、教育、 保健、水をはじめ様々なセクターでこれまで以上に実効的なプログラムが設計・ 実施されました。 リベリアでは、公共セクターにおける給与管理の強化を通じて賃金と業績の改善が 進められました。同プロジェクトは、給与の透明性と予測可能性、並びにキャリア・ トラック、階級、採用、昇進等、人的資本の問題の改善の他、賃金管理の改善も 支援しました。 貧困国や脆弱国が開発のための資金を調達しマクロ経済の安定を確保する上で 課題となるのが財源不足です。世界銀行はその国の政府と共に財源不足について 診断評価を実施している他、政策改革による税基盤拡大を通じた付加的な財源調達 や、税法の順守・施行、テクノロジーを用いた徴税の強化に取り組んでいます。 民間セクターの成長を促進する市場へ 世界銀行グループは、援助受入国による開発資金の動員を支援する上で、特に 民間投資家の参加を促すことに重点を置いています。上流部分での市場環境整備 改革支援と下流部分での財政面・技術面でのプロジェクト支援を組み合わせ、融資や アドバイザリー・サービスを通じて公共セクターのリスクや民間セクターの参入 障壁の軽減を進めています。重点対象は、 健全な財政政策やマクロ経済管理の徹底、 ミクロ経済改革の推進、国内のビジネス環境の改善です。 国別民間セクター診断は、民間セクター投資に対するその国の経済全体及びセクター 別の制約について評価し、そうした制約に対処するための政策提言を目的とした 世界銀行の新サービスであり、現在 25 カ国以上で診断を進めています。例えば ネパールの開発政策プロジェクトでは、国別民間セクター診断の結果を分野横断的 な提言として示しています。ネパールは 「より良い規制ユニット」 を首相府内に設置 しており、世界銀行グループは運輸基本計画に関する助言を行っています。また、 金融アクセスの拡大、技能の向上、エネルギー、観光業、アグリビジネスの各セク ター支援も予定されています。 共同資本市場プログラムは、8 カ国と 1 小地域が対象で、共同診断とセクター別 46 世界銀行 年次報告 2019 イニシアティブに加え、革新的な実証的取引を通じて資本市場開発を促進しようと いう世界銀行グループのアプローチです。これにより開発における民間セクター 投資のクラウドイン効果を高める政府の取組みを強化し、現地資本市場と金融の 強靱性に関する G20 のコミットメントを支えていきます。世界銀行グループ及び 援助受入国から専門家を動員し、市場の創出、シナジー効果の実現、システミックな 影響の拡大を図ります。 金融安定の確保・維持も、成長の推進にとって不可欠な要素です。IMF との共同 イニシアティブである金融セクター評価プログラムは、20 年間にわたり政策対話 と金融セクター改革を促進してきました。2019 年度、8 件の評価が完了し、更に 10 件が継続中または開始されています。同プログラムはその柔軟性と金融政策 環境の変化を反映し、フィンテック、サイバー・セキュリティ、気候変動リスクと いった分野まで対象を拡大中です。 インフラ向け資金とソリューションの提供 SDGs が目指す基本的なサービス及びインフラのニーズを援助受入国が満たし、 世界中の数十億人が抱く希望をかなえることは容易ではありません。世界銀行は、 アクセス拡大、サービスの質の向上、コスト低減、持続可能性に重点を置き、途上 国におけるインフラ整備とそのための資金調達に向けて総合的アプローチを行って います。 その際に基盤となるのが、インフラ整備のための資金、技術革新、専門知識を 可能な限り活用しようという世界銀行のコミットメントです。乏しい公的資金を、 民間からの資金提供が最適ではない、または利用できない分野のため確保しておく ことが必要になるからです。これは世界銀行、IFC、MIGA の協力関係の強化を表 すものでもあります。プロジェクト・レベルでは、インフラ課題に対する持続可能 かつ予算内で活用可能な民間ソリューションを世界銀行グループのスタッフが模索 します。適当なソリューションが存在しない場合には、政策改革やリスクへの対処 による成果の達成が検討されますが、その際、IDA18 で開始された IFC-MIGA 民間 セクター・ウィンドウによるリスク低下も検討対象となります。世界銀行は、財務 面の実行可能性とサービス提供の向上に向けたセクター改革についてのビジョンを 援助受入国と共有した上でプロジェクトを進めています。 世界銀行グループは、国レベルにおいて、援助受入国が優先度の高いインフラ 投資とパフォーマンス向上のために民間セクターの資金や専門性を活用できるか否 かを評価します。そのために、インフラ・セクター評価プログラム(インフラ SAP)と呼ばれる標準化されたアプローチを策定しており、官民ソリューションの 適正な組み合わせを見出すための政策改革、アドバイザリー・サービス、投資から 成るパッケージを提供しています。 この取組みは、いくつかのパートナーシップや資金調達メカニズムによって支え られています。そのひとつであるグローバル・インフラストラクチャー・ファシリティ (GIF)は、途上国でプロジェクトの準備、組成、及び援助受入国への助言を行っ ています。2019 年 6 月 30 日現在、GIF の 70 件のプロジェクトに対して総額 660 億ドル以上の投資の動員が予想されています。また、比較的堅調な途上国の投資 環境を支援する官民インフラ助言ファシリティは、2019 年度に設立 20 周年を迎え ました。更に、世界銀行と日本政府が立ち上げた「質の高いインフラ投資」パート ナーシップは、効率性、持続可能性、自然災害に対する強靱性に重点を置いてプロ ジェクトの設計規模を拡大しています。 電力の普及とクリーン・エネルギーの拡大 世界銀行は、途上国における再生可能エネルギー及びエネルギー効率プロジェクト に対する最大級の資金提供機関です。また、融資、リスク軽減策、保証、技術面・ 政策面の助言を通じて援助受入国におけるクリーン・エネルギーへの転換を支援 しています。 電力へのアクセスを持たない人口は世界全体で 8 億 4 千万人に上り、この内 5 億 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 47 7 千万人以上がサブサハラ・アフリカ地域に暮らしています。世界銀行は 2014~ 18 年度、新たに 5,200 万人以上を対象とする電力接続を支援するなど、エネル ギ ー・ ア ク セ ス の 支 援 を 大 幅 に 拡 大 し ま し た。IDA18 期 間 中、 カ メ ル ー ン、 エチオピア、ケニア、レソト、マダガスカル、モザンビーク、ザンビア等、深刻な 財政赤字を抱える国々の送電網及びオフグリッドによる電力アクセスのため、10 億ドル以上を提供する予定です。また、クリーンな調理・暖房手段のため 3 億 5 千 万 ド ル 相 当 の ポ ー ト フ ォ リ オ も 管 理 し て お り、 こ れ ま で の 受 益 者 は 37 カ 国 2 千万人近くに上ります。 2018 年、世界銀行は途上国のエネルギー・システム向け蓄電池への投資を促進 する 10 億ドルのプログラムを発表し、官民両セクターから更に 40 億ドルの投資 誘致を目指しています。南アフリカでは、将来の多様な再生可能エネルギーに 備え、容量 1,440 メガワット時の蓄電池開発に取り組んでいます。インドでは、 太陽光・ハイブリッド技術革新プロジェクトにより、蓄電池等の革新的な再生可能 エネルギー技術の規模拡大に向けて組織・制度面の機能強化を進める予定です。 世界銀行のエネルギー関連融資は、政策環境整備及びセクター改革を支援すると 共に、官民パートナーシップの促進と民間投資の動員を目指しています。例えば アルメニアでは、国内初の競争入札による太陽光発電プロジェクトを支援し、競争 力のある料金設定を確保することができました。カメルーンでは、ナハティガル 水力発電プロジェクトが世界銀行の保証を受けています。同プロジェクトにより国内 の発電設備容量を 30%増強することが可能になります。 世界銀行は 2019 年 5 月、クリーン・エネルギーへの移行に不可欠とされる鉱物 や金属の採掘の持続可能性向上を目指す気候変動対応型鉱業のためのファシリティ を立ち上げました。同ファシリティは、新興国が戦略的鉱物・金属への需要増大に よる恩恵を受けられるよう支援します。 人々をサービスや機会と結ぶ 運輸は、社会 ・経済開発、そして極度の貧困の撲滅にとって不可欠です。モビリティ というソリューションは、数十億人を雇用、教育、保健サービスと結び付け、都市 や国が競争力や包摂性を確保するために役立ち、国際貿易や成長を促進します。 モロッコの農村部では道路アクセス向上の結果、女児の就学率が 3 倍になりました。 タイでは、交通事故による死亡者数が 50%減少すれば、GDP が 20 年間で 22% 上昇する可能性があります。 運輸における持続可能性の確保には 4 つの必須目標を満たすことが必要です。 まず、貧困層、女性、脆弱層を含め誰もが利用可能であること。二つ目に、環境に 優しいこと。運輸セクターはエネルギー起源の温室効果ガス排出量の内 23%を占 めています。そして三つ目は、安全であること。交通事故の犠牲者は、年間 130 万人にも上ります。最後に、効率的であること。交通渋滞による損失は都市部で 毎日数百万ドルに上りますが、技術の活用を通じ交通渋滞の削減は可能です。 2019 年度、世界銀行の主導した「万人のための持続可能なモビリティ」イニ シアティブにより、各国が運輸分野の課題に総合的に取り組むための政策措置の目標 4 つを初めて示した「持続可能なモビリティに向けたグローバル・アクション・ ロードマップ」が策定されました。また世界銀行は、世界各地の電気モビリティ・ プログラムの原則を示す画期的な報告書も発表した他、 運輸専門家のキャパシティ ・ ビルディング促進のためにアフリカ地域の学術機関と先進国の学術機関とのパート ナーシップを推進しました。小島嶼国にとって深刻な開発課題である接続性と気候 変動への強靱性の促進も 2019 年度の重点課題とされ、アフリカと大洋州の両地域 で 8 件のプロジェクトが承認され、その総額は約 2 億 4 千万ドルに上りました。 転換点にある天然資源管理 海洋汚染、大気汚染、景観の悪化、魚資源の減少により、世界の天然資源は極め て逼迫した状況にあります。世界銀行は援助受入国が自国の自然資本を評価し、 持続可能な開発を支える政策や投資を選択できるよう支援しています。世界銀行の 48 世界銀行 年次報告 2019 ブルー・エコノミー・プログラム及び新設された信託基金「PROBLUE」は、水産 漁業管理の向上及び持続可能な沿岸開発を通じ海洋汚染による脅威への対応を目指 します。やはり新たなイニシアティブである「持続可能性に関するグローバル・ プログラム」 は、18 カ国と協力して、森林、土地、水といった自然資本の経済価値 を評価・測定しています。 大気汚染への対応も重要課題です。2016 年、 大気汚染による世界経済の損失は、 世界 GDP の 4.8%に相当する 5 兆 7 千億ドルに上りました。世界銀行はエジプト・ アラブ共和国、インド、ナイジェリア等、影響の最も深刻な国々を支援していま す。中国の河北省では、工業、農業、自動車、地域の汚染源及び塵、エネルギー 起源の排出量を抑制する活動を進めています。2013~17 年に中国で大気汚染が 最も深刻な 3 地域において大気汚染物質濃度が平均 36%低下しました。世界銀行 の支援による対策も改善に貢献しています。 世界銀行は、森林伐採による炭素排出量の削減に応じた報償等、森林保全のため の 革 新 的 ア プ ロ ー チ の 導 入 を 進 め て い ま す。 例 え ば コ ン ゴ 民 主 共 和 国 及 び モザンビークは2018年、世界銀行と画期的な排出削減報償契約を締結し、森林保護に 取り組むコミュニティに成果に応じた報奨金を支払う仕組みを導入しました。 農民、消費者、地球のために食糧システムを変革 極度の貧困層のおよそ 79%は農村部に住んでおり、最貧困層に数えられる自作 農は世界全体で約 5 億人に上ります。約 3 人に 1 人が十分な食糧を食べていない、 または健康に良くない食事を摂っており、飢え、貧血、肥満、非伝染性疾患に苦し んでいます。現在、食糧生産は温室効果ガス総排出量の 4 分の 1、淡水取水の 70%を占め、様々な形の汚染の主たる原因となっています。 世界銀行は、安全かつ健康的で安価な食糧を持続可能な形で生産している農民の ためにインセンティブを設けることで、その努力に報いるよう、世界資源研究所、 EAT、食糧生産・土地利用連合等と連携しています。また、様々な手段やプログラム を通じて食糧システムの変革を進めています。具体的には、食品ロスや食品廃棄物 の増加要因を把握するための診断、新技術を駆使して農業に影響する異常気象を リアルタイムで分析する Ag Observatory 等の取組み、気候変動に強い生産方法 への移行に向けた種子・肥料等の配布や技術協力、有益なフード・サプライチェーン の活性化と雇用創出のための官民パートナーシップ等です。例えばウルグアイで 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 49 は、新技術の導入により農家が気候変動に強い農法を採用できるよう政府の取組み を支援しています。2021 年には国内の耕地の約 25%で持続可能な土地管理が 行われるようになり、排出量削減と並行して強靱性と生産性が強化されることが 期待されています。 「世界の水の安全保障」を実現 水は開発のあらゆる側面と関係しています。しかし、給水・衛生アクセスにおけ る格差、急速な都市化と人口増加、汚染、気候変動の影響、水を大量に消費する 成長パターン等、数多くの課題があり、水をめぐる懸念は、経済発展、貧困緩和、 持続可能な開発への最大の脅威の 1 つとなっています。 「世界の水の安全保障」を実現するため世界銀行は、援助受入国やパートナーと 共に資源管理の改善、給水・衛生施設の完全普及、農業における水の最適利用に 取り組んでいます。また、水不足の国々の脆弱性に対処しながら、極端な気候現象 に耐え得るシステムを通じた強靱性の構築にも取り組んでいます。 アンゴラでは、80 万人以上の新規顧客に家庭用水を提供する 6 つの水道事業者 の設置・強化の他、新たな規制機関及び水資源管理機関の設置に協力しました。 ベトナムのメコン・デルタでは、気候変動により悪化した洪水及び塩水侵入の影響 を軽減するため、水関連インフラへの投資を促進しました。水資源の保護強化と 効果的な使用を通じて農業生産性の引き上げを実現し、21万 5 千世帯の農家に恩恵 をもたらしています。 2017年に立ち上げられたマルチドナー信託基金「水の安全保障と衛生のグローバル・ パートナーシップ」は、イノベーション、新たな知識と証拠、そして柔軟性を世界 銀行の融資プロジェクトに取り入れることにより、キャパシティ・ビルディング と同時に、現在及び将来の世代に十分な水、食糧、エネルギーを供給するために 必要な組織・制度、インフラを強化し、発想力を高めるよう支援します。また、官民 両セクターと市民社会によるパートナーシップである 2030 水資源グループは、国 の長期的な開発と経済成長のための持続可能な水資源の確保を目的として政府が 促進する改革を支援しています。 デジタル・イノベーションでアクセスと機会を拡大 デジタル技術は、人々をサービスや機会と結びつけるものであり、特に困難な 開発課題の解消に役立つ可能性があります。しかし一方で、テクノロジーの発展は 労働市場や生活の混乱を伴うリスクをもたらします。多くの途上国では、テクノロジー の潜在的な力を活用するためのスキル、企業・法律や規制の枠組みが不十分です。 世界銀行は、援助受入国がデジタル・トランスフォーメーションの経済的枠組み を構築し、競争と成長を促す新たな要因を特定し、技術変革がもたらす新たな ビジネス・モデルが機能するよう支援しています。また、何が技術主導型の開発を 阻むのかを政府と共に探っています。例えば「科学・技術・イノベーション向け 公共支出の見直し」は、政策の策定、優れた実施例の採用、より効果的な調整に 役立つ新たな診断ツールであり、チリ、コロンビア、ウクライナで試験的に実施さ れています。 現在、約 40 億人がブロードバンド・インターネットへの接続を持たず、後発 途上国ではアクセスを持つ人は7人に1人にすぎません。こうしたデジタル格差は、 不平等な状況の一層の悪化を招き、一部の人々が取り残されかねません。世界銀行 はデジタル格差解消に向け、アフリカ地域の 20 カ国を対象にブロードバンド海底 ケーブルへの接続を可能にしており、アフリカ全土でのブロードバンド接続率を 2021 年までに 2 倍にすることを目指しています。アフリカ連合(AU)は、2030 年までにアフリカ大陸全土で人、企業、政府がデジタル化に対応できるようにする ことを目指し、2019 年に意欲的なデジタル・トランスフォーメーション・アジェンダ を立ち上げました。世界銀行による 2021 年までのブロードバンド接続率倍増計画 は、同アジェンダ達成のための重要な通過点となります。実現すれば、デジタル 経済がもたらす機会を駆使して、成長、経済の流動性、イノベーション、雇用創出、 50 世界銀行 年次報告 2019 安価なサービスにアクセスするための道が開けることになります。重点対象は、 デジタル ・ インフラ、プラットフォーム、金融サービス、起業、技能の促進等です。 デジタル技術は、組織や個人が単発の仕事を請け負う労働者と契約できるいわゆ る「ギグ・エコノミー」の成長も推進しています。こうした新たな労働形態によって 正規雇用と臨時雇用の境界が不明瞭になり、基本的に安定的な雇用契約による労働 を想定した社会保護モデルの正当性が疑問視されるようになっています。また、 デジタル時代にあっては、技能に対する需要も変化しています。労働市場では適応力 の価値がますます高まる一方、仕事の本質が変化しているために、技能習得のため の生涯を通じた継続学習が求められています。社会がテクノロジーのもたらす可能 性から恩恵を受けるには、危機的状況にある人々を保護するための投資拡大を中心 に据えた新たな社会的盟約が必要となります。 数十年間に及ぶフォーマル・セクター拡大努力にもかかわらず、世界では依然と してインフォーマル・セクターの割合が平均 65%に上ります。仕事の本質の変化 に伴い、人的資本に主眼を置いて社会的保護を再考する必要性が高まっていきま す。そのために欠かせない投資資金を提供するに当たり、 「World Development Report 2019: The Changing Nature of Work(世界開発報告 2019:仕事の 本質の変化) 」は、政府がより多くの収入を確保する方法について提言を行ってい ます。歳入拡大の方法として、大都市での固定資産税、砂糖やたばこへの消費税、 そして炭素税が挙げられている他、多くの企業が利益拡大のために利用している租税 回避戦略の排除も指摘されています。 デジタル技術は、公共サービスへのアクセスを改善し、包摂的な開発を促進する 機会ももたらします。身分証明を持たないために必要なサービスや機会を得られな い人々の数は、世界全体で約 10 億人に上ります。2019 年度、世界銀行は「開発 のための身分証明(ID4D)イニシアティブ」の下、安全でプラバシー保護の徹底 したデジタル身分証明を提供する「ミッション・ビリオン」というグローバルな 取組みに着手しました。 一方、フィンテック(金融工学)はなおも金融サービスに世界的な影響を及ぼし 続けています。モバイル決済は早い段階から発展してきた主要なサービスの 1 つで あり、包摂性に大きな役割を果たします。金融市場では新規参入者が挑み、既存 プレイヤーが応戦するという展開になっており、 競争や効率化が促進される一方で、 金融の安定性と健全性に新たなリスクが生じる懸念があります。相反する政策上の 優先事項のバランスを取ることも大きな課題です。こうした問題に対処するため更 なる協力や指導を求める援助受入国からの要請に応え、世界銀行グループと IMF は 「バリ・フィンテック・アジェンダ」を発表しました。同アジェンダ 2018 年 10 月、 はフィンテックがもたらす機会を活用する一方で、フィンテックによって生じる 潜在的なリスクを管理するために政策担当者や国際社会が考慮すべき12 の主要事項 を示しています。 世界銀行は 2019 年、公共サービスの効率性、透明性、説明責任の向上における テクノロジーの活用を促進するため、GovTech グローバル・イニシアティブを 立ち上げました。これは、政府、テクノロジー企業、IT 専門家、開発パートナー、 市民社会組織等デジタル・ガバナンスの主要な関係者で構成されるパートナーシップ であり、途上国がデジタル・イノベーションから取り残されないよう注視しています。 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 51 人への投資 人的資本への投資を通じて引き出す国家の真の富 栄養、質の高い医療、教育、社会的保護、雇用、技能を通じた人への投資は、 経済成長の鍵を握る原動力である人的資本の開発を促進し、極度の貧困撲滅と包摂 的な社会づくりに向けた不可欠な要素です。世界銀行の人的資本プロジェクトは、 人々に対する質の高い投資の拡大に向け、全ての子供たちが良好な栄養状態を維持 しながら成長し、学習する準備を整え、学校教育で然るべき知識を身に付け、健康 で、技能を備え、生産性の高い大人として雇用市場に参入できるシステムを整える ため、国やパートナーと協力しています。これまでに 60 カ国以上が同プロジェクト に参加しています。援助受入国との取組みでは、そうした国々が単に支出を拡大す るだけでなく、支出が質の高いものとなるよう、サービスの効率性と質の確立、 政策改革、国内資源の動員を重視しています。 援助受入国は、水、衛生、電力といった基礎的サービスはもちろん、社会的保護 と雇用、資金調達と説明責任、教育、保健、ジェンダーの各分野においても成果を 向上するための具体的な施策を既に講じています。いずれも人的資本の構築に不可欠 な要素です。 世界銀行は同プロジェクトの一環として、インドネシアで開催された 2018 年 10 月の年次総会において人的資本指標(HCI)を発表しました。HCI は、保健・ 教育分野における達成度を生産性・経済成長と関連づけていますが、対象 157 カ国 において、今日生まれた子供の約 60%が、良好な健康状態で、質の高い教育を受 けた場合に得られるはずの生産性の半分しか実現できないとしています。HCI は、 子供の生存率と栄養、予想される就学期間の年数、学習の質、健康状態等を指標と しています。 2019 年 4 月、世界銀行は、アフリカ地域における人的資本への投資を強化する ため、対アフリカ人的資本計画を発表しました。同計画は、若者が良好な健康状態 を維持しながら成長し、デジタル化が進むグローバル経済の中で活躍できる適切な スキルを身に付けることを目的とし、2023 年までに達成すべき意欲的な目標を定 めています。具体的には、子供の死亡率の大幅削減(数にして 400 万人) 、1,100 万人以上の子供の発育阻害予防、学業成績の 20%向上を目指します。また、青年 期女子の早婚や妊娠を予防するプログラムを通じた女性と女児へのエンパワーメント も目指しています。世界銀行はアフリカにおける人的資本への投資を次の資金拠出 時に 50%増加する予定です。 教育分野の体系的変革の実施 教育は人々や国の繁栄を可能にする人的資本構築の基盤です。途上国は子供の 就学率向上において目覚ましい進歩を遂げているものの、今なお学校に通うことが できない子供が世界全体で 2 億 6 千万人を超えています。また、学校に通っている 子供たちも必ずしも学習成果が保証されているわけではなく、サブサハラ・アフリ カ地域では生徒の約 90%が読み書き・算数の最低基準に到達していません。 途上国の教育システムを強化し、全ての子供が効果的に学習できるようにする 必要があります。世界銀行は、援助受入国が教育システムを構築・改善し、学習 成果向上に必要な対策を特定できるよう支援を行います。世界銀行は、教科書、 機材、教員支援、カリキュラム等インプットに資金を提供してきましたが、そうした インプットを学習効果向上のための全体的取組みの一環として捉え、制度改革に 資金を提供するという形への移行を進めています。 世界銀行は途上国の教育への最大の資金提供機関であり、80 カ国以上で教育 プログラムを展開しています。2019 年度、世界銀行は学習成果の向上に加え、全 ての人が成功のための機会を確保できるようにする教育関連のプログラム、技術 協力、各種プロジェクトに30 億ドルを提供しました。 現在のポートフォリオは総額160 億ドルで、人的資本構築を促進する上での教育の重要性を強調しています。世界銀行 52 世界銀行 年次報告 2019 女性の生活水準向上により人的資本の構築を実現 多くの国で女性と女児は各種の障壁に直面しており、そのため人的資本への 投資から男性と男児と同様の経済的機会を得ることができていません。男女間の 生涯所得の格差により世界で 160 兆ドルの富が失われています。 ジェンダー格差解消に向けた重点課題は、妊産婦死亡率の低下、性と生殖に 関する保健サービスの普及、幼児教育へのアクセス拡大です。コンゴ民主共和国 では、世界銀行の保健システム強化プロジェクトにより青年期の性と生殖に関す る健康を支援し、少女の妊娠と妊産婦死亡のリスクに取り組み、親を対象とした 家族計画や子供の栄養状態改善を進めています。 世界銀行は、女性の雇用機会の障壁を削減するため、幼児から高齢者までケア ・ サービスへのアクセス確保に重点的に取り組み、政府や民間セクターと協力して 男女間で育児の責任のバランスを取る育児休暇政策を構築しています。例えば、 ブルキナファソでは、若年層雇用・技能開発プロジェクトにより、労働集約的な 公共事業のための移動保育を提供しています。女性の労働参加率が 35%である トルコでは、世界銀行プロジェクトにより保育の供給拡大を目的とする私立幼稚園 向けの新たな優遇税制や、柔軟な勤務体制導入に向けた労働市場規制に関する 助言を行っています。その他の重点課題としては、性別職域分離の解消、安全で 安価な交通手段、デジタル経済での機会への女性のアクセス確保等があります。 世界銀行は、援助受入国で女性による土地や住宅といった資産の所有・管理へ の障壁の撤廃や、金融、テクノロジー、保険サービスへのアクセスの改善も進め ています。公益事業セクターでは、女性が意思決定への参加を進めるプロジェクト が増加傾向にあります。 女性起業家の可能性を引き出すことは、より包摂的な世界成長、雇用創出、 貧困削減にプラスの影響をもたらします。女性起業家資金イニシアティブ(We- Fi)は、14 の政府、6 の多国籍開発金融機関(MDGs) 、官民両セクターの多くの ステークホルダーにより、2017 年に設立されました。その目的は、途上国で 女性が所有または主導する中小企業のための資本アクセス拡大にあります。2018 年と 19 年に行われた 2 回のプロポーザルで、We-Fi は 11 万 4 千社以上に恩恵を もたらすと共に、官民両セクターから26 億ドルの動員を目指す MDGs プログラム に対し 2 億 4,900 万ドルを配分しました。プロジェクトは数十カ国で実施される 予定で、資金の大半は、脆弱・紛争国を含む IDA 対象国に振り向けられます。 世界銀行グループは、We-Fi の各種プログラムを実施するパートナー機関の 1 つとして、女性による事業を対象に融資や市場へのアクセスを改善し、起業 エコシステムを促進するため、7,500 万ドルを受け取りました。官民パートナー らとの連携の下、世界銀行(2,600 万ドル)と IFC(4,900 万ドル)が 25 カ国に おいて共同でプロジェクトを実施しました。例えば、中東・北アフリカ地域での 電子商取引プラットフォーム、ナイジェリア及びザンビアでのフィンテック、 ベトナムでの成果連動型インセンティブ、バングラデシュ、コートジボワール、 モザンビーク、セネガルでのサプライヤ多様化プロジェクト等です。 世界銀行は女性に対する経済的・社会的エンパワーメントを促進するために データや知識の分野においても貢献しています。新報告書「Profiting from Parity: Unlocking the Potential of Women’s Businesses in Africa(仮題: 平等のもたらす恩恵:アフリカ女性事業の可能性を引き出す) 」は、アフリカの 女性起業家が直面している課題に着目し、世帯・企業レベルのデータを分析して 成長・収益性への障壁を明確にした上で解決策を示しています。また、世界銀行 のジェンダー・データ・ポータルでは、性差別、雇用や資産面での差別を中心と するデータが入手可能です。更に、地域別のジェンダー・イノベーション・ラボ ではジェンダー格差を埋めるために何が有効かについてのエビデンスを示してい る他、2019 年度は 100 件以上の影響評価を実施中です。 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 53 は、学習を推進する要因として、全ての年齢層において成功に必要な要素の習得、 あらゆるレベルの教員の能力向上、テクノロジーの学習への活用、安全で包摂的な 学習環境の構築、学校及びシステムの管理強化の 5 点に重点を置いています。 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現 現在、世界の人口の半数は良質な保健医療へのアクセスを持たず、毎年 1 億人が 医療費の負担により極度の貧困に陥っています。SDGs の目標 3(SDG 3) 「あら ゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に沿って進められ ている2030 年を期限とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を目 指し、世界銀行と援助受入国政府、開発パートナーをはじめとする関係者と連携を続 けています。世界銀行は、妊産婦と乳幼児の予防できるはずの死亡の撲滅、包括的な 母子保健サービスへのアクセス確保、子供の発育阻害率の軽減、パンデミックへの備 えと感 染 症 発 生 時 の 迅 速 な国 家 対 応 の 強 化、非 伝 染 性 疾 患 の 予 防・治 療 等、 具体的な課題に対応するため、各国の保健システムのための持続的な資金確保を 優先課題と位置付けています。 世界銀行は、脆弱・紛争地域における保健分野の重要課題にこれまで以上に力を 注いでいます。例えば、赤十字国際委員会及びユニセフと連携した南スーダンで のプロジェクトは、国内避難民、とりわけ危険なコミュニティに暮らす国内避難民を 支援する他、予防及び基礎的治療に携わるコミュニティ保健従事者の研修・配備、 更には性やジェンダーに基づく暴力の被害者に対するカウンセリング・治療のため の保健専門家の研修を進めています。 世界銀行は、出生率の高い状況や脆弱な状況において、性と生殖、妊産婦、新生児、 子供、青年の保健医療に投資を行っていますが、進捗は微々たるものです。2015 ~19 年度、IBRD と IDA が進めるセクター横断的取組みとして、性と生殖及び 妊産婦の保健を含めプロジェクト 60 件、総額 77 億ドルが承認されました。その 一例が、サヘル地域 6 カ国における「サヘル地域の女性の経済的エンパワーメント と人口ボーナス」プロジェクトです(20 ページのプロジェクト紹介を参照) 。 世界銀行グループが事務局機能を担う各国主導型の革新的資金調達プラット フォームであるグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)は、各国 の人的資本、特に女性、子供、青年を優先対象として投資を行っています。GFF のグラント 1 ドルにつき 7 ドルの IDA 投資が動員され、カメルーン、コンゴ民主 共和国、ナイジェリア、タンザニアといった国々で、初期の成果として希望の持て る実績が確認されています。2018 年 11 月には、ノルウェー、カナダ、日本、 ビル&メリンダ・ゲイツ財団等、主要ドナーにより 10 億ドルに上る増資が実現し ました。これにより、GFF は援助対象国を 27 カ国から 50 カ国に拡大することが 可能となります。 2019 年、脳の発達、学業成績、成人後の収入に影響を及ぼす発育阻害に苦しむ 5 歳未満児は 1 億 4,900 万人に上ると推定されています。発育阻害の撲滅に向け 栄養状態改善を目指す世界銀行の投資は、世界全体で 20 億人に恩恵をもたらして います。マダガスカル等の国々では、長期的アプローチに重点が置かれ、コートジ ボワール、エチオピア、マダガスカル、ナイジェリア、ルワンダ、タンザニアでは、 IDA プロジェクトにより民間セクターと慈善団体である「栄養の潜在力(Power of 」との資金調達パートナーシップが促進されました。世界銀行グループ Nutrition) は、3 千近い市民社会パートナー、ドナー、財団によるパートナーシップとして 加盟国 60 カ国以上を擁する SUN(Scaling Up Nutrition)の創設メンバーでもあ ります。 2018 年後半、世界銀行グループは、保健資金動員の拡大、より効率的な投資、 保健システムの機能強化を通じて SDG 3 の達成に向けた途上国の進捗促進を目指 すグローバル・アクション・プランに、他の 11 国際機関と共に調印しました。ま た、複数のステークホルダーの連携による、保健システム強化に特化したプラット フォーム「UHC2030」を世界保健機関(WHO)と共同で設置しました。更に、 2019 年 6 月に日本で開催された G20 サミットで UHC 達成のための持続的な資金 調達が、 包摂的経済成長の基盤となる要素であるとして初めて取り上げられました。 54 世界銀行 年次報告 2019 保健上の緊急事態への備えの確保 効果的なサービスを、最脆弱層を中心に全ての人に行き渡らせる強固な保健 システムは、全国民を感染症の大流行から確実に保護するための唯一の方法と言え ます。世界銀行はIDA18において、IDA 借入国 25 カ国以上を対象に、パンデミック 対策の策定、保健上の緊急事態へのセクター横断的な備え・対応・回復のための ガバナンス・制度の強化を支援することを表明しました。これまでに IDA 借入国 37 カ国が計画の策定と費用見積もりを完了し、優先的に取り組んでいます。その 他 14 カ国以上が何らかの取組みに着手しています。 2014 年と 2015 年に発生したエボラ出血熱により大きな打撃を受けた西アフリカ が地域全体での備えを強化できるよう、世界銀行は 2018 年、第 3 次地域疾病監視 システム強化プログラムに対する IDA 融資を拡大しました。これによりサブ サハラ・アフリカ地域のいくつかの国で、総合的疾病の監視・対応の機能が、国・ 地域レベルのみならずセクター横断的にも強化されています。 コンゴ民主共和国(DRC)で 10 回目となるエボラ出血熱流行が 2018 年 8 月に 宣言されたことを受け、世界銀行グループは 2019 年度、国際パートナーとの協力 を得て同国政府が主導する対策のために、IDA を通じて 8 千万ドルのグラント及び 融資を提供しました。世界銀行は更に、同国の保健制度強化のために技術支援を 提供すると共に、流行が国境を越えて広がった場合に備え、隣接する 9 カ国に パンデミック対策への投資を行いました。 世界レベルでは、WHO と共同で、パンデミックの脅威に対する世界・国レベル での備えの実態を評価して公表する国際対策監視委員会を毎年招集しています。 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 55 強靱性の構築 仕事の本質が変化を続ける中、社会的保護の完全普及を促進 社会的保護は、青年期から壮年期を経て高齢期に到るまで、人的資本の蓄積にお いて大きな役割を果たします。更に社会的保護は、労働及び生計における成果の 向上を直接的に可能にします。社会的保護プログラムを適切に設計・実施すれば、 人的資本の構築と生産性の向上、格差解消、強靱性構築、世代間の貧困サイクルを 断つことが可能になります。しかし、世界銀行の「Atlas of Social Protection Indicators of Resilience and Equity(仮題:強靱性と公平性の社会的保護指標 アトラス) 」によると、何らかの形で社会的保護を受けている人は世界全体でわず か 45%に過ぎず、最貧困国では 5 人に 1 人にとどまっています。世界銀行は、 SDGs の達成に向けて成果を上げるべく、援助受入国が 2030 年までに社会的保護 の普及率を大幅に拡大できるようパートナーと協力しています。 社会的保護と雇用のための世界銀行の年間融資額は、2019 年 6 月 30 日現在で 172 億ドルに達しました。この内 111 億ドルが IDA 借入国に対するものです。こ うした資金は、現金給付、公共事業、学校給食等のセーフティネット・プログラム に充てられています。インドネシアでは、国による条件付き現金給付プログラムの 対 象 者 の 割 合 が 2008 年 に は 人 口 の 1% で し た が、2018 年 に は 10%(2,800 万人)まで増え、社会的保護プログラムの対象者は、所得の下位 20%の人々の 90%に上っています。タンザニアでは、生産的セーフティネット・プログラムが 急速に拡大し、2013 年には人口の 0.5%でしたが、2018 年には 10%まで上昇し ました。 気候変動リスクへの適応 気 候変動は世界的な開発及び貧困削減にとって 大 き な 脅 威 で、 最 貧 困 層・ 最脆弱層への影響はとりわけ深刻です。気候変動の影響により2030 年までに新たに 1億人が貧困に陥り、安心して生活していける場所を家族単位で、またコミュニティ 全体として求めざるを得なくなるため、移民人口が一段と拡大すると考えられてい ます。気候変動への適応と強靱性に関する行動計画が示す通り、世界銀行グループ は、適応と強靱性を、緩和と同様に大きな課題と位置付けています。 気候変動対策はまた、持続可能な開発と包摂的成長を促進するための大きな機会 をもたらします。2030 年までに低炭素型経済への移行が実現すれば、26 兆ドル の経済的利益が見込まれ、6,500 万人以上の雇用が創出される可能性があります。 2018 年 12 月、世界銀行グループは、2021~25 年の 5 年間に投資額を倍増して 約 2 千億ドルにするという大きな目標を打ち出しました。その内訳は、IBRD・ IDA の資金が約 1 千億ドル、IFC 及び MIGA からと、世界銀行グループが動員する 民間資金が同じく約 1 千億ドルとなっています。この目標には、気候変動が生活や 生計手段に及ぼす影響が深刻化する中、特に最貧国に対する影響に対処するため、 気候変動への適応と強靱性への投資倍増が含まれています。 また同目標は、各国政府が気候変動対策を政策、計画、予算に組み込むに当たって も有用です。2019 年 4 月、世界銀行の支援を受けて 25 カ国以上の財務大臣が、 より強力な共同行動の推進を目指した新たな連合を立ち上げました。チリとフィン ランドの財務大臣が主導する同連合は、各国による気候変動対策、特に財政政策や 財政の活用を通じた対策を促進する 6 つのヘルシンキ原則を支持しました。 包摂的で持続可能な都市とコミュニティの構築 世界銀行の社会開発プログラムは全セクターに広がっており、人々へのエン パワーメントを通じて貧困・脆弱層の社会的包摂を促進し、結束力のある強靱な 社会を構築することにより、市民にとって利用し易く説明責任のある制度を実現して います。分析を基に、全てのプロジェクトで市民参加を中心に据え、コミュニティ 56 世界銀行 年次報告 2019 脆弱・紛争地域への支援の拡大 脆弱性・紛争・暴力(FCV)は依然として大きな開発課題であり、極度の貧困撲滅及び 繁栄の共有促進に向けた進捗を脅かしています。2030 年には世界全体で極度の貧困層の 約半数が紛争の影響下にある脆弱な環境に置かれ、格差の拡大、暴力的な過激主義、気候 変動、パンデミック、食糧不安等の深刻なリスクにさらされると懸念されています。 IDA18 では、FCV の影響下にある国々に対する世界銀行の支援額が 140 億ドル超に 倍増されました。この内、新たな資金調達メカニズムには、難民とその受入れコミュニティ に対する支援 20 億ドルと民間企業活動への支援 25 億ドルに加え、援助受入国による 暴力的紛争の防止と脆弱性リスクの軽減のための積極的な取組みが含まれています。 IDA18 の難民サブウィンドウの対象は、IDA 借入国及び IBRD/IDA ブレンド国(IDA と IBRD の両方から資金供与を受ける資格を持つ借入国)に暮らす難民の内 72%以上に相当 する600 万人以上を受け入れている14 カ国(バングラデシュ、ブルンジ、ブルキナファソ、 カメルーン、チャド、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ジブチ、エチオピア、モーリタ ニア、ニジェール、パキスタン、ルワンダ、ウガンダ)に限定されました。同サブウィン ドウは、難民の社会的・経済的包摂を促進すると共に、受入れコミュニティへの支援を 目指しています。2019 年末現在、10 カ国で 19 件のプロジェクトが承認されており、総額 は 9 億 2,700 万ドルに上ります。 世界銀行はまた、多数の難民を受け入れている中所得国への融資を行うグローバル譲許 的資金ファシリティ(GCFF)を運営しています。同ファシリティは、世界銀行、国連、 イスラム開発銀行により 2016 年に立ち上げられ、シリア難民の流入が続くヨルダン及び レバノンが対策を講じられるよう、またコロンビア(2019 年から GCFF による支援の 適格国)が 120 万人を超えるベネズエラからの避難民とその受入コミュニティのニーズに 対応できるよう、約 5 億ドルのグラントを提供し、これにより25 億ドル以上の譲許的融資 を促進しました。 極度の貧困が益々集中する傾向にある FCV 環境下では開発に異なるアプローチが求め られることから、世界銀行グループ初となる FCV 戦略の策定に当たり、世界規模のコン サルテーションが 2019 年 4 月に開始されました。平和と繁栄への貢献を目標に、影響下 にある国々で FCV が広がる要因、及び脆弱層への影響への対処を目指します。面談及び オンラインでのコンサルテーションを通じ、これまでに 88 の国・地域の政府、市民社会 組織、国際的なパートナー、民間セクターの関係者 1,700 人以上の経験や教訓が収集・ 活用されています。同戦略は 2019 年末までに完成予定です。 のエンパワーメントやコミュニティ主導型の開発プロジェクトを実施しており、 現地の開発プロジェクトでの計画決定や投資資金についての管理をコミュニティに委 ねています。更に、 「強靭なコミュニティ構築のための包摂的イニシアティブ」を 通じ、市民参加、社会包摂、ジェンダーを気候変動対策・防災のための投資に組み 込んでいます。 世界銀行グループはまた、民間セクター、各国政府、市民社会と連携し、気候 変動及び自然災害への強靱性を備えたクリーンで効率的な都市やコミュニティづく りに早い段階から関与することにより、脆弱性リスクの管理を進めています。そう した中、脆弱層による政治、経済、社会生活への全面的な参加を阻む障壁の撤廃に も取り組んでいます。世界銀行は 2017~19 年度、都市開発及び強靱性構築のた めのプロジェクト(都市部の交通及び水への投資を除く)に年間平均 60 億ドル近 くを投資している他、防災のための年間融資はポートフォリオ全体で 2012 年度の 37 億ドルから 2019 年度は 45 億ドルへと拡大してきました。 都市強靱性プログラムは、都市の強靱性強化と幅広い資金調達方法へのアクセス 確保を進めています。2017 年 6 月以来、同プログラムは 39 カ国 57 市に対し総額 23 億ドル(IDA から 13 億ドル、IBRD から 9 億 7,500 万ドル)を提供してきまし た。これまでに迅速な資本評価が 52 件完了し、都市によるインフラ・プロジェクト 持続可能な開発ソリューションを援助受入国に提供 57 金融商品を通じた強靱性の強化 世界銀行グループは、環境に配慮した成長を様々な形で促進しています。具体的には、 援助受入国が適応・緩和政策によるマクロ経済的面及び財政面への影響評価を可能にする キャパシティ・ビルディング、グリーン・ファイナンスの提供、環境財政改革のための 機能強化、気候問題と中期財政枠組みや開発政策、その他の業務との統合等があります。 世界銀行はまた、中央銀行や監督当局と協力して持続可能な経済への移行に関する ベスト・プラクティスの共有や資金動員を行う気候変動対策ピア交流を通じて各国の財務省 を支援しています。1 億 4,500 万ドルのマルチドナー信託基金であるグローバル・リスク・ ファイナンシング・ファシリティ(GFF)は、外因性ショックが財政にもたらす影響に 対処する技術・財政支援の拡大を求める途上国の要請に応えて設置されました。 世界銀行グループは援助受入国と協力し、キャット・ボンド(大災害債券)や保険 ソリューション等、持続可能で費用効果の高い金融保護ツールや金融商品を通じて、気候 変動リスクや災害のショックに対する強靱性の強化に取り組んでいます。 世界銀行は、途上国向け災害リスク保険を提供しています。間接的には援助受入国と 資本市場の仲介、直接的には世銀債やデリバティブ取引の活用により、自然災害やその他 のリスクに対する途上国の備えを強化しています。保険を活用したリスク移転は、政府の 公的債務を増やすことなく実行可能で、緊急資金、予算留保、信用供与枠、国際援助と いった他の資金源を補完する重要な役割も果たします。 災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)付き開発政策融資は、援助受入国が自然 災害や感染症等の保健関連のショックに対処できるようにする、流動性の高い条件付き 資金調達手段であり、二国間援助や復興のための融資といった他の財源からの資金が動員 されるまでの期間、当面の資金調達手段となります。更に Cat DDO と並行して、災害 軽減と災害対応の強化、国家の能力構築、事前減災のためのプログラムが実施されます。 2018 年、世界銀行は太平洋同盟の 4 加盟国(チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー)で 発生する地震に対する保険として 14 億ドルのキャット・ボンドを発行しました。複数の 国を対象とするキャットボンドはこれが初めてです。 世界銀行のグローバル・インデックス保険ファシリティは、サブサハラ・アフリカ地域、 アジア地域、ラテンアメリカ・カリブ海地域の災害リスク移転ソリューション及び農業 保険を自作農、零細起業家、マイクロファイナンス機関に提供するものです。 世界銀行はまた、持続可能な資金を動員するグリーンボンドやシャリア適格のグリーン ・ スクークの設計を進めています。更に紛争国では、人々に GCFF 等を通じたソリューション を提供できるよう力を注いでいます。 への民間資本誘致を目指したキャパシティ・ビルディングに役立てられています。 また同プログラムにより、都市のリスク・プロファイルと建築環境を示した「都市 強靱性スキャン 13」が作成されました。 土地に対する権利の確保は、持続可能な成長に対して大きな役割を担っていま す。権利の確保は、土地に投資して資源としての土地の管理を進め、民間セクター と関わり、自らの生活の向上を図ることを可能にします。SDG 5「2030 年までに ジェンダー平等を達成し、全ての女性及び女児の能力強化を行う」の達成には、 貧困世帯による財産権の確保に向けて、国際社会による組織的な努力と投資の拡大 が必要です。世界銀行は、複数のステークホルダーによる活動「Stand for Her Land」の創設メンバーとして、国際・地域の両レベルでのパートナーや地元コミュ ニティと連携し、土地に対する女性の権利について定めた法律と実態のかい離解消 を図っています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/topics 58 世界銀行 年次報告 2019 世界的にインパクトをもたらす 金融ツールの開発 IBRD は 70 年以上にわたり、援助受入国への融資資金を債券(世銀債)発行に より世界の資本市場から調達(借入)しており、1947 年の初の世銀債発行以降、 累積発行額は 9 千億ドル近くに上ります。2019 年度、IBRD は出資国からの 160 億 ドルの払込資本を基盤に、世界中の援助受入国の開発課題に取り組むプロジェクト やプログラム融資に約 1,200 億ドルの資金を充当しました。世界銀行(IBRD と IDA)は、そのトリプル A 格付けを活かし、持続可能な開発を実現するために年間 500~600 億ドルの債券を発行しています。また、世界の開発における優先的 課題に取り組むべく、新たな金融ツールや金融商品を開発するなど、援助受入国の リスク管理及び財務体質の強化も支援しています。IDA は、2018 年度に資本市場に 初めて参入しました。初の IDA 債となった 15 億ドルの大型公募債の発行に際して は世界中から計 46 億ドルに達する超過需要がありました。この起債により IDA は、 持続可能な開発目標(SDGs)に向けた動きを大幅に拡大することが可能となりま した。また投資家に対しては、世界的な社会貢献を支える大規模な投資機会を提供 することができました。 開発のための資本市場商品の促進 世銀債は、 民間セクターに対して、 地球規模の開発課題に携わる機会を提供します。 例えば 2019 年度、農村地域における女性のエンパワーメント促進を目的とした インドネシア・ルピー建ての 5 年債や、持続可能な都市とコミュニティに関する意識 を高めるためのスウェーデン・クローナ(SKr)建て(25 億クローナ)の 5 年債等 がその例です。2018 年 12 月、世界銀行は、気候変動、ジェンダー、保健といった SDGs が掲げる目標達成に取り組む企業の株価指数に利回りが連動する新たな 「SDGインデックス・リンク債」 を香港特別行政区、中国、シンガポールの個人投資家 向けに発行しました。 世界銀行は先進テクノロジーの開発業務への活用を進める一方、 2018 年 8 月には、グローバルなブロックチェーン技術を活用した世界初の債券 「ボンダイ(bond-i) 」を、オーストラリア・コモンウェルス銀行との連携の下、 マイクロソフトの協力を得て発行しました。 世界銀行は、資本市場を活用して気候変動対策プロジェクトを進めると同時に、 グリーンボンドの発行を通じて、環境、社会、ガバナンス(ESG)の重要性について、 投資家と共に社会に提起しています。2008 年に初のグリーンボンドを発行して 以降、20 の通貨建てで 150 銘柄以上のグリーンボンドを発行し、累計発行額は 130 億ドル相当に達しています。2018 年 11月には、初のグリーンボンド発行から 10 周年を記念し、ユーロ建て、オーストラリア・ドル建て、米ドル建ての 3 つの ベンチマーク債で総額 13 億ドル相当の世銀債を発行しました。 世界銀行はまた、各国のグリーンボンド市場の発展も支援しています。援助受入国 が持続可能性確保と気候変動対策にリーダーシップを発揮できるよう促し、投資家に は、グリーンボンドへの投資を通じて気候変動問題対策を支えてもらうという枠組み が実現します。 2009 年、世界銀行初の米ドル建てグリーンボンドをカリフォルニア州 が全額購入しました。以来同州によるグリーンボンド購入は長きにわたって続き、 2018年10月に発行されたグリーンボンドで、 同州の10年間の累積投資額は15億ドル に達しました。2018 年 9 月、世界銀行はグリーンボンドの発行体向けに初のガイド 「Green Bond Proceeds Management and Reporting Guide(仮題:グリーン ボンドの資金管理と報告に関するガイド) 」を作成しました。同ガイドは、 公共セクター 世界的にインパクトをもたらす金融ツールの開発 59 の発行体に向けた手引きであり、世界銀行のグローバルなリーダーシップを示す ものです。 2018 年 8 月、世界銀行は水・海洋資源の重要性を投資家と共に社会に提起する イニシアティブを開始しました。同イニシアティブには、世界中の機関投資家や 個人投資家が賛同し、これまでに 10 の通貨で計 23 のサステナブル・ディベロップ メント・ボンドが発行されました。2018 年 11 月には、世界銀行は「安全な水と トイレを世界中に」 (SDG 14)の両目標に対 (SDG 6)と「海の豊かさを守ろう」 する関心を高めることを目的とした債券を発行し、6 億 6 千万ドルを調達しました。 2019 年 5 月、水と海洋汚染、特にプラスチック廃棄物への対処が急務である ことを投資家と共に社会に提起するサステナブル・ディベロップメント・ボンド (償還期間 13 年、5 億スウェーデン・クローナ建て)を発行しました。 また、2018 年 10 月には、セーシェル共和国による持続可能な海洋・漁業プロ ジェクト実施のための世界初の「ソブリン・ブルー・ボンド」の発行を全面的に 支援しました。同ブルー・ボンドの資金は、海洋保護区域の拡大、主要漁業における ガバナンスの改善、セーシェル共和国のブルー・エコノミー開発に活用されます。 セーシェル共和国は世界有数の生物多様性ホットスポットであり、経済の発展と 自然環境保護の両立を目指しています。 世界銀行は、持続可能な資本市場への移行を推進するため、日本の年金積立金管理 運用独立行政法人(GPIF)との連携を強化することになりました。その一環として 世界銀行財務局は、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する機関投資家と政府債 並びに政府機関債の発行体による初のフォーラムを開催し、有意義な意見交換が 為されました。 援助受入国の公的債務管理 財政の安定と持続可能な財政政策のためには、効果的な戦略性を兼ね備えた効率 的な公的債務管理が不可欠であり、公的債務が開発目的を損なわないよう、着実に 実施される必要があります。 2019 年度、世界銀行は 50 を上回る加盟国政府・地方債務管理機関と協力し、 援助受入国政府を対象に、公的債務管理のための組織・制度面の能力構築(キャパ シティ・ビルディング)を実施しました。こうした助言サービスは、千人以上の 実務担当者に対し、オンラインセミナー・ワークショップ・フォーラムといった 大規模な会合に加え、ビデオ会議・ネット上のグループ討議・直接面談等の少人数 でのコミュニケーションも効率的に活用し、実務担当者間の長期的な関係構築に 役立てられました。 途上国の債務状況の複雑化に対応し、世界銀行のサービスや支援も高度化してい ます。例えば、債務管理戦略の計画と実施、債務持続可能性の評価、現地通貨市場 の整備を図る国々への技術協力の提供等がそれに当たります(44 ページの「債務 の透明性促進」を参照) 。 世界銀行財務局は2019 年度、援助受入国のニーズの高まりに対応するため、政府 のバランスシート(貸借対照表)のリスク管理に関する初のワークショップの 企画、政府の資産・負債に関するワーキング・ペーパーの発表の他、援助受入国の 現金・キャッシュフロー予測管理に特化した初の分析ツールを開発し、実用化しま した。 世界銀行の RAMP サービス(外貨準備資産管理助言プログラム)は、途上国や 国際機関の公式セクター資産管理担当者に、実務に必要とされ、実際に活用できる キャパシティ・ビルディングや資産管理サービスを提供するプラットフォームと してニーズが急拡大しています。スタッフの育成、ガバナンス強化と業務内容の 高度化、そして資金の運用方針に沿ってリスクに見合った金融収益を確保できるよ う、中央銀行、年金基金、政府系投資ファンドを支援しています。同プログラムは 拡大を続けており、現在は数多くの低所得国や脆弱・紛争国を含む 70 機関が加盟 しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。treasury.worldbank.org 60 世界銀行 年次報告 2019 知識を活用した開発の推進 知識は、世界銀行がグローバルな開発アジェンダを主導するために重要な要素で す。世界銀行の研究プログラムは、グローバルな知識と国レベルの知識を組み合わ せることで、援助受入国の開発課題を解決するための幅広い見識を生み出しています。 世界銀行の研究成果は、報告書や刊行物、徹底した分析サービス、無償で閲覧 可能な開発データ等を通じて共有されています。2019 年度には次のようなテーマ に関する報告書が発表されました。 「世界開発報告 2019:仕事の本質の変化」 • :テクノロ ジーの進歩によって生じる仕事の本質の変化を調査し た主要報告書です。テクノロジーの進歩が仕事や求め られるスキルに絶えず変化をもたらしていると指摘し た上で、労働者が適切なスキルを習得できるよう人的 資本への投資に重点を置くこと、そして、働き方を問 わず、あらゆる人々に社会的保護を拡大することを 各国政府に提言しています。 「女性・ビジネス・法律 2019:改革の 10 年」 • :起業 家及び被雇用者としての女性の可能性を左右する関連 法 規 制 に つ い て 187 カ 国 で 調 査 し た 報 告 書 で す。 女性に対する法律上の制約を撤廃し、いかに女性の 経済的包摂を高めるかについての政策議論の参考と なっています。2019 年度版は、労働者としての女性の 法的権利を人生の節目ごとに評価する新たな指数を 導入しています。10 年間にわたりデータを追跡し、 現状、そして男女機会均等に影響を与えた法律のこれ までの変遷を浮き彫りにしています。 「ビジネス環境の現状 2019:改革を支える研修」 • : 190 カ国の事業規制や財産権保護を、定量的指標を用 いて長期にわたり比較しています。評価分野で前年度 に最も目覚ましい改善が見られた 10 カ国が毎年取り 上げられており、2019 年度版では、アフガニスタン、 ジブチ、中国、アゼルバイジャン、インド、トーゴ、 ケニア、コートジボワール、トルコ、ルワンダが紹介 されました。また、2019 年に実施された法規制改革 の3分の1がサブサハラ・アフリカ地域のものであったと 指摘しています。 知識を活用した開発の推進 61 「世界経済見通し(GEP) • 」:1 月と 6 月の年 2 回発表さ れる主要報告書で、経済の情勢、展望、政策を、新興 国・途上国に重点を置いて調査しています。2019 年 6 月版「高まる緊張、抑制された投資」では、2019 年も世界経済の低迷が続くとしています。投資低迷に より途上国経済の緩やかな回復がなおも抑制され、 先行きは暗く、主要な開発目標の達成に向けた進捗が 妨げられています。見通しのダウンサイド・リスクは 依然として大きく、政策担当者は強靱性の強化と長期 的成長の推進をめぐり大きな課題に直面しています。 2019 年 6 月版は、政府借入金の利点とリスク、途上 国における最近の投資低迷、通貨安からインフレへの流れ、低所得国の成長見通 しについても分析しています。 「貧困と繁栄の共有:貧困パズルを組み立てる」 • :極度 の貧困層の割合は、2015 年度に過去最低の 10%ま で低下し、小幅ながらも削減は継続中であるとしてい ます。繁栄の共有に関するデータの入手が可能な 91 カ国の内 70 カ国で、所得の下位 40%の所得が 2010 年から 2015 年の間に上昇しており、91 カ国中 54% で所得上昇率が平均を超えています。同報告書は、 貧困の定義を広げ、国ごとの違いを反映した新たな 社会的貧困の尺度と教育・基本的インフラへのアクセス を含めた多次元貧困指数を導入しています。また、 世帯間で貧困がどのように異なるかについても掘り下 げています。 「平和への道 • :暴力的紛争を予防する包摂的アプローチ」 : 国連と共同で実施されたこの研究では、脆弱性の主因 を防止し対処することが急務であることを明らかに し、開発と並行して、安全保障や外交、平和構築等を 進めることで相乗効果を生み、紛争激化の防止を目指 しています。また、多くの暴力的紛争の根本要素(例え ば電力、天然資源、安全、司法等へのアクセスが閉ざ されていること)に関係した申立てに積極的に対処 していくことが重要であると指摘しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/publications 専門的助言と分析を通じた開発課題への対応 助言サービス・分析(ASA)は、世界銀行が行う開発援助に大きな役割を果た しています。加盟国は、世界銀行の専門的助言と分析を活用しながら、より良い 政策や開発戦略の策定・実施、制度の強化による長期的な開発を進めています。 ASA によるこうした活動は、国レベルにおいて、パートナーシップの枠組み、 政府プログラム、世界銀行からの融資や保証を受けたプロジェクトを支えていま す。またグローバルと地域のレベルでは、公共の利益に寄与し、主要な政策議論に 用いられています。 2019 年度、世界銀行は 140 カ国以上で 1,625 件の ASA を実施しました。その 内容は、経済・社会面の主要課題に関する報告書から、知識共有ワークショップ、 62 世界銀行 年次報告 2019 研修、 政策ノート、実施行動計画まで多岐にわたります。有償助言サービス(RAS) はその国の状況に応じた ASA 成果物で、当該国の要請に応じて有償で行われます。 2019 年度、世界銀行は 35 カ国で 120 件の RAS を提供しました。世界銀行の RAS は非借入国も含めた全ての加盟国が対象です。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/asa 開発知識を強化するデータやツールの提供 世界銀行は、開発データの作成・普及において主導的な立場にあります。データ や分析手法の共有により、途上国の政策に質の高い分析作業のプラットフォームを 提供し、開発知識や情報に基づいた政策立案の基礎を築いています。 世界銀行には豊富な知見の蓄積がありますが、そうした知見を無償で幅広く共有 しています。そのために大きな役割を担うのが統計やデータで、以下のデータには 「オープン・データ」のウェブサイト上で誰もが簡単にアクセスできます。 国際比較プログラム 国連統計委員会の下で世界銀行が主導する世界規模の統計 イニシアティブで、主な目的は、GDP や支出総計について域内諸国や他地域の国々 の物価や数量の値を比較可能な形で提供することにあります。世界、地域、小地域、 国家のそれぞれのレベルで各機関と連携し、価格データや GDP 支出を比較して 購買力平価を算定し、発表しています。 世界開発指標 グローバルな開発と貧困との闘いに関する国際比較可能な統計をま とめたデータベースであり、全ての援助受入国による、政策決定の根拠となるデータ 確保の実現を目指しています。同データベースには、217 カ国及び 40 以上の国家 グループについて 1,600 に及ぶ時系列指標が含まれ、指標の中には 50 年以上遡る データが揃ったものもあります。 PovcalNet 世界の貧困の推移を追跡するオンライン分析ツール「PovcalNet」 は、データベースの値を用いて、世界銀行が発表する貧困推定値を割り出していま す。また、様々な仮定の下での貧困率を算定することや、異なる国家グループや 国家の組み合わせで推定値を割り出すことも可能です。2019 年 3 月、世界銀行は 1981~2015 年の世界貧困率の修正値を発表しました。修正後の推定値は、2011 年の国際比較プログラムが割り出した家計消費の PPP 為替レートと 164 カ国での 1,500 以上の家計調査のデータを組み合わせて算出されています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。data.worldbank.org 知識を活用した開発の推進 63 パートナーシップを通じた インパクトの強化 世界銀行グループは、極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という目標の達成に向け て、世界中の公式・非公式のパートナーと幅広く連携しています。 喫緊の課題に取り組むパートナーシップ グローバルな開発課題に取り組むに当たっては、様々なパートナーとの協力が 不可欠です。2019 年度、世界銀行の活動は、次に挙げるように、各種のパートナー シップの下で進められました。 脆弱性  脆弱性・紛争・暴力(FCV)は、貧困撲滅に向けた活動への脅威であ り、低・中所得国の双方に影響を及ぼします。世界銀行は、予防措置と早期の対策を 重点的に進め、紛争が続く間も支援を継続し、FCV が最脆弱層にもたらす影響を 軽減しています。 危機下にある 40 件以上のケースでは、国レベルで国連と協力し、人道主義、 開発、和平構築、安全保障の分野での働きかけを強化しています。更に、G5 諸国 及びサヘル同盟と協力し、域内の不安定な地区での開発に 67 億ドルの動員を目指 しています。 人的資本 世界銀行は、グローバル・リーダーと幅広く協力して、人的資本プロ ジェクトへの支援を促しています。年次総会及び春季会合では、人的資本への投資 を強化するため、世界銀行グループの専門家と慈善団体、市民社会、民間セクター、 二国間・国際機関等の代表者との議論の場が設けられました。 ジェンダー  世界銀行は、様々なイニシアティブを通じ、ジェンダー不平等の 解消に引き続き注力しています。例えば、カナダ及びノルウェー政府、援助受入 国、並びに IFC と共に、中東・北アフリカ地域のマシュレク地域では、女性の労働 参加を阻む制約を緩和するために「マシュレク・ジェンダー・ファシリティ」を設 けました。 また、14 の政府・国際財団とのマルチドナー信託基金「ジェンダー平等のため のアンブレラ・ファシリティ」が、ジェンダー格差解消に向けた効果的アプローチ に関する知識やインパクト評価のエビデンスを得るために活用されている他、革新 的なプロジェクトの設計にも役立てられています。 気候変動 世界銀行は、幅広いパートナーと協力して気候変動に取り組んでいま す。適応のためのグローバル委員会は、適応策の促進、適応に対する政治的注目度 の向上、具体的なソリューションの啓蒙に努めています。同委員会の目標は、適応 こそが開発の基礎であり、世界全体で生活の質向上、貧困削減、環境保護、強靱性 強化に役立つと実証することです。クリスタリナ・ゲオルギエヴァ世界銀行 CEO、 潘基文第 8 代国連事務総長、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のビル・ゲイツ共同議長 が同委員会の共同議長を務めています。委員会は 19 カ国から招集された 33 人の コミッショナーで構成され、研究パートナー及びアドバイザーから成る世界的 ネットワークによって支えられています。世界銀行は科学・経済・政策面の分析 結果を提供しています。 パートナーとの連携強化 世界銀行グループは、他の国際機関、慈善団体と民間セクター、市民社会、国会 議員、宗教団体、地元コミュニティとの連携に力を入れています。 64 世界銀行 年次報告 2019 多角的な連携 世界銀行グループは、参加国政府の要請を受け、包摂的かつ持続 可能な成長と貧困の削減について専門知識や政策提言を提供しています。2018 年 11 月に開催された G20 ブエノスアイレス・サミットでは、アルゼンチン政府と 投資家フォーラムを共催し、援助受入国への長期的かつ持続可能な資金提供の拡大 を促進しました。 更に、G20 大阪サミットで採択された原則に盛り込まれた質の高いインフラ、 強靱性、債務の持続可能性と透明性、保健セクターへの融資の強化、国別プラット フォームの構築の各項目を支持しました。G7 では、ジェンダー平等、人的資本、 生物多様性、貿易、国内資金の動員、デジタル・トランスフォーメーションと包摂 に関するフランスの重点課題を支持しています。 市民社会  世界銀行グループは、パートナーシップとアウトリーチ、アドボカ シー・キャンペーン、政策対話とコンサルテーション、業務上の連携、情報の 共有、並びに「社会的説明責任のためのグローバル・パートナーシップ」をはじめと するグラント・メカニズムを通じて世界中の市民社会組織(CSO)と協力していま す。そうした協力の結果、世界銀行グループの活動範囲が広がり、開発インパクト、 説明責任、透明性も向上しています。年次総会及び春季会合の会期中に開催される 市民社会政策フォーラムでは、CSO が一連のテーマに関して世界銀行グループ、 IMF、その他の関係者と意見交換を行っています。ワシントンで開かれた 2019 年 度 春 季 会 合 で は、109 カ 国 か ら 1 千 人 以 上 と い う 過 去 最 多 の 参 加 者 数 を 記 録 し、46 のセッションの大半は CSO 主催によるものでした。 宗教団体(FBO)  世界銀行の世界宗教イニシアティブの下、宗教関係者が世界 銀行グループと共同で、地域やセクターを横断する課題、中でも人的資本が生み 出す成果、ジェンダー、脆弱性、気候変動の問題に取り組んでいます。2019 年度 には、世界銀行グループの目標達成に向けた対話とアウトリーチの強化、開発にお ける FBO の役割と影響に関する正確な客観的根拠の収集、人への投資の拡大に向 けた世界銀行と FBO の実務的な協力等が進められました。 慈善団体と民間セクター 持続可能な開発のための 2030 年アジェンダは、従来 とは異なる関係者が目標達成に向けた資金動員、イノベーションや専門知識の活用 等で大きな役割を果たし得るという認識を深めています。世界銀行は、財団、次 世代の慈善事業家、インパクト投資家、社会起業家等、民間セクターとのパート パートナーシップを通じたインパクトの強化 65 ナーシップをこれまで以上に重視しています。 2019 年度、ビル&メリンダ・ゲイツ財団との戦略的対話でイノベーション拡大 に重点を置くことが確認された結果、都市部の衛生、農業とデータ、自作農を支え るテクノロジーの活用の分野での協力が進められました。 国会議員  国会議員ネットワーク(PNoWB)は、国会議員との交流の機会を 提供し、影響力を有する 1 千人以上の国会議員が開発への説明責任や政治的支援に ついて議論・提唱する場となっています。 2019 年度の春季会合では、同ネットワークの主要イベントである第 5 回国会議 員グローバル年次会合が開催され、48 カ国から 100 人以上の国会議員が集まり、 世界銀行グループの専門家や幹部と共に喫緊の課題について議論しました。同会合 での「世界若手国会議員イニシアティブ」には 26 カ国から 45 歳以下の国会議員 が集まり、若い世代に影響する課題についてベスト・プラクティスや政策の情報 交換を行いました。 2019 年度、10 カ国の国会議員と 13 の CSO の代表がセネガルとガンビアの IDA プロジェクトの現場を訪れ、具体的な成果を視察しました。 「つながりキャンペーン」  世界銀行グループの職員は、組織の価値観に沿った 行動を地元コミュニティで実践する機会となる「つながりキャンペーン」を通じて 寄付、ボランティア活動、物資の寄付、地元高校生向けのインターンシップ・プロ グラムを実施しています。こうした活動により職員には他人への配慮や気概が芽生 え、ワシントン首都圏や世界各地での地元コミュニティへの貢献が行われていま す。2019 年度、世界銀行グループは地元コミュニティの非政府組織に 900 万ドル 以上の寄付を行いましたが、その内 400 万ドル以上が職員からによるものでした。 世界銀行グループは人的資本とジェンダー平等を重視しています。この点は、こう した慈善活動がワシントン地区における労働者の技能開発施設や幼児教育センター の建設資金調達に貢献したことが明確に示す通りです。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/en/about/partners 66 世界銀行 年次報告 2019 プロジェクトの開発効果を向上 世界銀行は、プロジェクト、政策、プロセスの改善に継続して取り組むことで、 これまで以上に効果的かつ効率的な組織となり、開発効果を最大限に高められるよ う努力しています。 世界銀行の環境・社会フレームワーク 2018 年 10 月 1 日、世界銀行の新たな環境・社会フレームワーク(ESF)が 発効しました。これは投資プロジェクトのファイナンスに関するセーフガード政策 に代わるものですが、旧政策に基づいたプロジェクトが終了するまでの 5~7 年間 では 2 つの方法が併用されることになります。新フレームワークは、労働、気候 変動、労働安全衛生等、環境リスクと社会リスクをより広範かつ系統的に網羅して います。また、関係者の参加、透明性、説明責任、差別禁止、国民参加等の分野も 大幅に改善されています。 実際の導入に当たっては、政府関係者、プロジェクト実施スタッフ、主要関係者 (市民社会、民間セクター、大学及び研修センター、国内の二国間援助機関、国際 金融機関等)を対象に、世界銀行職員によるワークショップが 105 カ国で開催さ れた他、欧州及びアジアでも 40 を超える機関で開発パートナーを対象に同様の 研修が実施されました。更に、環境・社会リスク管理のための借入国の枠組みと 機能の強化に向けた戦略策定が進められています。世界銀行職員 2,500 人以上が 研修を受けた他、環境・社会専門家は、知識を深め実施能力を確立する専門家向け プログラムを受講しました。2018 年 10 月、世界銀行プロジェクトの環境・社会 リスクを追跡・管理する環境・社会管理システムが立ち上げられました。その一環 として 10 の環境・社会基準のそれぞれに関する借入国向けガイダンス・ノートが 国連公用語の全言語で用意され、オンライン上で閲覧が可能となっています。ま た、第三者モニタリング、差別禁止と障害、ジェンダーに基づく暴力(GBV) 、 警備員採用等のテーマに関するグッドプラクティス・ノート、テンプレート等の資料 も作成されています。関係者へのアウトリーチ活動としては、春季会合及び年次総会 におけるイベント、職能団体向けのプレゼンテーションが挙げられる他、国際金融 機関のワーキング・グループにおいて主導的な役割を果たしました。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/esf ジェンダーに基づく暴力への対応 世界銀行は、投資、調査・学習、各国の関係者との連携を通じて世界中で GBV の削減を進めています。IDA17 及び IDA18 を通じて、更には世界銀行グループの ジェンダー戦略が示す通り、プロジェクトが GBV 対策を講じることは重点課題の 1 つです。世界銀行は現在、運輸、教育、社会的保護、強制移住等の分野で GBV 要素を組み入れているプロジェクト、または GBV 対策を講じている単発のプロ ジェクトに対し、3 億ドル以上を提供しています。また、4 年目を迎えた「ディベ ロップメント・マーケットプレイス:ジェンダーに基づく暴力を解決するための イノベーション」を通じて、性的暴力防止イニシアティブとの連携の下、GBV の 防止・対策に向けた有効な戦略に関する理解を深めるため、低・中所得国 28 カ国 プロジェクトの開発効果を向上 67 で 40 件以上の研究プロジェクトに 400 万ドル以上を提供しました。更に、GBV タスクフォースからの提言を受け、世界銀行プロジェクトにおける性的搾取・虐待 リスクを予防するリスク評価ツールを開発しました。同ツールは、状況やプロジェ クトごとに関連リスクの厳密な評価方法を規定しており、土木工事を含めたプロ ジェクトの設計時点で活用されるものです。また、大規模な土木工事契約を伴う投資 プロジェクトの際の性的な搾取、虐待、ハラスメントといったリスクへの対処に役立 つグッドプラクティス・ノートも作成されました。このノートは環境・社会フレーム ワークの一環として作成されたものですが、同様のグッドプラクティス・ノートは 人的開発の主要セクター向けにも作成されています。 詳 細 は、 以 下 の リ ン ク を ご 参 照 く だ さ い。www.worldbank.org/en/topic/ socialdevelopment/brief/violence-against-women-and-girls 調達フレームワーク 2016 年に運用を開始した世界銀行の調達フレームワークは、投資プロジェクト を実施する途上国がより良い開発成果を達成するための戦略的な役割を担っていま す。新フレームワークでは、途上国がそれぞれの具体的なニーズ、固有の特性、 多様な市場、プロジェクト開発目的に応じて調達戦略を策定することができます。 全ての新規プロジェクトにこの新フレームワークが適用されますが、具体的な調達 戦略はプロジェクトごとに定められます。こうした戦略文書にはプロジェクトの 業務環境、実施能力、調達に及ぼし得る影響、市場条件の評価が示されており、調達 方法の策定に役立っています。これまでに437件のプロジェクト (合計430億ドル) に同フレームワークが適用されています。 同フレームワークの 2 つの特徴である「調達に関する代替的なアレンジ」 (APA) と「ハンズオン型の拡大実施支援」 (HEIS)は、能力が乏しい、あるいは脆弱な 状況下で、プロジェクトをより容易かつ効率的に実施することを目的としています。 APA では、国連機関や赤十字国際委員会等の他組織による調達方法や実施を認め ることにより、現場の効率が高まります。HEIS は、プロジェクトの迅速な実施の ため、世界銀行職員が援助受入国による世界銀行の調達規則の適用を支援すること を認めるもので、 アフガニスタン、イラク、 コソボ、ミャンマー、パプアニューギニア におけるプロジェクトで用いられています。 円滑な実施のため、同フレームワークには業務チーム、借入国、民間セクターに 向けたガイダンス・ノートが含まれています。ESF の実施後、世界銀行の工事用 標準入札書類が新たな基準を反映したものに改訂されました。 また、 同フレームワーク の新たな特徴を周知するためのアウトリーチ活動が世界各地で実施されています が、参加企業は盤石なビジネス環境づくりに役立ったとしています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/procurement 信託基金の計画と使途の改善 信託基金は IDA と IBRD の資金を補完しており、世界銀行が優先課題に取り組む に当たり極めて大きな役割を担っています。信託基金の数は 500 を超え、援助 受入国に対する世界銀行の融資実行額の約 10%を占める他、助言サービス・分析 活動全体の資金の約 3 分の 2 を占めるなど、知識アジェンダにとっても不可欠な 存在です。 現在、信託基金改革が進められていますが、その過程でいくつかの課題が浮き彫 りになりました。その 1 つは、信託基金の件数の 70%は、細分化され、小規模で 使途も限定されているにもかかわらず、それらを合計しても信託基金全体の総額の 7%に過ぎないことです。また、計画立案や配分のサイクルがそれぞれ異なるため に、世界銀行の戦略や計画立案サイクル、更には広範な優先課題と整合を図ること 68 世界銀行 年次報告 2019 が困難となっています。その結果、設置、資金調達、ガバナンス、報告にかかる コストも割高となってしまいます。 このため世界銀行は、戦略的重点課題に資金が充てられるよう徹底すると共に 細分化を緩和するため、信託基金ポートフォリオを「アンブレラ 2.0」と名付けた 少数の成果重視型の大規模なプログラムに集約することを目指しています。規模の 拡大による整合性と効率性の強化、ガバナンスと報告のプロセス確立による処理コスト 削減、共通の重点課題を中心に据えたパートナーとの対話が、その目的です。 2019 年度にパイロット・フェーズが開始され、そこから得られた教訓をプログラム の最終設計に取り入れ、2020 年度に世界銀行全体で改革を実施する予定です。 協調融資、そして規模拡大の前に 「概念実証」が必要とされる新たなイノベーション 等、アンブレラ 2.0 に該当しない信託基金についても、集約するための施策を策定 中です。 世界銀行は現在、新規及び既存の金融仲介基金の選択性とリスク管理を強化する ための管理枠組みを準備中です。これにより世界の開発コミュニティに対し、複数 の実施機関をサポートする独立管理型の多国間プラットフォームが提供されます。 主な対象は、地球公共財の分野で、世界銀行はそうした基金において有限責任を 負う受託者としての役割を担いますが、事務局を置くことや実施主体の 1 つとなる 場合もあります。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/dfi 申立て対応サービス 申立て対応サービス(GRS)は、世界銀行プロジェクトにより影響を受けてい る又はその恐れがあると考える個人や国が、世界銀行に直接申立てを行うメカ ニズムです。 GRS は、組織として受けた申立てに対し、対話や問題解決の促進、または 紛争解決のための適切なツールの活用等、迅速かつ積極的に対応します。 GRS は、これまでの経験や確かな実績を基に、提供する対応サービスの種類 を明確にし、システムや運営手順を改訂するなど、効率性と有効性を強化してい ます。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/grs プロジェクトの開発効果を向上 69 世界銀行グループの価値観と人材 世界銀行の業務アプローチの軸となっているのは、世界銀行の職員、援助受入国、 パートナー、そして地球に対する敬意です。2019 年度、世界銀行は内部業務にお いても引き続き、持続可能な環境の確保と職員の発言権保護に力を注ぎました。 世界銀行グループの業務及び組織としての持続可能性への配慮は、グローバル・ リポーティング・イニシアティブ(GRI)指数で示されています。同指数は年度ご とに更新され、以下の世界銀行年次報告のサイトからアクセスが可能です。 www.worldbank.org/annualreport 世界銀行グループが求める価値観 2018 年度に世界銀行グループの基本的価値観として「敬意」、「成果」、 、 「誠実」 「チームワーク」 、「イノベーション」が定義されました。現在、こうした価値観を 世界銀行グループの文化や業務に組み入れるため、新たな倫理行動規範を策定して います。新規範は職員が自らに求められる姿勢や行動について理解を深めるのに 役立ちます。不適切な行為につながり得る状況は職員規程に定められています。 世界銀行が有する人材 世界銀行で勤務する約 1 万 2,300 人の職員は、世界各地で喫緊の開発課題に 取り組んでいます。世界銀行グループの人事戦略は、人材の適材適所の配置を目指 すと共に、援助受入国に最大限の価値を提供し、雇用のバリュー・プロポジション を強化することにより、世界銀行が開発に携わる人にとって最高の職場となるよう 努めています。 困難な環境下での勤務 世界銀行は、最も必要性の高い状況への支援に力を注い でおり、援助受入国に一層の貢献ができるよう、脆弱性・紛争・暴力(FCV)の 影響下にある国々に対する取組みを拡大しています。世界銀行は IDA18 の下で、 また現地への権限の委譲により、2020 年度末までに 150 人の職員を投入して FCV 諸国におけるプレゼンスを拡大するというコミットメントの達成に向けて 順調に進んでいます。職員へのインセンティブを強化すると共に、新人研修、 リーダーシップ育成、学習、キャリア開発等にターゲットを絞ったプログラムも 提供しています。 職員の健康と安全を保証  世界銀行は職員の健康と安全を高め保護するため、 一連のプログラムやサービスを提供しています。例えば、労働安全衛生管理システム は、国際的な安全衛生基準に則ったアプローチを用いて、職場における健康・安全 面のリスクを特定し、体系的に管理するものです。コーポレート・セキュリティ 部門により、職員研修、移動時の安全確保、武装車両・設備、施設、職員用ツール (新たなモバイル・アプリ「Travel Advisory」等)が整備されるなど、安全対策 強化が続けられています。また同部門は、FCV 諸国における業務拡大の一環とし て、深刻な脅威のある場所を重点対象とし、プロジェクト・パートナーらと協力し てそうした環境下で働く職員を支援しています。 多様性と包摂性の促進 世界銀行は 2019 年度も引き続き包摂性に重点を置き、 あらゆるレベルでジェンダー・パリティ解消の進捗状況を追跡する新たなジェン ダー指標を導入しました。また、無意識の偏見を解消し、性的指向や性自認に対す る意識啓発のためにバーチャル・リアリティを活用した新たな学習プログラムを 70 世界銀行 年次報告 2019 開始しました。更に世界銀行グループは、障害のある職員を増員し、その経験を高 めることに力を注いでいます。その一環として、多様性・包摂局が「障害者アドボ カシー・リソース・グループ」との連携の下で、組織全体での障害に配慮した職場 づくりの参考とするため、初の調査を開始しました。 知識管理行動計画の実施 2019 年度、世界銀行は知識管理業務の効率性と有効 性の向上のため、いくつかのプロジェクトに着手しました。こうしたプロジェクト は(i) 職 員 の 専 門 性 の 特 定、 個 々 の 経 験 が 生 か さ れ る プ ロ ジ ェ ク ト 業 務、 ユニット・レベルでの知見や経験の管理強化により、チームとして各種の知識分野を カバーできるようにし、 (ii)新たな専門性の導入、研修カリキュラムの策定、有用 なツールの提供により、世界銀行の知識管理担当者の専門性の段階的強化と学習を 進め、 (iii)世界銀行全体としての知識共有活動の展開、アウトリーチと各種支援 を通じた幅広い知識管理アジェンダの推進により、知見強化イニシアティブを進め ていきます。 継続的学習  職員が個々に然るべき研修を選び継続的に学習できるよう、世界 銀行の重点課題に沿った新たな職員研修コースが導入されました。また、目標を絞 り込んでキャリア構築を進めるため、グローバル・プラクティスや総局別に必要と なる業務能力を身に付ける新たな学習プログラムが導入されています。更に、成果 に基づいた評価・学習分析システムにより、職員の学習成果を評価し、データ、 ベンチマーク、エビデンスを踏まえてタイムリーに決定を下し方向性を修正できる ようになっています。 職員が安心して懸念や対立について相談できる場所 2019 年 6 月 30 日現在、 倫理行動局(EBC)のアドバイザリー・サービスに寄せられた職員からのアドバイ ザリー依頼件数は 1,053 件に上り、内 3 分の 2 が当日中、90%が 48 時間以内に 回答されています。内部公正制度の下、オンブズマン、 「敬意ある職場づくり」アド バイザー、調停、ピア・レビュー・サービス、パフォーマンス管理審査等、職員が 対立解消のための助言、指導、情報を求めるためのサービスが複数用意されていま す。これらのサービスは、互いへの敬意に基づいた職場文化を構築するために 不可欠な要素の 1 つとなっており、2019 年 3 月 31 日現在、助言を求めた職員は 1,142 人に上ります。 表 14:世界銀行(IBRD/IDA)職員のデータ、2017~19 年度 指標 2017 年度 2018 年度 2019 年度 関連指標 正規職員総数 11,897 12,216 12,283 GRI 401; SDG 8 米国以外の配属(%) 42.0 42.6 43.2 短期コンサルタント / 臨時職員 4,948 4,810 5,097 (FTE) 職員満足度(%) 80 — 79 多様性指数 0.91 0.92 0.93 GRI 405; SDG 8 女性管理職(%) 39.0 41.5 44.1% 途上国出身管理職(%) 43.3 43.1 42.3% 女性テクニカル職員(等級 GF+、%) 44.2 44.5 45.3% サブサハラ地域 / カリブ海地域出身 12.9 13.3 13.6% テクニカル職員(等級 GF+、%) 本部での職員 1 人当たり研修日数 4.7 5.1 5.1 GRI 404; SDG 8 現地事務所での職員 1 人当たり 4.6 4.4 4.7 研修日数 注: — =入手不能;FTE =のべ人数(職員);GF+ =給与等級 GF 以上、すなわち専門職;GRI =グロー バル・リポーティング・イニシアティブ。2018 年度は職員満足度調査は実施されず。 世界銀行グループの価値観と人材 71 セクシュアル・ハラスメントの防止と対応に関する行動計画 世界銀行グループ は、セクシュアル・ハラスメント及び性的に不適切な行為に組織として積極的に 対処しています。2019 年度、プロセスではなく人を重視する行動計画の策定に 着手しました。同計画にはベスト・プラクティスに沿った具体的なイニシアティブ が 50 以上含まれている他、独立した外部専門家 3 名の提言も取り入れられています。 主な特徴としては、ハラスメント対策コーディネーターのポスト新設、不適切な 行為に対処するマネージャー権限の確立、職員に配慮した秘密厳守の新たな苦情 申立て手段の整備、調査の合理化、透明性の向上 (EBC が事実関係を立証した場合、 結果を匿名で公表) 等が挙げられます。 職員の声を代弁 職員の権利や利益は、スタッフ・アソシエーションが代弁して います。同アソシエーションに加入する世界銀行グループ職員及びコンサルタント は約 1 万 1,800 人に上ります。同アソシエーションは 2019 年度も引き続き、人事 部門及びマネジメントとの対話を進め、組織改革、報酬制度改正に伴う問題、健康 保険の補償内容、労働衛生上の問題、労働者支援等に関する職員の懸念を伝えまし た。また、ワーキング・グループへの参加促進、職員の全般的な権利に関する全 職員向けの勉強会発足を通じ、 引き続き世界銀行グループ職員の意見を代弁しました。 環境へのコミットメントの強化 世界銀行は持続可能性原則を指針とし、業務か ら生じる環境への影響の解消に体系的に取り組もうとしています。世界銀行グループ が組織として責任を果たす活動を監督する幹部レベルの委員会は、エネルギー、 水、温室効果ガス排出、固形廃棄物、サプライチェーン等、世界銀行グループの環境 フットプリントの主要分野で活動を拡大しています。詳細は「2019 Sustainability Review(仮題:2019 接続可能性レビュー) 」でご覧ください。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/corporateresponsibility 72 世界銀行 年次報告 2019 世界銀行を主導 世界銀行の全ての権限は、国際復興開発銀行協定により、世界銀行の最高意思 決定機関である総務会に付与されています。各加盟国は、総務1名と総務代理1名を 任命します。 総務会は、IBRD 及び IDA の理事会を構成する 25 名の理事に大半の権限を委任 しています。加盟 189 カ国を代表する理事会は、世界銀行の業務全般に責任を 負い、職務を遂行しています。総裁は理事会が選任し、理事会議長を兼任します。 現在の理事会の任期は 2018 年 11 月から 2020 年 10 月までです。 理事会は、世界銀行の業務全般、及び戦略的方向性を導く上で重要な役割を果た し、世界銀行の役割についての加盟国の見解を代弁します。また、総裁が提出する IBRD 及び IDA の貸出・融資・グラント・保証、新規政策、運営予算、その他の 業務上や財務上の問題についてのプロポーザルを審議し、決定を下します。更に、 世界銀行グループと援助受入国との関係や開発プログラムの支柱である国別パート ナーシップ枠組みについても、世界銀行マネジメントや理事会が協議します。ま た、財務諸表、運営予算、及び年度ごとの成果を示した世界銀行年次報告を総務会 に提出する責任も負っています。筆頭理事は、任期が最長の理事が務め、総裁の 職務、理事会倫理委員会の委員選任、理事会の対外業務の調整等、理事会内で役割 を担っています。 理事会には5つの常任委員会と1つの特別委員会があります。これらの委員会は、 政策や実務についての綿密な検討を通じ、理事会の監督責任の履行を補佐してお り、各理事は 1 つ又は複数の委員会に属しています。全理事が所属する理事会運営 委員会は隔月で開催され、理事会の戦略的作業計画に関する協議を行います。 理事会は、委員会を通じて、マネジメント、並びに理事会直属の独立した組織で ある査閲パネル及び独立評価グループに協力を仰ぎながら、世界銀行グループの 活動の有効性を定期的に検証しています。 図 7:理事会の委員会 世界銀行理事会 運営委員会 開発効果委員会 監査委員会 予算委員会 開発効果の評価、 財務、会計、リスク管理、 予算承認において 戦略的方向性への指針、 内部統制、組織倫理を監督 理事会を補佐 プロジェクトの質・成果の監視 人事委員会 ガバナンス・運営委員会 倫理委員会 人事関係の戦略・政策と ガバナンス、理事会の有効性、 理事の行動規範の解釈や 実務を統括し、 理事会の任務に適用する 適用の検討を目的として 世界銀行の業務上のニーズを 運営政策の主導 2003 年に臨時に設置 満たしたものとなるよう確認 世界銀行を主導 73 プロジェクトの説明責任と 透明性の確保 世界銀行は、業務実績のモニタリング、組織・制度面のリスク管理、懸念や申立て への対処、業務の透明性確保のための各種メカニズムを通じて、援助受入国、出資 国、様々な人々に対する説明責任を果たしています。その一環として、開発効果を 最大化し最高水準の説明責任を果たすために、世界銀行内部のユニットと独立した 機関の両方から、ガイダンスや提言を仰いでいます。 独立評価グループ 独立評価グループ(IEG)は、成果と実績を評価し改善点を提案することによる 世界銀行グループの開発効果向上を目的としています。IEG の評価は、説明責任と 教訓の特定に貢献すると共に、世界銀行の方向性、政策、手続きや、国別パート ナーシップ枠組みの参考としても役立てられています。 IEG の報告書「2018 Results and Performance of the World Bank Group (仮題:世界銀行グループの成果と業績) 」2018 年版は、世界銀行の融資がもたらす 成果への評価が引き続き高まっていると指摘します。終了したプロジェクトの内「や や満足」以上の評価を得たプロジェクトの割合は2012~14 年度の69%から2015~ 17 年度は76%に上昇しており、現在、成果に対する評価は、金融危機前の2006~ 08 年度に終了したプロジェクトの評価レベルを件数・割合共に上回っています。 2019 年度、IEG は、市場の創出、域内統合の促進、知識の流れと協調の促進等 に関し、世界銀行グループの実績を検証する大規模な評価を完了しました。その 結果、テーマ、セクター、業務プロセスの観点に立ったプロジェクトの改善に向け た教訓が明らかになりました。 詳細及び IEG の年次報告は、以下のリンクをご参照ください。 ieg.worldbankgroup.org 査閲パネル 世界銀行の査閲パネルは、国際金融機関初の独立した説明責任メカニズムとし て、理事会により設立されました。査閲パネルは、IBRD 又は IDA が支援するプロ ジェクトにより被害を受けた、又は受ける可能性があると考える人々やコミュニ ティが、自らの懸念表明や助力要請のできる独立した組織で、異なる国出身の 3 人 の開発専門家と、少人数の事務局で構成されています。委員の任期は 5 年間で、 再任は認められず、任期終了後に世界銀行で働くことは禁じられています。査閲パネル は 2019 年度で設立 25 周年を迎えました。 2019 年度、査閲パネルは 8 件の新規申立てを受理し、ウガンダの 2 件の生物 多様性オフセット関連プロジェクトについて調査報告書 1 通を理事会に提出しまし た。また、インドの農村部給水プロジェクトの調査を開始しました。2019 年度、 理事会の協議を経てアドバイザリー機能が正式に認められた査閲パネルは、理事会 開催前に調査報告書に内密に目を通す機会を申立人に与える権限を付与されました。 詳細及び査閲パネルの年次報告は、以下のリンクをご参照ください。 www.inspectionpanel.org 74 世界銀行 年次報告 2019 世界銀行の情報公開政策 世界銀行が 2010 年に導入した情報公開政策は、国際開発金融機関の標準 となっており、開発パートナーとの関係強化に貢献しています。情報公開 政策は、例外項目を除いた世界銀行所有の全ての情報を公開するというコン セプトに基づいています。また、オープン・データ、オープン・ファイナンス、 オープン・ナレッジ・リポジトリ、オープン・アーカイブ等は、情報公開 政策の下での情報公開の基礎となっており、いずれも世界銀行の活動の 透明性、情報アクセス、説明責任を高めています。また、積極的に開示された 文書の件数も大幅に増加しています。 積極的に開示された情報には「報告書・出版物」データベースへ 300 万 回以上のアクセスがあり、ダウンロード数は 3 千万回に上りました。2019 年度、世界銀行は合計 696 件の情報公開請求に対応しました。 情報公開請求が棄却された場合は、情報公開政策又は公共の利益、あるい はこの両方に反すると申し立てることができます。全ての申立てに第 1段階 で対応するのが世界銀行内に置かれた 「情報公開委員会」 であり、公益を根拠 とした申立てに関しては同委員会の決定が最終となります。情報公開政策 違反だとする申立てに関する第 2 段階かつ最終的な判断は、国際的な専門家 3 名で構成される独立した外部の不服審査会に委ねられます。2019 年度の 情報公開委員会の取扱件数は 4 件で、不服審査会への新規の申立てはありま せんでした。 詳細及び世界銀行への情報公開の請求は、 以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/en/access-to-information 組織公正総局と制裁制度 組織公正総局(INT)は、不正と闘い予防するという世界銀行グループのコミット メントを反映し、世界銀行グループの融資を受けたプロジェクトにおいて不正、 汚職、談合、強制、妨害等の違反行為がないかを調査し、世界銀行グループの職員 や調達先の関係するものも調査の対象としています。裁定者に事案を提起する INT は、世界銀行グループが設ける二段階裁定制度において重要な役割を果たしていま す。裁定者は、第 1 段階では世界銀行の取引資格停止局と IFC 及び MIGA の同様の 部署、第 2 段階では世界銀行グループ制裁委員会が務めます。裁定者は不正を疑わ れる当事者に対し適正手続きを進め、不正行為をしたと判断された者への取引資格 停止や制裁を下します。INT の規範遵守局は、制裁中の企業による制裁解除に向け た取組みに関与しています。INT は世界銀行グループのタスクチーム・リーダーら と緊密に協力し、プロジェクトにおける不正・腐敗リスクを軽減するべく、不正 リスクを特定し、今後の業務への教訓を導き出しています。 世界銀行グループは 2019 年度、53 の企業・個人に対して制裁を科しました。 その 1 つである建設大手オデブレヒトの土木子会社は、3 年間の取引資格停止を受 けました。合意の条件を満たした 23 社については、制裁を解除しました。世界銀行 グループは他の国際開発金融機関(MDB)による 33 件の取引資格停止について 同一処分を科す共同措置を発動しました。世界銀行グループによる取引資格停止の 内、他の MDB による共同措置の発動対象になったものは 39 件でした。 詳細及び世界銀行グループ制裁制度の年次報告は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/integrity プロジェクトの説明責任と透明性の確保 75 グループ内部監査局 グループ内部監査局(GIA)は、世界銀行グループの価値を保護・拡大するため に、独立した客観的見地から、深い理解に基づいたリスク・ベースの保証と助言を 提供しています。リスク管理のプロセス及びその全体的ガバナンスが適切に設計さ れ、効果的に機能しているか否かについて、独立した見解及び合理的保証を幹部や 理事会に提供します。また、業務上及び企業としての機能及び情報技術のシステム やプロセスに関する監査、並びにアシュアランスとアドバイザリーの 2 種類の レビューを実施しています。GIA は、内部監査人協会の「専門職的実施の国際 フレームワーク」に従って業務を遂行しています。 GIA は組織及び関係者にとっての優先事項及び重大なリスクに重点を置き、 アシュアランスとアドバイザリーの両方をカバーするレビューを年間約 25 件実施 しています。2019 年度に取り上げた主なテーマは、プロジェクトの環境・社会リスク 管理、世界銀行グループが採用した効率化策、IDA18 IFC-MIGA 民間セクター・ ウィンドウ、IDA の財務リスク管理、資産負債管理、業務リスク管理、プロジェクト における災害リスクへの対応、情報技術、サイバーセキュリティ等です。 詳細及び GIA の年次及び四半期報告は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/internalaudit 76 世界銀行 年次報告 2019 資金の戦略的活用 世界銀行グループ全体で戦略的支援を重視 世界銀行は IBRD と IDA で構成されていますが、これまで以上の成果をパート ナーにもたらすため、グループ機関の IFC 及び MIGA と緊密に連携しています。 世界銀行グループの比較優位は、援助受入国の開発課題克服のためにグループが、 各国との深い関わりと世界的な展開、官民両セクターとの協力、セクター横断的な 知識、資金を動員し活用する能力等を効果的に組み合わせ、駆使していることにあ ります。グループ各機関の連携は年々強化されており、国、地域、セクター、テーマ 毎に、また地球規模でも、あらゆるレベルで多岐にわたる活動を網羅しています。 世界銀行グループは、援助受入国がより強力なシステムや制度を構築し、政策や 制度改革の効果がプロジェクトの垣根を越えて広がるよう資金援助を行っており、 その動員力とパートナーシップは世界の開発課題の特定と対応に役立っています。 世界銀行は業務の革新を積極的に進め、経験から学び、エビデンスと高い基準を用 いることで、各国において成果を上げています。世界銀行は、長期的な関係、援助 受入国に関する深い理解、そして現場における存在感の強化を通じ、信頼できるアド バイザーであると同時に公正な仲介者の役割を果たしています。現在は、プロ ジェクトの質を維持しながら、脆弱・紛争国や根強い貧困の残る地域等、世界でも 特に困難な環境への対応を拡大中です。融資、基準、アプローチの刷新を継続的に 進める中、2018 年 10 月には独自の環境・社会フレームワーク(ESF)が発効しま した。 世界銀行グループがグローバル目標達成に向けた活動を持続・加速していくに は、課題の規模に見合った資金力と同時に、革新的な方法や助言を提供できる強力 な組織であることが必要です。世界銀行の理事会及びマネジメントは、より良い 世界銀行グループづくりに向けて、2018 年 10 月に過去最大となる 130 億ドルの 増資による資本パッケージと一連の財政・政策改革を承認しました。これにより 2019~30 年度、年間平均融資規模は1千億ドルに増加しました(2014~16 年度は 650 億ドル) 。同資本パッケージにより、全ての援助受入国への支援、地球規模の 課題への取組みの主導、開発資金の動員、ビジネスモデルの継続的改善が可能と なります。 援助受入国との関わりを定義 世界銀行グループは資金、分析、助言の各サービスを借入国に提供するために 国別モデルを設けています。既存のサービスと計画中の新規のサービスはいずれ も、世界銀行、IFC、MIGA が合同で作成した国別パートナーシップ枠組み(CPF) にて概説されています。CPF は、援助受入国に対する世界銀行グループの 4~6 年 間にわたる取組みを示すもので、体系的国別診断(SCD)をはじめとする分析、 援助受入国が自ら設定した開発目標、資金・開発サービスの他の提供者と比較した 世界銀行グループの優位性に基づいて策定されています。 CPF は世界銀行グループのプログラム目標を設定し、効果的に達成を図るための 目安となる資金、分析、助言の組み合わせを示しています。また、実施中の活動に ついて合意済みの目標や、計画中の活動で期待されるアウトプット等の成果枠組み も含まれており、プログラムの戦略的方向性を定めると共に、CPF 完了時にその 効果について評価するために用いられます。 資金の戦略的活用 77 各 CPF については、公表前に理事会と協議を行い、理事会からの指導や意見を 仰ぎます。 SCD は、援助受入国における世界銀行グループの取組みの基礎となる分析であ り、国家当局や民間セクターをはじめとする関係者と協議の上で作成されますが、 世界銀行グループの見解が反映されています。SCD はまた、援助受入国との協議 の際や、最大限の開発効果を得るための目標・施策に共同で取り組む際に基準とし て参照されます。 SCD と CPF は国別モデルに不可欠な要素であり、国別プラットフォームの分析 の基礎となります。2019 年度末現在、世界銀行グループは 104 カ国の SCD、79 カ国の新たな CPF を作成しています。 2018 年度に導入されたプログラム的多面アプローチにより、援助受入国が長期 的で大規模、または複雑な活動を、小規模なフェーズに分けて実施した上で、1つの プログラムにまとめ上げることが可能になります。同アプローチは、設計面で調整の 余地はあるものの、実施学習を中心に位置付けており、援助受入国やプロジェクト の状況の変化に適応が可能です。また、各種の経験をフェーズ内及びフェーズ間で 迅速にまとめ上げることにより、成果を最大限に高めています。マダガスカルの 栄養成果向上プログラムが、同アプローチを使用した最初のプロジェクトです。 世界銀行グループは小規模国フォーラムを通じ、規模の小さな国々に特有の開発 課題に取り組んでいます。同フォーラムの加盟国は 50 カ国で、内 42 カ国が世界 銀行が定義する小規模国に該当し、8 カ国はそれよりも人口は多いものの同様の 課題に直面する国々です。同フォーラムでは、春季会合及び総会に合わせて年 2 回 の会議が開催されています。2019 年度春季の閣僚円卓会議では、ブルー・エコノ ミーと海洋汚染、適応と強靱性、経済と財政の持続可能性が取り上げられました。 グローバル・スタンダードを設定 世界銀行は、持続可能性、透明性、説明責任、包摂性、公正性、価格に見合った 価値の各分野におけるグローバル・スタンダードの確立・促進において大きな役割 を果たしています。そのために世界銀行は(i)政策枠組みが国際基準やベスト・ プラクティスを反映・促進するものとなるよう常に発展・更新を続け、 (ii)他の 国際開発銀行や二国間開発機関との連携や調和を図り、 (iii)世界的なフォーラム に参加して議題作りに貢献し、 (iv)進化を続けるグローバル・スタンダードを援助 受入国が採用し実施できるよう実践的な支援や技術協力を提供しています。 2016 年度の調達フレームワーク改革では、公正性、価格に見合った価値、経済 性、目的適合性、効率性、透明性、及び公平性という調達の基本原則を世界銀行の 資金が使われる全ての調達に取り入れ、推進しています。また、新しい環境・社会 フレームワーク(ESF)を通じて世界銀行の環境・社会面の要件と新たな国際基準 との一層の調和を図っています。特に重点を置いているのは、透明性、差別禁止、 市民参加、説明責任の各項目です。 世界銀行は、資金の透明性確保により、何に融資するかのみならず、どのように 融資するかについても自らの価値観を反映することで模範を示しています。 独立評価グループの報告書が指摘する通り、世界銀行による融資がもたらす成果 への評価は引き続き高まっており、独立評価グループ(IEG)の報告書「世界銀行 グループの成果と業績」最新版は「やや満足」以上と評価されたプロジェクトの 割合が 2012~14 年度に終了したプロジェクトでの 69%から 2015~17 年の 76%に上昇したと指摘しています。これと並行して世界銀行の業績に対する評価 でも「やや満足」以上の評価が 2012~14 年度のプロジェクトの 70%から 2015~ 17 年度の 76%に上昇しています。 資金の最大活用に向けた財政規律の維持 世界銀行グループは、トップ・ダウン型の 3 つの意思決定ポイント及びボトム・ アップによる 2 つのインプット段階において、年間戦略計画の立案、予算編成、 実績レビューのための「W」のプロセスを用いて資源の調整を図っています。 78 世界銀行 年次報告 2019 W1: 外的要因及び援助受入国の需要に応じた世界銀行グループのマネジメントに よる戦略計画の重点課題の設定 W2: 総局(VPU)レベルでの重点課題の検証・対応 W3: シニア・マネジメントによる世界銀行グループ各機関の重点課題の見直しと 詳細なガイダンスの作成 W4: 重点課題及び予算枠計画の決定を受けた VPU レベルでの活動計画の策定 W5: グループ各機関のシニア・マネジメントが行う VPU レベルでの予算配分の 審査及び総予算提案への合意。理事会による次年度予算枠の審査と承認 過去 5 年間に世界銀行グループが効率化を推進してきた結果、財務の安定性がも たらされています。資本パッケージの一環として、世界銀行と IFC は効率性と規模 の経済を促進し、予算の持続可能性維持と世界銀行グループの財政基盤強化に力を 入れています。 2020~22 年度の期間、世界銀行グループは中長期的な組織のあり方を示した フォワード・ルックの中で定めている通り、極度の貧困の撲滅と繁栄の共有の促進 という 2 大目標を達成するための重点課題の達成に注力していきます。具体的に は、 (i)援助受入国への直接的な支援、とりわけ IDA 第 18 次増資(IDA18)で 合意された業務拡大及び脆弱性・紛争・暴力(FCV)の影響下にある人々への支援、 (ii)IBRD による資本パッケージの拡大と実施のコミットメント、 (iii)民間セク ターのソリューションと市場の活用による開発資金の動員、 (iv)人的資本重視、 グローバルな課題における世界銀行グループのリーダーシップの重点化、 (v)有効 性・効率性向上のためのビジネスモデルの改善等が挙げられます。 IBRD の貸出承認額とサービス IBRD は、加盟 189 カ国による共同出資で成り立っている国際開発金融機関です。 世界最大の国際開発金融機関として、中所得国及び信用力のある低所得国に貸出、 保証、リスク管理商品、各種助言サービスを提供する他、地域や地球規模の課題へ の対応の調整を行っています。 2019 年度の IBRD の新規貸出承認額は、100 件のプロジェクト(内、3 件はIBRD と IDA のブレンド・プロジェクト)に対する 232 億ドルでした。 融資承認に関する監視、報告、意思決定向上のため、全ての融資プロジェクトに は資金を投入するセクター及びテーマが反映されるコード分類法が適用されていま す。セクター・コードは生み出された財・サービスの種類に基づいた経済活動の 分類を反映したもので、世界銀行の支援策が経済のどの部分を支えているかを示す ために使用されます。テーマ・コードは世界銀行の支援を受けた活動の目標や目的 を反映したもので、持続可能な開発目標(SDGs)に対する世界銀行の支援を把握 するために使用されます。 表 15:IBRD の地域別貸出承認額、2015~19 年度 単位:100 万ドル 地域 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 アフリカ地域 1,209 669 1,163 1,120 820 東アジア・大洋州地域 4,539 5,176 4,404 3,981 4,030 ヨーロッパ・中央アジア地域 6,679 7,039 4,569 3,550 3,749 ラテンアメリカ・カリブ海地域 5,709 8,035 5,373 3,898 5,709 中東・北アフリカ地域 3,294 5,170 4,869 5,945 4,872 南アジア地域 2,098 3,640 2,233 4,508 4,011 合計 23,528 29,729 22,611 23,002 23,191 資金の戦略的活用 79 表 16:IBRD の地域別実行額、2015~19 年度 単位:100 万ドル 地域 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 アフリカ地域 816 874 427 734 690 東アジア・大洋州地域 3,596 5,205 3,961 3,476 5,048 ヨーロッパ・中央アジア地域 5,829 5,167 2,799 4,134 2,209 ラテンアメリカ・カリブ海地域 5,726 5,236 3,885 4,066 4,847 中東・北アフリカ地域 1,779 4,427 5,335 3,281 4,790 南アジア地域 1,266 1,623 1,454 1,698 2,598 合計 19,012 22,532 17,861 17,389 20,182 表 17:IBRD のセクター別貸出承認額、2015~19 年度 単位:100 万ドル セクター 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 農業・漁業・林業 843 561 754 2,561 1,025 教育 1,496 1,788 1,074 1,685 1,875 エネルギー・採取産業 3,361 4,599 4,434 3,084 2,847 金融セクター 3,433 2,657 1,879 764 2,299 保健 893 1,181 1,189 2,204 1,674 産業・貿易・サービス 1,684 3,348 2,694 3,416 2,361 情報通信技術 90 194 503 324 611 行政 3,175 5,111 4,754 2,189 5,327 社会的保護 2,687 1,393 778 2,091 2,115 運輸 3,202 4,569 2,551 2,074 1,485 水・衛生・廃棄物処理 2,664 4,192 2,000 2,610 1,571 合計 23,528 29,729 22,611 23,002 23,191 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、 2017年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使用されている。過去の各年度のデータ も新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致しない場合もある。変更に関 する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 表 18:IBRD のテーマ別貸出承認額、2018~19 年度 単位:100 万ドル テーマ 2018 年度 2019 年度 経済政策 1,124 1,363 環境・天然資源管理 10,409 8,514 金融 2,501 3,546 人間開発・ジェンダー 6,641 7,227 民間セクター開発 4,945 4,438 公共セクター管理 1,353 2,912 社会開発・社会的保護 2,844 2,453 都市・農村開発 8,593 6,511 注: 世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなテーマ・ カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの貸出承認額が複数のテーマにわたる場合、テーマ 別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しないことから合計値は出していない。過去の各年度のテーマ 別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は加えられていない。直接比較することは できないため、過去のデータはこの表に記載していない。変更に関する詳細は、 projects.worldbank.org/theme を参照のこと。 80 世界銀行 年次報告 2019 表 19:IBRD の借入国上位 10 カ国、2019 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 インド 3,024 中国 1,330 インドネシア 1,950 モロッコ 1,255 ヨルダン 1,591 トルコ 1,113 エジプト・アラブ共和国 1,500 ウクライナ 950 アルゼンチン 1,391 コロンビア 930 IBRD の原資と金融モデル 加盟国の開発プロジェクトに資金を提供するため、IBRD は自己資本の他、資本 市場で世銀債発行により調達した資金を原資として貸出を行っています。IBRD は、 ムーディーズから Aaa、スタンダード&プアーズから AAA の格付けを受けており、 IBRD 債は投資家から信頼性の高い債券と評価されています。IBRD は、長期的に 最大の価値を、借入国にとり最も安定した持続可能な形でもたらす資金調達戦略を 採っており、国際資本市場で調達した資金を途上国へと導くことで組織の目標達成 を図っています。 全ての IBRD 債は持続可能な開発を支援するもので、IBRD は、世界各国の多数 の投資家を対象とした大型公募債に加え、特定の市場や投資家のニーズに合わせた 私募債も発行しています。IBRD 債は、資産運用会社、保険会社、年金基金、中央 銀行、企業、銀行等、世界中の機関投資家を通じて、官民両セクターと世界銀行の 開発目標の結び付きを仲介しています。IBRD は、固定金利、変動金利、そして 様々な通貨建てや償還期間の世銀債を世界中の投資家の需要に応えて発行します。 新興市場通貨建ての新たな金融手法や世銀債は、国際的な機関投資家に新たな市場 を開くケースも多くあります。IBRD の資金調達額は、年により変動します。 こうした戦略により、IBRD は相対的に低い金利で資金を調達し、その結果借入 国も IBRD から低金利で資金を借り入れることができます。また、直ちに貸出に回 されない資金は、必要な時にすぐに現金化できる形で、IBRD の投資ポートフォリ オで運用されています。2019 年度、IBRD は 27 の通貨建ての世銀債を発行し、 540 億ドル相当の資金を調達しました。 IBRD はその加盟国に対してサービスを提供する組織であり、営利を目的とはし ていませんが、健全な財務体質を確保し、開発活動を継続するために十分な利益を 確保できるよう努めています。理事会は、2019 年度の当期未処分利益の内、IDA への 2 億 5,900 万ドルの移転、剰余金への 1 億ドルの移転、及び一般準備金への 図 8:IBRD のビジネスモデル 自己資本 IDA及び信託基金 貸出 借入 収入 投資 他の開発業務 資金の戦略的活用 81 表 20:IBRD の主要財務指標、2015~19 年度 単位:100 万ドル、ただし比率は% 指標 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 貸出の概要 承認額 a 23,528 29,729 22,611 23,002 23,191 実行総額 b 19,012 22,532 17,861 17,389 20,182 実行純額 b 9,999 13,197 8,731 5,638 10,091 報告ベース 損益計算書 務会承認済みの移転・ 総 (715) (705) (497) (178) (338) その他の移転 純益/(純損) (786) 495 (237) 698 505 貸借対照表 総資産額 c 212,931 231,408 258,648 263,800 283,031 純投資ポートフォリオ 45,105 51,760 71,667 73,492 81,127 総貸出残高 155,040 167,643 177,422 183,588 192,752 借入ポートフォリオ 158,853 178,231 207,144 213,652 228,763 配分可能な利益 配分可能な利益 686 593 795 1,161 1,190 配分の内訳: 一般準備金 d 36 96 672 913 831 国際開発協会 650 497 123 248 259 剰余金 0 0 0 0 100 利用可能資本 e,f 40,195 39,424 41,720 43,518 45,360 自己資本 資本貸出比率(%)f 25.1 22.7 22.8 22.9 22.8 注:年度別の全てのデータは、www.worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表を参照。 承認額は、保証承認額及び世界銀行理事会の承認した保証ファシリティを含む。 a. IFC との取引及び融資手数料を含む。 b. 2019 年 6 月 30 日以降、デリバティブは現金担保受領後の取引相手方別の純額基準で示されている。 c. 比較のため、それ以前の期間も同様に表示されている。 2019 年 6 月 30 日の金額は 2019 年 8 月 8 日に理事会承認を受けた、2019 年度純利益から一般準備金 d. への振替案を示している。 非 トレーディング・ポートフォリオで市場レートで計算された未実現損益に伴う額及び関係する換算 e. 調整累計純額を除く。 利用可能資本は提案されている一般準備金への振替を含む。 f. 8 億 3,100 万ドルの振替(IBRD 内部留保)を総務会に提言しました。貸出、借入、 投資といった活動に伴いIBRDは、市場リスク、金融取引を行う相手方の信用リスク、 援助受入国の信用リスク、運営上のリスクにさらされています。 世界銀行グループでは、最高リスク管理責任者が、リスク監視業務を主導し、専任 のリスク委員会を通じた世界銀行グループの意思決定プロセスの支援を担当していま す。更に、IBRD は、世界銀行マネジメントによる監督機能を支える強力なリスク 管理枠組みを設けています。この枠組みは、IBRD が財政的に持続可能な形でその 目標を達成することを可能にするものです。こうした様々なリスクを総合的に管理 する上で最も重視している財務指標が「資本貸出比率」で、IBRD の財務・リスク 82 世界銀行 年次報告 2019 見通しに基づいて厳密に管理されています。2019 年 6 月 30 日現在、同比率は 22.8%、IBRD の累積授権資本は総額 2,799 億ドルで、内 171 億ドルが払込資本 です。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/ibrd IDA の融資承認額とサービス 最貧国向けの譲許的資金を提供する世界最大の国際機関である IDA は、受益国 自身が取り組む経済成長の促進、貧困削減、貧困層の生活の改善を支援する開発 融資、グラント、保証を提供しています。 2019 年度の IDA 対象国は 75 カ国でした。この他に、IDA17 期間の終了時に 卒業した 3 カ国(ボリビア、スリランカ、ベトナム)が例外的に経過措置として支援 を受けています。IDA 新規承認額は 254 件のプロジェクト(この内、3 件は IBRD/ IDA ブレンド・プロジェクト)に対する 219 億ドルでした。内訳は、融資が 138 億ドル、グラントが 78 億ドル、保証のための IDA 原資が 3 億 5,800 万ドルでした。 更に 2019 年度、IDA18 の IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウ(PSW)で、14 表 21:IDA の地域別融資承認額、2015~19 年度 単位:100 万ドル 地域 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 アフリカ地域 10,360 8,677 10,679 15,411 14,187 東アジア・大洋州地域 1,803 2,324 2,703 631 1,272 ヨーロッパ・中央アジア地域 527 233 739 957 583 ラテンアメリカ・カリブ海地域 315 183 503 428 430 中東・北アフリカ地域 198 31 1,011 430 611 南アジア地域 5,762 4,723 3,828 6,153 4,849 合計 18,966 16,171 19,463a 24,010b 21,932c a.パンデミック緊急ファシリティのグラント 5 千万ドルの承認を含まない。 IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 1 億 8,500 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 3,600 b. 万ドルとデリバティブ 900 万ドル。 IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 3 億 9,300 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 1 億 c. 600 万ドル、デリバティブ 2,500 万ドル、及び IFC-PSW 関連の直接投資 100 万ドル。 表 22:IDA の地域別実行額、2015~19 年度 単位:100 万ドル 地域 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 アフリカ地域 6,595 6,813 6,623 8,206 10,190 東アジア・大洋州地域 1,499 1,204 1,145 1,252 1,282 ヨーロッパ・中央アジア地域 314 365 310 298 931 ラテンアメリカ・カリブ海地域 383 303 229 223 340 中東・北アフリカ地域 194 44 391 569 647 南アジア地域 3,919 4,462 3,970 3,835 4,159 合計 12,905 13,191 12,668 a 14,383 17,549 a.パンデミック緊急ファシリティのグラント 5 千万ドルの実行を含まない。 資金の戦略的活用 83 表 23:IDA のセクター別融資承認額、2015~19 年度 単位:100 万ドル セクター 2015 年度 2016 年度 2017 年度 a 2018 年度 2019 年度 農業・漁業・林業 2,525 1,849 2,025 1,442 2,796 教育 2,124 1,431 1,773 2,836 1,767 エネルギー・採取産業 1,461 2,814 1,891 4,028 3,468 金融セクター 661 443 1,227 546 870 保健 2,197 1,191 1,246 2,062 1,736 産業・貿易・サービス 687 841 1,541 1,991 1,963 情報通信技術 265 78 519 419 779 行政 2,744 1,500 1,954 5,013 3,109 社会的保護 1,928 2,475 1,913 2,112 2,163 運輸 2,191 2,277 3,271 1,455 1,709 水・衛生・廃棄物処理 2,183 1,271 2,102 2,105 1,572 合計 18,966 16,171 19,463 24,010 b 21,932c 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環として、 2017年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使用されている。過去の各年度のデータ も新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致しない場合もある。変更に 関する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 2017 年度の IDA のセクター別内訳は、パンデミック緊急ファシリティのグラント 5 千万ドルを含まない。 a. IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 1 億 8,500 万ドルを含まない。この内、現在の IDA 分は保証 b. 3,600 万ドルとデリバティブ 900 万ドル。 IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 3 億 9,300 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 1 億 c. 600 万ドル、デリバティブ 2,500 万ドル、IFC-PSW 関連の直接投資 100 万ドル。 表 24:IDA のテーマ別支援承認額、2017~19 年度 単位:100 万ドル テーマ 2017 年度 a 2018 年度 2019 年度 経済政策 1,791 468 1,073 環境・天然資源管理 5,766 9,491 9,680 金融 1,507 1,642 2,418 人間開発・ジェンダー 6,471 7,509 7,860 b c 民間セクター開発 4,837 4,240 5,145 公共セクター管理 1,936 3,827 2,513 社会開発・社会的保護 2,544 2,980 2,722 都市・農村開発 8,352 8,654 7,866 注:世  界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなテーマ・ カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの融資承認額が複数のテーマにわたる場合、テーマ 別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しないことから合計値は出していない。過去の各年度のテーマ 別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は加えられていない。直接比較することはで きないため、過去のデータはこの表に記載していない。変更に関する詳細は、 projects.worldbank.org/theme を参照のこと。 2017 年度の IDA のテーマ別内訳はパンデミック緊急ファシリティのグラント 5 千万ドルを含まない。 a. IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 1 億 8,500 万ドルを含まない。この内、現在の IDA 分は保証 b. 3,600 万ドルとデリバティブ 900 万ドル。 IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 3 億 9,300 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 1 億 c. 600 万ドル、デリバティブ 2,500 万ドル、及び IFC-PSW 関連の直接投資 100 万ドル。 表 25:IDA の借入国上位 10 カ国、2019 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 エチオピア 2,610 モザンビーク 980 バングラデシュ 2,237 コンゴ民主共和国 812 パキスタン 1,224 ブルキナファソ 797 ケニア 1,060 ニジェール 733 コートジボワール 1,050 マリ 599 84 世界銀行 年次報告 2019 件のプロジェクトに対して総額 3 億 9,300 万ドルの支援が承認されました。 融資承認に関する監視、報告、意思決定向上のため、全ての融資プロジェクトに は、資金を投入するセクター及びテーマが反映されるコード分類法が適用されてい ます。セクター・コードは生み出された財・サービスの種類に基づいた経済活動の 分類を反映したもので、世界銀行の支援策が経済のどの部分を支えているかを示す ために使用されます。テーマ・コードは世界銀行の支援を受けた活動の目標や目的 を反映したもので、SDGs に対する世界銀行の支援を把握するために使用されます。 IDA の原資と金融モデル IDA の活動資金は、従来から主に高・中所得国であるドナー国からの拠出金で支 えられてきました。その他、世界銀行グループ内の資金移転、過去の IDA 融資に 対する借入国からの返済金等によっても賄われています。革新的手法が導入された IDA18 パ ッ ケ ー ジ(2018~20 年 度 が 対 象 ) で IDA 出 資 国 は、 意 欲 的 な 政 策 パッケージのために、IDA の資金モデルの変革に合意し、IDA の強固な資本基盤を 活かしドナー国からの拠出金と資本市場で調達した資金を組み合わせる新たな開発 資金モデルを開発しました。同政策パッケージは、雇用と経済的変革、気候変動、 ジェンダーと開発、紛争・脆弱性・暴力、ガバナンスと組織・制度の構築という 5 つの特別テーマを掲げています。IDA は 2016 年に初の格付けとしてトリプル A を取得しました。高い自己資本比率と出資国からの支援に基づいた IDA の財務力 に加えて健全な財務方針と運用が、 トリプル A の信用格付の維持に役立っています。 IDA 第 18 次増資を支援するため、計 55 カ国のドナー(内 5 カ国は新規又は旧 ドナー)が 161 億 SDR(226 億ドル相当)をグラントとして提供することに合意 しましたが、その内 9 億 SDR(12 億ドル)は、譲許的ローンのグラント・エレ メント部分です1。ドナー国はまた、 36 億 SDR(51 億ドル)を譲許的ローンとして 提供しましたが、これはグラント・エレメントを除くと 27 億 SDR(38 億ドル) となります。更に、多国間債務救済イニシアティブ(MDRI)の下での債務削減と して 29 億 SDR(41 億ドル)を提供しました。 IDA18は、2017 年11月、ドナー国からの応募証書(IoC)及び譲許的パートナー ローン(CPL)契約の 60%の受領を以って発効に至りました。2019 年 6 月 30 日 現在、49 のドナー国が IDA18 の応募証書及び譲許的パートナーローン契約を提出 済みで、その総額は 191 億 SDR(268 億ドル相当)に上りました。 2018 年 4 月 17 日、IDA は国際資本市場で初の債券を発行し、15 億ドルの資金 を調達しました。初の IDA 債は市場で旺盛な需要を集め、世界中から総額 46 億 ドルの買い注文が積み上がりました。その後、IDA 短期債プログラムが立ち上がり (2019 年 3 月開始) 、これまでに償還期限 1~8 カ月の 16 件の取引により 15 億   1 IDA 第 18 次増資の資金枠組みの単位は特別引出権(SDR)。ここに示すドル換算額は、IDA18 の 基準為替レートを基に算出。 図 9:IDA のビジネスモデル 借入 非譲許的ローン 返済及び利息等 投資 自己資本 譲許的ローン及びグラント 資金の戦略的活用 85 表 26:IDA の主要財務指標、2015~19 年度 単位:100 万ドル、ただし比率は% 指標 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 2019 年度 融資・グラント・保証 承認額 18,966 16,171 19,513a 24,010b 21,932c 実行総額 12,905 13,191 12,718a 14,383 17,549 実行純額 8,820 8,806 8,154 9,290 12,221 貸借対照表 総資産額 d 163,234 167,985 173,357 184,666 188,553 純投資ポートフォリオ 28,418 29,908 29,673 33,735 32,443 純融資残高 126,760 132,825 138,351 145,656 151,921 借入金借入ポートフォリオ e 2,150 2,906 3,660 7,318 10,149 純資本額 147,149 154,700 158,476 163,945 162,982 損益計算書 受取利息、借入費用控除後 1,435 1,453 1,521 1,647 1,702 関連組織等からの資金移転 993 990 599 203 258 開発グラント (2,319) (1,232) (2,577) (4,969) (7,694) 純益/(純損) (731) 371 (2,296) (5,231) (6,650) 修正後純利益 f (94) 423 (158) (391) 225 自己資本 利用可能な戦略的資本比率 n.a. n.a. 37.2% 37.4% 35.3% 注: n.a. =該当せず。年度別の全てのデータは、www.worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表 を参照。 パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万ドルの承認額・実行額を含む。 a. IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 1 億 8,500 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 3,600 b. 万ドル、デリバティブ 900 万ドル。 IDA18 で承認された IFC-MIGA PSW での 3 億 9,300 万ドルを含まない。この内、IDA 分は保証 1 億 c. 600 万ドル、デリバティブ 2,500 万ドル、及び IFC-PSW 関連の直接投資 100 万ドル。 2019 年 6 月 30 日以降、デリバティブは貸借対照表上で現金担保受領後の取引相手方別の純額基準で示 d. されている。 関連デリバティブの残高を含む。 e. 2019 年 6 月 30 日、IDA は IDA プロジェクトの経済的成果を反映する新たな利益基準を導入。比較のた f. め、それ以前の期間の数値も算出・表示している。 ドル以上を調達しています。同プログラムは、ユーロとドルの両方の流動性改善に つながっており、IDA は今後も通貨構成の多様化を図っていきます。更に同プロ グラムは、アジアとヨーロッパで新たな投資家を IDA に呼び込んでおり、資本市場 における IDA の存在感の一層の拡大に役立っています。 こうした資金調達プログラムは、SDGs の達成に向けた IDA 支援の大幅な拡大を 可能にすると同時に、投資家が世界の開発に効率的に貢献できる機会が増えること に繋がります。このように IDA 資本の有効活用により、IDA は IDA18 における 開発パートナーからの拠出金 1 ドルにつき約 3 ドルの動員が可能となります。 開発パートナーは、IDA 対象国に提供される融資、グラント、保証を賄う 750 億ドル(530 億 SDR 相当)の増資に合意しました。この内 639 億ドルは譲許的 条件で、86 億ドルはスケールアップ・ファシリティ及び経過措置期間に IBRD 条件 で、25 億ドルは PSW に、それぞれ活用される予定です。IDA の管理費は主に、 援助受入国が支払う手数料や利息で賄われます。 開発パートナーが 3 年毎に一堂に会し、政策のレビュー、財務基盤の評価を行 86 世界銀行 年次報告 2019 い、次の対象期間の資金調達額に合意し、IDA の目的と開発目標を果たすために求 められる追加拠出をコミットします。2021~23 年度を対象期間とする IDA 第 19 次増資(IDA19)の増資交渉が現在進められており、IDA19 のドナーが 2019 年 12 月に拠出額を誓約し妥結する予定です。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。ida.worldbank.org グローバルな政治・経済の不確実性に由来するリスクの軽減 政治・経済をめぐる世界的な状況は、世界銀行の財務基盤に影響を及ぼしかねな い規模となっています。世界銀行では、最高リスク管理責任者がこうした状況を 監視しています。2 年間にわたり堅調な成長を見せた世界経済は 2019 年度に入り 減速し、今後も低調に推移すると予想されます。米国では成長が加速しましたが、 ヨーロッパ及び日本の経済は依然として軟調です。一次産品輸出国がかつての価格 低迷から緩やかに回復した一方、一次産品純輸入国は力強い成長を記録しました。 主要な新興国・途上国の一部は 2019 年度、為替レート変動により大きな影響を被 り、インフレ率上昇と成長鈍化に直面しました。世界的な成長鈍化を受け、先進国 の中央銀行は予想以上の金融緩和政策を維持しており、これが今後の成長を下支え するでしょう。金融緩和政策はまた、環境の好転により新興市場の借り手の債券 スプレッドが縮小し、停滞していた新興市場や途上国への資本フロー回復につながっ ています。 しかし、依然として深刻な脆弱性が残っています。政治の不確実性が極めて大き いことと地政学的緊張が引き続き大きなリスク要因であり、それに伴う投資家心理 の変化が世界銀行の借入国の外的環境に悪影響を及ぼしかねません。社債やソブリン 債の発行増もリスクを高め、多くの政府がインフラ・プロジェクトや金融セクター に関係する偶発債務増加に直面しています。経済規模の大きな一部借入国では、 マクロ経済政策枠組みの機能が最近及び今後の政治変革により損なわれる懸念があ ります。2019 年度は保護貿易政策の拡大が国際貿易の伸びを圧迫しました。保護 貿易主義の高まりは、特に開放的な経済政策を採っている国々にとって大きな痛手 となるばかりか、途上国向けの直接投資の流れにも影響を及ぼしかねません。一次 産品価格はなおも不安定であり、その変動は多くの借入国に影響を及ぼしていま す。特に、一部産油国からの原油供給の混乱またはその可能性により価格リスクが 高まっています。 資金の戦略的活用 87 成果重視 世界銀行は、官民両セクターと協力し、融資や知識の共有を通じて援助受入国に おける持続可能な開発を促進しています。各国の開発課題への取組みを総合的な 解決策を用いて支援するために、成果の重視は不可欠です。近年、世界銀行は、援助 受入国における開発成果に様々な形で大きく貢献しています。 詳細は、以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/results 1 アフガニスタン:2016 年以降、 7 カンボジア: 2018 年 12 月まで コミュニティに関するデータが に 対 象 地 区 の 約 3 万 500 世 帯 に 9 千件以上作成され、新たに 8,800 改善された衛生設備へのアクセス 近くのコミュニティ開発協議会が を確保。 選出され、農村部・都市部におけ るインフラ及び社会サービスの 8 中国:2010~17 年、吉林省でお 向上を目指す約 7,500 のコミュ よそ 3 万 8 千世帯が標準化された ニティ開発計画が完成。 農法を採用し、世帯年間所得が 平均 430 ドル増加。 2 アンゴラ:2015~17 年、6 つの 州で上下水道事業体を設立。この 9 コ ー ト ジ ボ ワ ー ル:2015~19 内 5 つの事業体が 2019 年 4 月ま 年、 貧 困 層 30 万 人( 内、 半 数 でに費用を回収し、10 万 7 千世帯 以上が女性)が送金機能の付いた が上水道に接続。 モバイル・マネー口座とデジタル 金融サービスへのアクセスを確保。 3 バン グラデ シュ:2018 年 10 月 までに気候変動に脆弱な地区で 10 ジブチ:2012年以降、約7千世帯 1 万 7,500 ヘクタールのブロック が水アクセス拡大の恩恵を受け、 状のプランテーションと 2 千 km 約 6 万 1 千頭の家畜のための水を の帯状プランテーションを完成 安定的に確保。 し、塩害、洪水、干ばつの影響を 受けやすい地区に住む 4 万人近く 11 エジプト・アラブ共和国:2011 の基本的ニーズを満たし生計支援 ~16 年、地表水・地下水の管理 を提供。 向上を目指すパイロット・プロ ジェクトで 4,400 人以上に研修 4 ベナン:2018 年、3 億ドルの商業 を実施。 融資に政策ベースの 3 千万ドルの 保証をつけることで短期商業債務 12 エルサルバドル:2017 年までに を再編した結果、融資期間中に国 公式記録での妊産婦死亡率が として 4,400 万ドルを節減。 2006 年の出生児 10 万人当たり 65.4 人から31人に低下し、乳幼児 5 ブータン:2014~17 年、政府が 死亡率が 2000 年の出生児 10 万 金融アクセスを改善し、銀行口座 人当たり26.9人から12.5人に低下。 を持つ人の割合が 34%から 65% に上昇。 6 ブラジル:1 日約 75 万人が利用 するサンパウロ地下鉄 4 号線の ピーク時の移動所要時間が 2002 年 の 1 時 間 以 上 か ら 2018 年 は 32 分に短縮。 88 世界銀行 年次報告 2019 IBRD/IDAプロジェクト実行中の国 IBRD/IDAプロジェクト実行中では ない国/支援対象ではない国/ ロシア連邦 データの未整備な国 ロシア連邦 28 ベラルーシ 注:2019年6月30日現在のIBRD/IDAの実行中プロジェクト ポーランド ウクラ イナ 20 カザフスタン のデータ モルドバ 29 モンゴル ルーマニアジョー 21 ブルガリア ジア ウズベキスタン キルギス共和国 アルメニア アゼルバイジャン トルコ タジキスタン 中国 チュニジア アフガニスタン レバノン イラク 22 8 モロッコ 27 ヨルダン 14 1 ブータン エジプト・ ネパール 19 5 15 アラブ 11 16 24 18 ハイチ 共和国 バングラデシュ メキシコ ジャマイカ パキスタン ミャンマー カーボ モーリタニア 30 インド ラオス ベリーズ ベルデ チャド 3 マリ ニジェール 10 イエメン 人民民主共和国 グアテマラ ホンジュラス ベトナム セネガル 共和国 タイ 12 エルサルバドル ニカラグア ガンビア ブルキナ マーシャル諸島 ギニアビサウ ジブチ カンボジア フィリピン ミクロネシア連邦 ファソ ナイジェリア コスタリカ ギニア ガイアナ コート 中央 パナマ シエラレオネ ジボワール 23 南 アフリカ スーダン エチオピア スリランカ コロンビア リベリア カメルーン 共和国 7 パラオ ガーナ モルディブ 9 トーゴ 26 ウガンダ キリバス エクアドル べナン 4 ガボン ケニア ナウル 赤道ギニア コンゴ ルワンダ ブルンジ セーシェル サントメ・プリンシペ 共和国 コンゴ パプア ソロモン キリバス 13 インドネシア Papua 諸島 民主共和国 タンザニア コモロ ニュー New ペルー ギニア ブラジル 東ティモール Guinea ツバル アンゴラ 25 ザンビア マラウイ サモア 6 2 ボリビア マダガスカル バヌアツ フィジー トンガ ボツワナ モザンビーク パラグアイ ウクライナ ルーマニア ブルガリア ドミニカ共和国 エスワティニ ポーランド アンティグア・ 南 レソト バーブーダ アフリカ チリ ウルグアイ セントクリストファー・ 17 ネービス アルゼンチン ドミニカ国 クロアチア セルビア セントルシア ボスニア・ セントビンセントおよび ヘルツェゴビナ グレナディーン諸島 モンテネグロ コソボ グレナダ アルバニア IBRD 43838 | 2019年7月 北マケドニア 13 イ ン ド ネ シ ア:2007~15 年、11 州 の 約 18 ラオス人民民主共和国:税関での輸入品、輸出 22 ネパール:2016 年に政府が脆弱層に配慮 27 ト ル コ:2018 年 末 ま で の 10 年 未 満 で 5,500 の 村 落 で お よ そ 500 万 人 を 対 象 に 品、 通 過 品 の 通 関 所 要 時 間 が 2009 年 の した雇用創出ガイドラインを採択して 発電容量が 88.5 ギガワットへと 47 ギガ 保健・教育サービス向上のためのブロック・ 平均17.9時間から2017 年は9.4時間へと47% 以降、道路保守作業に採用された労働者の ワット増加(増加分の内 59%が再生可能 グラントを提供。350 万人近くの母子に栄養 短縮。 内、女性は 70%以上、脆弱コミュニティ エネルギー源) 。 カウンセリング等のサービスを提供し、91 万 出身者は 34%、少数民族は 35%。 5 千人の子供に予防接種を実施。 19 メキシコ:2009 年以降、1,800 以上の農業 28 ウ ク ラ イ ナ:2017 年 10 月 承 認 の 年 金 事業を対象とする農村開発プロジェクトによ 23 ナイジェリア:2012~19 年 3 月に荒廃 改革法により平均年金手当が平均賃金の 14 イ ラ ク:2015 年 以 降、 解 放 区 で 320km の り、再生可能エネルギーの有効活用と効率的 地およそ 1,560 ヘクタールが開墾され、 27%超に増加。 道路修復と 19 の橋再建により、200 万人以上 技術の採用を通じて炭素排出量を 600 万トン 9,300 世帯以上の生活の質が向上。 が恩恵を享受。 以上削減。 29 ウズベキスタン:2016~18 年、5 万 5 千 24 パキスタン:2015~18 年、バロチスタン 人以上の 3~6 歳児が半日制の保育園に 15 ジャマイカ:2010~17 年、再生可能エネル 20 モルドバ:2012~18 年、180 軒以上の農家 州で 900 校以上の学校が開校。5 万 3 千人 入園し、 4 千人以上の保育士が研修を受け、 ギー源による発電量が 9%から 17%にほぼ に投資マッチング・グラント及び収穫後の 以上の就学児童 (内、女児が 72%)の 89% 農 村 部 の 2,400 以 上 の 保 育 園 で 教 材・ 倍増し、石油輸入への依存度が 95%から 71% 作業について必要に応じた助言を提供し、6 万 が中退することなく学習を継続。 設備の整備が完了。 に低下。 5 千ヘクタールの土地で持続可能な土地管理法 を実践。 25 ペルー:2013~18 年、公教育の品質向上 30 イ エ メ ン 共 和 国:2017 年 以 降、 約 150 16 ヨルダン:2013 年以降、特に厳しい状況に 及び 4 万校での校長選出プロセス透明化に 万 の 貧 困・ 脆 弱 世 帯 の 900 万 人 に 現 金 ある人々向けに民間セクターで 2 千人分以上 21 モ ン ゴ ル:2007~13 年、 農 村 部 の 小 学 校 より、570 万人の児童生徒が恩恵を享受。 給付を実施。直接受益者の内 45%が女性。 の雇用を創出。受益者の 85%を女性が経営す 教員・校長 4,500 人以上に対する研修を実施し る企業が雇用。 た他、農村部の小学校 383 校全てに合計 560 26 ル ワ ン ダ:2009~17 年、 丘 陵 地 で の の学級文庫を設置したことで 13 万人の児童が 農 業 生 産 性 が 灌 漑 済 み 地 区 で 10 倍、 未 17 コソボ:2018 年、17 村落の 900 世帯以上が 恩恵を享受。 灌漑地区で 5 倍に向上し 29 万 2,000 人が 高速インターネットに接続。 恩恵を受け、土壌浸食・堆積負荷が 76% 減少。 世界銀行年次報告 2019 財務諸表 IBRD と IDA のマネジメントによる議論及び分析、並びに監査済み財務諸表 (以下、「財務諸表」 )は、本年次報告の一部を成すと見なされます。財務諸表は以下の リンクをご参照ください。 www.worldbank.org/financialresults  IBRD と IDA の財務、融資、組織に関する詳細情報は、以下の世界銀行年次報告 2019 のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/annualreport 世界銀行又は世界銀行の公表データや知識リソースに関する詳細は、以下のリンクをご 参照ください。 ・Finances One:financesapp.worldbank.org/ ・コーポレート・スコアカード:scorecard.worldbank.org ・世界銀行オープン・データ:data.worldbank.org ・オープン・ナレッジ・リポジトリ:openknowledge.worldbank.org ・組織としての責任:www.worldbank.org/corporateresponsibility ・情報公開:www.worldbank.org/en/access-to-information 「世界銀行年次報告 2019」は Jeremy Hillman の指導下で広報部門対外関係担当が製作し、Leslie Yun、 Paul McClure、及び Pawan Bali が編集コーディネータを務めました。デザイン:Naylor Design, Inc.、 組版:BMWW 表紙(左上から時計回り) :Gerhard Jörén/ 世界銀行、Dominic Chavez/ 世界銀行、Arne Hoel/ 世界銀行、 Ghullam Abbas Farzami/ 世界銀行、p.2:Stephan Bachenheimer/ 世界銀行、p.3:Simone D. McCourtie/ 世界銀行、p.10:Grant Ellis/ 世界銀行、p.13:Grant Ellis/ 世界銀行、p.15:Sarah Farhat/ 世界銀行、 p.16:A’Melody Lee/ 世界銀行、p.20:Edmond Dingamhoudou/ 世界銀行、p.24:Tom Perry/ 世界銀行、 p.28:Corridors of Serbia、p.32:Jessica Belmont/ 世界銀行、p.36:Arne Hoel/ 世界銀行、 p.40:Rajendra Malla/ 世界銀行、p.42:Conor Ashleigh/ 世界銀行、p.45:Steve Harris/ 世界銀行、 p.49:Conor Ashleigh/ 世界銀行、p.55:Dominic Chavez/ 世界銀行、p.65:Grant Ellis/ 世界銀行。 ©2019 International Bank for Reconstruction 表示—本書は次のように表示してください。World and Development / The World Bank Bank. 2019. World Bank Annual Report 2019. 1818 H Street NW, Washington, DC 20433 Washington, DC: World Bank. doi: 10.1596/978- Telephone: 202-473-1000 1-4648-1501-0. License: Creative Commons Internet: www.worldbank.org Attribution–NonCommercial–NoDerivatives 3.0 IGO(CC BY-NC-ND 3.0 IGO) . 一部不許複製 非営利—本書を営利目的で利用することはできません。 1 2 3 4 22 21 20 19 改変禁止—本書を変更・改変・増補することはできません。 本報告は世界銀行職員により作成されたものです。 本書中の地図に示されている国境、色、名称等は、 第三者のコンテンツ—世界銀行は必ずしも本書のコン それぞれの地域の法的地位に対する世界銀行の意見や、 テンツの各要素に対する所有権を保有してはいない こうした国境線への支持或いは承認を示すものでは ため、本書の内容の内、第三者が所有する個々の要素 ありません。 又は部分を使用しても第三者の権利を侵害することには 本報告に含まれるいかなる部分も、世界銀行の特権 ならないと保証するものではありません。もしそうした 及び免責についての制限又は放棄となるものではなく、 侵害に対して申立てが起きた場合、全責任を負う そのように解釈されるべきものでもありません。全て のは使用者となります。本書の要素の再利用を希望す の特権及び免責はここに明確に留保されます。 る場合、そうした再利用に対する許可取得の必要性の 有無の判断、及び著作権者からの許可取得は、再利用 権利と許可 者の責任において行うものとします。要素の例として 本書は、クリエイティブ・コモンズ は図表や画像が挙げられますが、これに限定されるも 表示 - 非営利 - 改変禁止 3.0 政府間組 のではありません。 織向けライセンス(CC BY-NC-ND 3.0 IGO)http://creativecommons.org/licenses/ 権利及びライセンスに関するお問い合わせは下記に by-nc-nd/3.0/igo. でご利用いただけます。 お送りください。World Bank Publications, The クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止ライ World Bank Group, 1818 H Street NW, センスに基づき、利用者は本書を下記の条件にて、非 Washington, DC 20433, USA; fax: 202-522- 営利目的でのみ複製・配布・伝送することができます。 2625; E メール : pubrights@worldbank.org. ISBN: 978-1-4648-1501-0 eISBN: 978-1-4648-1502-7 doi: 10.1596/978-1-4648-1501-0 世界銀行グループ 世界銀行 国際金融公社 多数国間投資保証機関 世界銀行は、国際復興開発銀行(IBRD)及び国際開発協会(IDA)で構成され ており、極度の貧困の撲滅及び繁栄の共有の促進を持続可能な形で実現する ことを使命としています。 www.worldbank.org/annualreport SKU: 211502