アフリカ開発の軌跡 パートナーシップとリスクの低減により 民間投融資を新たな規模で動員 Copyright © IFC, 2016. All rights reserved IFC 2121 Pennsylvania Ave NW, Washington DC, 20433, USA Website: www.ifc.org DISCLAIMER IFC, a member of the World Bank Group, creates opportunity for people to escape poverty and improve their lives. We foster sustainable economic growth in developing countries by supporting private sector development, mobilizing private capital, and providing advisory and risk mitigation services to businesses and governments. This report was commissioned by IFC through its Sub-Saharan Africa department and the Office of the Chief Economist. The conclusions and judgments contained in this report should not be attributed to, and do not necessarily represent the views of, IFC, its partner, or its Board of Directors or the World Bank or its Executive Directors, or the countries they represent. IFC and the World Bank do not guarantee the accuracy of the data in this publication and accept no responsibility for any consequences of their use. Extracts from this report may be freely reproduced for non-profit purposes, with acknowledgment to IFC. Users who wish to further adapt this report should contact IFC. アフリカ開発の軌跡 パートナーシップとリスクの低減により 民間投融資を新たな規模で動員 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 ケーススタディ 目次 CEC Africa Power: 序文:IFC長官 Philippe Le Houérou..................2 シエラレオネの発電能力を大幅に増強......... 19 Azurab Edo: ナイジェリアの1,400万人のエネルギー需要を 概要.................................................................................3 満たす、 電力プロジェクトの新たなテンプレート ..... 20 Azito Energy: アフリカの電力需要を満たす....................... 22 開発に向け新たな規模で官民の資源を結集.........9 ENDA Inter Arabe: チュニジアの起業家に 「初めの一歩」となる 持続可能な開発目標の新たな課題......................................... 9 融資を提供し、 若年層の雇用を促進............. 24 Ecobank: 急速に変化する市場におけるビジネスチャンス..................... 10 中小企業向け融資への取り組み.................. 26 消費パターンの変化........................................................... 11 Rawbank: 女性と中小企業への支援............................ 27 成長の見通しと課題........................................................... 12 Scaling Solar : 効率的でよりクリーンなアフリカ資源を 変化する環境におけるビジネスの見通し.............................. 14 有効活用.................................................... 30 資金源と障害..................................................................... 15 Bayport: ..................... 31 融資の拡大に債券市場を活用. Cargill/SIB と Cameroon Agricultural: 農家と協同組合への融資を通じて アフリカへの官民投融資を動員 ............................ 17 農産物の供給を確保................................... 32 アフリカ向け投融資ソリューション....................................... 17 Al Tadamun Microfinance Foundation: 北アフリカの女性起業家を支援................... 34 パートナーシップ投融資ツール............................................ 21 Kenya Tea Development Agency: 肥料の改良と実務講習により茶栽培農家の   収穫量を改善............................................. 35 Bridge International Academies: 学校教育を拡大し、 教育水準を向上............. 36 Africa Improved Foods: 東アフリカにおける大規模な 栄養改善プロジェク ト.................................. 37 GLS Liberia と SME Ventures: 起業家にリスク資本と技術支援を提供. ........ 38 Tanzania Interoperability Standards: モバイル金融取引の開拓............................ 39 2 アフリカ開発の軌跡 序文  私たちは今、貧困の撲滅、気候変動への対応、すべての 人々の繁栄の実現という大きな課題を抱えています。この 課題を解決するには巨額の投資、一世代にわたる創意工 夫、そして持続的な経済成長が欠かせません。民間企業 と市場が繁栄していなければこれらはどれ 1 つとして実現 できないでしょう。 アフリカでは民間セクターの役割が特に重要で、本レポー を通してサブサハラ・アフリカにおける大規模太陽光発電所 トではその点に焦点を当てていきます。アフリカの人口は の開発を支援しています。これにより、政府は民間出資の 2030年に17億人に増加すると予想されています。そして2050 太陽光発電施設を迅速かつ透明な形で、しかも最低水準の 年までに24億人に増え、これは将来の世界人口の4分の1に 民間の開発業者には、 料金で調達することが可能です。一方、 相当します。アフリカの成長と急速な都市化に伴い、電力や アドバイス、リスク管理、融資と保険をオールインワンのパッ 港、道路、鉄道など、さらに多くのサービスや基礎的インフ ケージとして利用できるというメリットがあります。 ラが必要になります。世界銀行グループによると、アフリカ のインフラ投資に必要な額は年間450億ドル以上と推定され これまでのところ、マダガスカル、セネガル、ザンビア ます。 の3カ国が参加しており、大手企業数十社が単独では難し い太陽光発電所の建設チャンスを掴もうと競い合っていま 雇用を創出し、増加し続けるアフリカの若者が求める高い す。同プログラム初の入札が今年ザンビアで実施され、1 生活水準を提供できるのは、安定した民間セクターだけです。 キロワット時当たりわずか6セントと、太陽光発電としては アフリカ史上最安値を付けました。電気を使用できるのは とはいえ、障害は数多く存在します。紛争の影響を強く 人口のわずか5分の1という国で、消費者はようやく安価 受ける最貧国では、民間市場はほとんど存在しないに等し な再生可能エネルギー源を手に入れることになります。 く、開発が遅々として進みません。民間市場を創出し活性 化しなければなりませんが、そのためには民間投資を引き IFC には、最も困難な環境で民間企業を育成、支援して 付け投資家のリスクを軽減できる新しいタイプの金融商品 きた実績があります。本レポートが、政府やドナー・パー が必要になります。 トナー、民間セクターによる新たな方法での協業を後押し することを期待しています。 本レポートでは、投資家のリスク不安を解消し、より積 極的な投融資につなげて経済に好影響を与えるために投 私たちは、協力し合うことでさらに多くのことを成し遂 資家や政府、現地企業、ドナー、そして個人がどのように げられるのです。 協力しているかを紹介します。 Philippe Le Houérou ここで1つの 例を考えましょう。世界銀 行グル ープの IFC 長官 Scaling Solar プログラムは、政府手続きの簡素化と低価格 2016 年8月 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 3 概要 2015年、世界の国々は貧困の撲滅、地球環境の保護、 急速に変化する市場における および新たな持続可能な開発アジェンダを通して繁栄を分 ビジネスチャンス 「持続可能な開発目標」に署名しました。 かち合うという、 アフリカでこれらの目標を達成するには、基礎的なインフ アフリカ大陸は現在ほとんどの国・地域が直面している ラ、農業および農村地帯の開発、気候変動の軽減と適応、 経済の短期的な逆風に左右されやすく、状況の変化によっ 医療、教育への投資が極めて必要とされています。 て一部のビジネスチャンスが消滅しつつあります。アフリカ の貿易と経済成長は中国の成長鈍化の影響を受け、その 多くの場合、公共投資およびドナー投資と合わせて民間 一方で商品価格の急落と現地通貨安が企業と政府の悩み 投資も行われます。また、これに加えて、特に民間セクター の種となっています。一次産品純輸出国である多くのアフ を専門とする国際的な金融機関から資金調達を行うこと リカ諸国は、商品価格の下落によって大きな打撃を受けて により、ブレンド型融資、プール型融資、リスク低減を通 おり、経常収支と財政収支に圧力を加えています。多くの した追加資金を引き出すことが可能です。これは、特に民 のアフリカ諸国は成長し続けていますが、こうした世界的 間セクターの開発を支援するインフラその他の投資につい な経済トレンドの影響がアフリカでのビジネス・コストを押 て当てはまります。ドナーと民間投資家はお互いに協力す し上げ、生産性と成長を阻害しています。 ることの利点をますます認識しています。 アフリカの短期的な成長見通しが下方修正されています 今は絶好のタイミングです。アフリカは民間投資家にとっ が、同地域への投融資に際しての資金調達の問題を解決 て非常に大きな可能性を秘めています。アフリカは過渡期 し得る幅広いパートナーの存在など、アフリカへの投融資 の大陸であり、世界で最も成長率の高い地域の一つです。 を後押しする要因はやはりあります。注目すべきトレンド 急拡大する都市部では若年人口が増え続け、ビジネス環 は次の通りです。 境は改善されつつあります。インターネット接続は拡大し、 所得は増加し、消費パターンも変化してきています。足元 • サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠の南の地域)では、 では経済的・政治的課題があるとはいえ、こうした傾向は 経済成長率が2014年の4.5%から2015年には3.0%へと アフリカ全域で豊富なビジネスチャンスを創出し、投資家 低下しました。 国際商品価格の下落により2016年には が無視することのできない市場へと変貌させているのです。 さらに2.5%まで鈍化すると予想されるものの、2017 ~ 2018年にかけて平均4.1%へと上昇する見通しです。こ 昨今の世界経済の混乱が始まる前でさえ、アフリカ大陸 れは、アンゴラや南アフリカ、ナイジェリアといったアフ では構造的な障害、リスク軽減メカニズムの欠如、融資 リカ最大級の国々の一部で経済が好転することを示唆し の選択肢の少なさによって大規模・長期プロジェクトに伴 ています。 うリスクの効果的な分散と軽減が阻害され、投資家活動が 制約されていました。 • 北アフリカでは、エジプト、モロッコ、チュニジアの平 均成長率も2015年の2.9%から2016年に2.4%へと鈍化す る見通しです。とはいえ、北アフリカ最大の経済圏であ るチュニジアとエジプトの成長率は2017年に持ち直すと 4 アフリカ開発の軌跡 予想されています。 法として、ブレンド型融資、共同投資、気候関連融資、現 地通貨建て融資・株 式 投資、プライベート・エクイティ、 、ルワ • 1人当たりの推定成長率は、エチオピア(6.0%) 官民パートナーシップなどの手段が利用できるようになっ 、コートジボワール(4.6%) ンダ(4.6%) 、タンザニア ています。成長を加速し、繁栄の共有を促進するため、商 (3.6%)など、アフリカ諸国が他の発展途上国より高く 業融資と並行して、民間企業に対する条件や投資が開発に 。 なっています(2010 ~ 2020年の平均成長率) 及ぼす影響の改善を目的とした助言を行うため公的な資 金や支援を利用することも可能です。これらの手段は、高 • 若年人口の増加と急速な都市化により、個人消費は衣 成長を続けるアフリカ市場でビジネスチャンスの規模に見 料品、通信、エネルギー、金融サービス、食料品、医 合った融資を確保し、新旧のリスクを管理する斬新な経路 療、住宅、輸送といった主要セクターで増加し続けると を提供します。 予想されます。北アフリカでは教育支出が特に重要にな り、増加の一途をたどると予想されています。 アフリカには投資の成功を保証するさまざまな方法が存 在します。今後リスクが一層高まれば、これらの方法はま • サブサハラ・アフリカ単独で見てもインフラ投資として すます重要になるはずです。 年間900億ドル以上を生産的に活用できるとみられます が、現在の投資額はその半分にも届いていません。ナ • 官民パートナーシップは、民間投資家が安心して参加す イジェリア、アンゴラ、ケニアはエネルギー、輸送、物 るために必要で適切な法的枠組み、セクター設計、サー 流への投資は効果とリターンの両面で最も潜在的効果 ビスと商品の最終的な引き取り手として優良なオフテイ が見込まれるのに対し、今後の投資不足はこれらの国々 カーを備えたプロジェクトに適した戦略です。民間・公 で特に深刻な問題になると予想されています。 共セクターが協力してこれらの要素を提供するに当たっ ては、多くの場合は開発機関が重要な役割を担います。 • 気候変動に適応するための地域全体の支出は、官民の 資金源で年間50 ~ 100億ドルと予想されています。環 • 民間投資家と開発金融機関による共同投資は、双方の 境問題の中でも、気温上昇と水供給の問題は、低炭素 強みを持ち寄ることで信頼感を醸成し、民間の出資者 エネルギー源の拡大と水資源管理の効率化という視点 と民間の商業銀行の枠を超えてリスクを分散させます。 からの投資機会となっています。 • ブレンド型融資は、通常はドナー・パートナーから出資 このように、アフリカ全体でポジティブな構造的トレン される譲許的資金、商業銀行、民間投資家の資金をリ ドが継続する一方で、最近の世界経済の波を受けることに スク共有の観点で組み合わせる手法で、民間資金を使 より、程度の差こそあれ国や地域によってそのトレンドが いながら可能な限り公的支援を活用するよう各参加者を 相殺されています。突如として先行きが見えなくなる流動 動機付けます。 性の低い市場にあって、持続可能な成長と開発に貢献した いと考えるドナーや開発資金提供機関、民間セクターの参 • 気候関連融資は、新興市場における温暖化対策投資を 加者にとっての問題は「民間セクターの開発を可能にする 支援するため官民の資金源を併用する手法であり、ブレ ための資金集めとリスク軽減にどのような方法が利用でき ンド型融資や地場金融機関への支援、特定目的の債券 るのか」ということです。 の発行、資産管理を含む複数のチャネルを使用します。 • 現地の資本市場とテイラード・ソリューション(ニーズ 官民の融資を動員 に合わせて構築されたソリューション)は、現地通貨建 アフリカでのビジネスチャンスを求める企業は、追加的 ての長期融資を利用して経済を資本流入の変動から保 な資金源に加え、民間セクターからより多くの参加者を引 護し、外国債への依存を減らすのに有効な手法です。 き付けてさまざまな投資家クラスでリスクを長期間に分散 大手銀行や開発金融機関がリスク保証を提供するかア する手段を取ることも可能になっています。アフリカでは、 ンカー投資家として機能する場合、現地企業は地方債 所得が低く脆弱な国への投資リスクを低減させる新たな手 市場と株式市場をうまく活用し、追加の資金調達手段を パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 5 利用したり新たな投資家層を呼び込むことができます。 また、他の通貨リスクと市場ボラティリティについても、 ニーズに合わせて構築されたソリューションと手段を利 用して対処することが可能です。 • プライベート・エクイティは、アンカー投資家の支援を 通して、中小規模の企業を含むさまざまな企業に投資 可能な大規模特化型ファンドを組成できます。なお、開 発金融機関は、世界の機関投資家によるアフリカ企業 の株式の取得を資産管理などの手段を通じてサポート することができます。 ケーススタディ 多国籍企業、各国政府、ドナーからの支援により最近資 金調達を行った民間セクター・プロジェクトの成功例(ア フリカ各地における事例) CEC Africa Power: 世界銀行グループは、10年に及ぶ 内戦と最近のエボラ出血熱からなお回復途上にあるシエラ レオネのために、同グループの金融商品と助言サービスを パッケージ化しました。この結果、フリータウンの東約4 km に位置する工業地帯に1億3,400万ドルを投じた発電所 が2016年に稼働しました。この発電所では、CEC Africa Investments が資金を提供する57メガワットの石油火力 発電所が開発、建設、運転されることになっています。 Azura-Edo 電力プロジェクト : 世界銀行グループは、ナ イジェリアの推定1,400万人に電力を届ける未開発地域開 発プロジェクト、ガス火力発電所 Azura を支援するため、 商業銀行と開発金融機関を含む10数社あまりの金融機関 と協力しました。Azura はナイジェリア初の民間投融資に よる独立系電力プロジェクトであり、生活に不可欠な電力 の供給と低炭素経済への移行を両立させるため、同国に 埋蔵されている天然ガス(クリーンエネルギーへの橋渡し 的な燃料)を使用します。 Azito 3: 9つの開発金融機関が協力し、コートジボワー ルで139メガワットの発電所の拡張工事を起工するのに必 要な3億4,500万ドルの長期融資を提供するとともに、必 要な規制改革を遂行しました。 ENDA Inter Arabe: チュニジアの大手マイクロファイ ナンス機関 ENDA は、正規の金融システムから排除され 6 アフリカ開発の軌跡 ている人々が必要とする金融サービスを受けられるように かり行う必要がありました。 し、これにより同国の経済発展と貧困撲滅に貢献していま す。IFC は、リスク管理・プロダクト戦略・変革からなる Scaling Solarと KaXu Solar One: Scaling Solar は、 包括的なキャパシティ・ビルディング・プログラムを通じて 電力を安定的かつ競争力のある料金で早期に提供するた ENDA を支援してきました。 め、世界銀行グループの専門知識を活用した民間出資に よるグリッド接続型太陽光プロジェクトを実施しています。 Bridge International Academies: 学 校 法 人 が 開 発 プロジェクトはリスクとコスト、料金を低減する競争力の 金融機 関および 新規投 資家とパートナーシップを組み、 高いプロセスに構造化・標準化されており、投資家はプロ 6,000万ドルを投じて学費負担の少ない私立学校グループ ジェクトから利益を享受しています。ザンビアは同プログ 展開をケニア以外の3カ国に拡大しました。このパートナー ラムに最初に参加した国であり、第1回目の入札では太陽 シップは規制に関する支援とシード投資を提供しました。 光発電としてアフリカ史上最安値が提示されました。再生 可能エネルギーを奨励する南アフリカのプログラムに基づ Africa Improved Food Holdings: 慢 性 的 な 栄 養 失 く KaXu Solar One は、蓄熱設備を備えた大規模集約型 調の解消を目指すプロジェクトで、オランダの多国籍企業 太陽光発電施設であり、この種の発電所としては新興市場 DSM がルワンダに初期投資6,000万ドルを要する栄養食 で操業を始めた最初の事例となりました。 品加工工場を設立しました。これはリスクの高い野心的な プロジェクトであり、信頼できる出資者と政府の迅速な対 Cargill/SIB と Cameroon Agriculture: アグリビジ 応によりリスクを軽減する必要がありました。原材料と最 ネス大手の Cargill とコートジボワールの SIB 銀行は IFC 終製品に対し、調達・供給・オフテイカーの取り決めをしっ とパートナーシップを組み、農場から協同組合まで生産物 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 7 をより効率的に運搬できる車両の購入資金を求めているコ は、ドナーが求める証券市場が新たに機能し始めたことに コア農家に対し、600万ドルのリスク共有ファシリティを通 よる恩恵を受けています。同社は、低・中所得層の借り手 じて融資を行いました。同様に、カメルーンでも Banque と小規模事業者への融資を拡大するため中期債を初めて発 Internationale du Cameroun pour l’Epargne et le 行し、 (約2,650万ドル) 1億7,200万クワチャ を調達しました。 Crédit が世界銀行と IFC の合同プログラムを通して830万 発行に際しては、開発金融機関がアンカー投資を提供して ドルのリスク共有ファシリティに参加し、2つのソルガム 支援しました。 生産者組合による Guinness Cameroon 向けソルガム加 工工場の買収を支援しました。 GLS Liberia と SME Ventures: 地元資本による物流 会社であり、エボラ危機の際、エボラ出血熱に対する国 Ecobank Transnational: アフリカ全域で事 業を行う 家を挙げた防衛行動で重要な役割を果たしました。GLS Ecobank Transnational 銀行は、脆弱性と低所得の観点 Liberia は空港から国内全域の拠点にいつでも積み荷を で特に厳しい経済環境にあるアフリカの8カ国で小規模企 輸送できるだけの車両と物流ネットワークを保有し、こ 業への融資を拡大しました。このプロジェクトは Ecobank れ が 危 機 の 影 響 緩 和 に 役 立 ち ました。 同 社 は、SME と開発銀行2行の間で締結した1億1,000万ドルのリスク共 Ventures の出資により現地で運用されるリスク資本の支 有ファシリティを活用しています。 援を受けています。SME Ventures は IFC のプログラム の一つであり、世界で最も難しい市場で素晴らしい将来性 Rawbank: 2002年に設 立された Rawbank は、停滞 市 を秘めた中小企業の足かせとなっている重要な資金面と事 場のイノベーターです。創業家は1922年からコンゴ民主共 業面の課題のいくつかに対処することを目的に設計されて 和国で事業を営んでおり、同行はその技術とビジネス感覚 います。 を取り入れ、最近では競合他行を抜いて同国最大の銀行に なりました。IFC は Rawbank の貸出拡大を支援するため 2,200万ドルの融資と助言サービスを合わせて提供してお り、そこで鍵となったのがドナーでした。 Kenya Tea Development Agency: 2016年、IFC と (KTDA) は あ る大 Kenya Tea Development Agency 手企業のドナーの支援を得て、小規模茶農家の生産性とビ ジネススキルの改善、および KTDA のバイオマス燃料サ プライチェーンの4年計画での強化を目的に、新たに4億 2,000万ケニアシリング(約420万ドル)のイニシアティブを 立ち上げました。今後、協同組合の成長支援に向けて複 数回の融資が行われる予定です。 Al Tadamun マイクロファイナンス基金 : Al Tadamun は、IFC のドナーの資金に基づく助言により、互助グルー プへの貸付制度(共同責任を持つ互助グループに貸し付け る仕組み)を利用することで都市部の女性起業家に特化し た融資を拡大することができました。これは通常であれば 女性であることと低所得を理由に正規の金融サービスを受 けられない小規模企業セグメント(低所得の女性)に役立っ ています。 Bayport Financial Services: ザンビア最大のマイクロ ファイナンス事業者である Bayport Financial Services 8 アフリカ開発の軌跡 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 9 開発に向け新たな規模で 官民の資源を結集 持続可能な開発目標の新たな課題 融機関による投資は、過去の成功モデルを新たな規模に 展開するための経験を数十年にわたって積み重ねていま 2015年、世界各国が新たな開発アジェンダの一環とし す。特に民間セクターによる開発を支援するインフラな 「貧困の撲滅」 て、 「地球環境の保護」 、 、そして「すべて どの投資については、ブレンド型/プール型融資とリス の人々で繁栄の共有」という「持続可能な開発目標」に ク低減を通じて追加資金を引き出すため、開発金融機関 署名しました。 を利用することが可能です。 「持続可能な開発目標」を達成するには膨大な資金が ドナーと投資家は共同で取り組むことに対して以前に 必要です。国連は開発途上国が必要とする投資総額を年 増して前向きです。重要プロジェクトにおける商業融資 間4.5兆ドルと推 定していますが、実際の投 資額はその を実現するためのリスク配分の的確さに目標を設定する 3分の1未満にすぎません。特に必要とされているのが、 例もあれば、デモンストレーション効果が見込めるプロ 基礎的なインフラ、農業および農村地帯の開発、気候変 ジェクトを立ち上げ、他の投資家が同様のプロジェクト 動の軽減と適応、医療、教育への投資です。 を推進するよう促すことが目標となる例もあります。さ らに、ドナー の出資 が なくては実 現 不 可能 な 開 発 であ 「持続 可能な開発目標」の1期 国 際開発金融機関は、 るというインパクトを生み出すように、事 業の範囲やバ 目となる3年間(2016 ~ 2018年)で4,000億ドルを超え リューチェーンの拡大を目標にする例もあります。ドナー る金融支援を計画しています。しかし、必要とされる投 と投資家が過去の成功事例と経験から学ぶことで、より 資規模の増加を踏まえると、国際開発金融機関やドナー、 効果的な協力関係を築くことができるはずです。 その他の公的援助だけでは持続 可能な開発を達 成でき ません。そこで、開発銀行が提供する直接的な金融支援 市場における事業機会が拡大したことで、アフリカ全 が官民双方からの開発資金を幅広く誘引し、動員し、結 域の民 間 企 業が急 成 長しました。投 資 の 増 加 は引き続 集することが不可欠です。 き見込まれるものの、アフリカへの投資額は現在の高い 開発目標を達成するのに必要なレベルに近づいていませ 多様な出資者からの資金は相互に補完し合います。公 ん。開発援助は、成長の持続と商品/サービスの提供を 的資金はリスクを低減するために必要であり、現地の金 下支え可能な融資を動員することにより、より大きな役 融/資本市場の深化によって企業は長期的な大規模プロ 割を果たすことができます。これは、投融資における画 ジェクトに求められる預金と資本を活用可能になります。 期的な進歩、具体的には民間投資の拡大を促し、その効 アフリカをはじめ、低所得で不安定、かつ紛争の影響下 果を高めるために公共セクターの能力と資源を組み合わ にある地域では、現地および国際的な民間投資を引き付 せることによって達成できます。 けるための環境を醸成することが、かつてなく重要となっ ています。 本レポートでは、 開 発目標 を 達 成へ 向 け民 間 資 金を 引き出しているさまざまな成 功モデルを取り上げます。 とりわけ IFC のように民間セクターに特化した国際金 そのなかでも公 的な 資 金と保証が民 間投 資の誘致に役 10 アフリカ開発の軌跡 立った成功モデルから教訓を導きます。さらに幅広い業 ビスを輸出する必要性が高まっています。 界で採用されてきたイニシアティブに焦 点を当て、アフ リカの次の10年間の成長と発展を推し進めるために地場 アフリカは現在のマクロ経済環境だけでなく、電力や 金融機関と国 際金融機関、資本市場が 政 府開発援助と 水、道路といったインフラ不足など、成長を阻む他の長 どのように協力して民間セクターを支援できるのかを詳 期的な課題に直面しています。アフリカ都市部で予想さ しく説明します。 れる人口増加は、現在の居 住者と今後流入してくる居住 者のために生産的雇用、住宅、効率的インフラを創出す る必要があることを浮き彫りにしています。 急速に変化する市場における ビジネスチャンス アフリカ大 陸 は深 刻 な 地 政 学上の 課 題 も 抱 えていま 現在は公共・民間セクターの協力機会を模索する絶好 す。北アフリカ地域ではリビアが紛争で分裂し、エジプ のタイミングです。アフリカが民間投資家にとって非常 トとチュニジアは治安問題に加えてマクロ経済の不透明 に大きな可能性を秘めていることは既に実証されていま 感にも悩まされています。モロッコの成長率と海外直接 す。世界経済の成長が鈍化する中でアフリカでは、急拡 投資(FDI)流入額は比較的堅調ですが、同国の経済は 大する都市部における若年人口の急増、改善されつつあ 天候に左 右されやすい農 産物に大きく依 存しています。 るビジネス環 境、インターネットの 普及、所 得 の 増 大、 密売や海賊行為、宗教上の過激主義といった形の脅威が 消費パターンの変化に見られるようになお変遷し続けて アフリカの多くの地域を不安定化させ、パンデミック・リ おり、最も急成長を遂げている大陸の一つとなっていま スクもなお高い状況です。 す。特に北アフリカ、とりわけエジプトとモロッコは活気 溢れる人口動態を持ち、整備された市場を有しています。 アフリカ大陸での投資家活動は、昨今の世界経済の混 また、サブサハラ・アフリカの経済大国であるエチオピア、 乱が表面化する前でさえ、構造的障害や投融資の選択肢 コートジボワール、コンゴ民主共和国の成長率は、2017 の欠如など、大規模または長期的なプロジェクトに伴う 年以降に加速し始めると予想されます。 リスクの効果的な分散を阻害する要因によって制約され ていました。 要するに、これらの傾向はアフリカ大陸全域に豊富な ビジネスチャンスを創出し、企業と投 資家にとって無視 消費パターンの変化 できない市場を創出しました。こうしたビジネスチャンス があるにもかかわらず、アフリカ経済が世界的な成長鈍 とはいえ、アフリカ地域の人口動態は投資家に非常に大 化と地政学的リスクによる短期的な逆風に影響されやす きなチャンスを提示しています。都市化が自動車からバイ いことも事実です。中国の成長鈍化、世界市場の不透明 ク、公共の輸送手段にいたるまで、交通関連支出を加速度 感、米ドル高、10年に及ぶ活況が途絶えた一次産品の価 的に増加させています。労働力に加わる若者(サブサハラ・ 格下落を受け、今後2年間の世界成長は弱含む見通しで アフリカの平均年齢は18歳)が、住宅、より良い教育、医 す。また、先進国と発展途上国の需要後退が世界貿易の 療サービス、雇用に対する需要を引き続き創出することが 減速につながっています。 見込まれます。IT 通信接続が家計予算に占める割合はま すます大きくなっています。教育、衣類、履物は多くの国 世界銀行の「世界経済見通し」 (GEP)最新版によると、 で急成長している分野です。北アフリカでは紛争が経済に 世界の2016年の成長率は年初時点での見通しより0.5%低 大きな打撃を与えましたが、エジプトは着実に改善してお い2.4%に下方修正されました。この修正の約半分は新興 り、この地域では教育、医療サービス、住宅、輸送へのニー 国と発展途上国における特に一次産品の価格下落と通貨 ズがいっそう高まると思われます。 安によるものです。こうした要因によってアフリカ大陸に おける不透明感が高まり、近年企業の拡大を可能にしてき IFC の統計によると、アフリカの家計支出で最も大き た流動性が急激に減少しました。原油と一次産品の価格 な割合を占めているのは今も食品と飲料です。しかし、 が下落したことで、経済を多様化し、より広範な商品/サー 所得が増えて生活必需品が簡単に手に入るようになって パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 11 きたことで、他の項目の優先度も高まっています。例え ク、エチオピア、セネガルでは、住宅支出が2025年まで ば、アフリカ最 大の人口を抱えるナイジェリアでは、医 年率8.0%を超えて伸び、エジプトとモロッコでは教育と 療支出が2025年まで年率5.0% 以上のペースで伸びると 輸送への家計支出が2025年まで年率6.0%以上で伸びる 推 定されます。また、アフリカ第2の人口を有するエチ と予想されています。消費が急増している事例は他にも オピアでは、同じく2025年までテクノロジーと輸送への 数多くあります。 家計支出が年率11.8%増加する見通しです。モザンビー FIGURE 1: HOUSEHOLD CONSUMPTION PROJECTIONS IN AFRICA, BY COUNTRY AND SECTOR, 2014-2025 SECTOR/ COTE COUNTRY D’IVOIRE DRC EGYPT ETHIOPIA MOROCCO MOZAMBIQUE NIGERIA SENEGAL TANZANIA Share% 2014 Share% 2025 Share% 2014 Share% 2015 Share% 2014 Share% 2025 Share% 2014 Share% 2015 Share% 2014 Share% 2025 Share% 2014 Share% 2015 Share% 2014 Share% 2025 Share% 2014 Share% 2015 Share% 2014 Share% 2025 Growth% Growth% Growth% Growth% Growth% Growth% Growth% Growth% Growth%   Transport 9.5 8.4 10.3 8.0 2.8 3.4 6.2 4.5 5.2 11.8 3.1 4.7 6.5 6.4 8.0 9.2 7.1 8.6 4.4 11.8 12.8 9.2 5.2 6.4 9.1 11.0 14.0 ICT 9.1 8.4 9.9 9.0 1.1 1.5 5.9 2.9 3.3 12.5 2.1 3.4 5.8 2.9 3.4 9.5 3.5 4.3 4.0 4.5 4.7 8.4 2.0 2.3 8.3 6.4 7.5 Housing 8.7 11.4 12.8 8.2 1.7 2.2 5.1 14.9 15.5 9.5 12.6 15.5 4.4 17.3 17.3 8.5 14.3 16.0 4.5 2.7 2.9 8.3 15.7 18.0 7.0 2.0 2.0 Water supply 7.3 0.9 0.9 7.9 1.2 1.5 4.6 0.6 0.6 5.6 1.5 1.2 4.5 1.4 1.4 8.8 0.8 1.0 3.9 0.3 0.3 6.8 1.9 1.8 7.5 1.6 1.7 Education 7.8 1.5 1.5 6.1 2.9 3.0 6.2 3.2 3.7 12.8 0.5 0.9 6.0 1.6 1.9 8.1 0.3 0.4 3.9 6.1 6.3 8.6 3.0 3.5 9.1 1.6 2.0 Clothing and 6.7 6.3 5.9 6.2 5.8 5.9 4.2 5.7 5.5 7.5 5.8 5.8 5.1 4.9 5.3 8.1 6.2 6.7 3.4 3.2 3.2 7.7 4.3 4.5 6.4 6.4 6.2 Footwear Personal care 7.3 1.2 1.2 6.3 1.4 1.5 4.6 1.3 1.3 7.9 1.6 1.7 5.1 1.1 1.1 8.6 1.3 1.5 3.7 0.5 0.5 7.3 1.8 1.8 8.8 0.1 0.1 Health 7.2 2.0 1.9 5.6 1.8 1.7 5.9 3.3 3.7 6.9 0.3 0.3 5.4 2.3 2.6 7.2 0.4 0.4 5.2 0.3 0.3 6.2 2.3 2.1 7.8 1.4 1.6 Energy 7.6 2.1 2.2 5.8 5.1 5.1 4.2 2.5 2.4 5.3 10.7 8.6 3.1 5.2 4.5 6.2 6.8 6.0 3.5 3.0 3.1 7.9 6.3 6.8 6.9 6.3 6.4 Food and 6.5 47.3 42.7 5.7 69.9 67.9 4.0 47.8 44.6 6.6 52.8 48.3 3.6 42.5 39.0 6.0 47.3 41.2 3.4 62.5 60.8 5.9 48.7 43.5 5.6 54.6 48.6 Beverages Avg Growth rate 7.4 6.1 4.4 7.6 4.3 7.3 3.9 6.7 6.7 2014 - 25 Avg Population 3.2 3.8 3.6 3.8 3.0 3.3 4.1 3.1 3.6 growth 2014 - 25 Population 2014 22 75 90 34 34 27 177 14 52 (millions) Consumption 20.9 14.3 103.9 41.2 51.5 11.7 129.4 8.0 28.1 (US$ bn; 2014) Sources: IFC and World Bank based on Household Surveys. 12 アフリカ開発の軌跡 成長の見通しと課題 フリカ諸国は今後3年にわたり4.0% 以 上の成長率を維 持し、アフリカは成長スピードの点でアジアに次ぐ世界 サブサハラ・アフリカの大半の国の成長率は、今後2 第2位の地 域になる見 通しです。北アフリカでは、リビ 年 間で徐 々に 上 向くと予 想さ れ ます。この 地 域におけ ア以外の諸国の平均成長率が2016年に2.4%、2017 ~ る対 前 年比 の成 長 率 は2015年に3.0 % へと低下しまし 2018年には3.6%に上昇すると予想されます。主なけん た。世界銀 行の最 新の予測によると、2016年にはさら 引役はエジプトで、同国の成長率は2015年の3.6%から に2.5 % に低 下 する も の の、2017 ~ 2018年 に は平 均 2016年に3.8%、さらに2017 ~ 2018年には平均4.5% 4.1%に上 昇する見 通しです。短 期 的には、最 低 所得水 に加 速 すると見 込 まれています。対 照 的に、先 進 国 の 準国が GDP 成長率の記録を更新し続けると予想されま 2018年までの年間成長率は1.9%と予想されています。 す。南アフリカをはじめとする一部の例外を除けば、ア FIGURE 2: PROJECTED GLOBAL REAL GDP GROWTH (percent) 9.5 6.3 4.8 4.5 4.6 4.4 3.9 3.4 3.6 3.1 3.0 3.1 3.0 2.8 2.8 2.6 2.7 2.4 2.4 2.4 2.5 0.9 0.3 2013 2014 2015 2016 2017 2018 World Sub-Saharan Africa North Africa North Africa (exluding Libya) -1.7 Note: Figures for 2013-2014 are actual. 2015 figure is estimated. 2016-2018 are forecast. Source: World Bank, Global Economic Prospects, June 2016 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 13 アフリカの大半の国が成長を続けていますが、世界経 らし、財政ポジションと対外ポジションを低下させてい 済の動向とその他の要因がさまざまな形で悪影響を及ぼ ます。 しています。 そ れで も な お、 サ ブ サハラ・ア フリカ の1人 当 たり 世界の金融市場が突如として不安定化しており、新興 GDP は2000年以降に急激に増加しており、2020年に 国への投資を見送るリスク回避姿勢の再燃が当面は続く は2010年 の水準を40%近く上回る4,400ドルを 超 える と思われます。ポートフォリオからの資 金 流出と海外 へ 見通しです。北アフリカ地域の1人当たり GDP は2010 の直接投資の減少に見られるように、さまざまな資産ク 年から2020年までの間に12.6% 増加すると予想されて ラスで投資家の意欲が減退しています。米ドル高が進む います。アフリカにおける1人 当たり GDP の 予想 成長 なか、アフリカ諸国を含む新興市場の通貨は引き続き圧 率は他の新興国と比べて高く、2010 ~ 2020年 の年間 力にさらされるとみられ、最近の英国の欧州連合(EU) 平均成長率はエチオピアが6.0%、ルワンダは4.6%、コー 離脱をめぐる国民投票に起因する不透明感にも悩まされ トジボワールは4.6%、タンザニアは3.6%と見込まれて ています。この結果、近年アフリカなどの発展途上地域 います。 の追い風だった潤沢な流動性と低い借入金利が覆ってい ます。 2010年 か ら2015年 ま で、 ア フリカ に お ける 経 済 成 長 全 体 の 約60 % を 個 人 消 費 が占め、 寄 与 度 の 平均 は さらに、多くのアフリカ諸国は世界金融危機 以前と比 年2.8%ポイントでした。この 結 果、小売りセクターは べ、財政赤字、対外赤字、負債が増加しており、国内状 2008 ~ 2013年に年 率10%以 上と、他のどの新興市場 況は依然として厳しいままです。特に一次産品の輸出に 地域より高い伸び率で成長しました。 依存する諸国では、不良債権の増加と国内状況の逼迫で 貸出の利ざやが押し下げられ、銀行のバランスシートが 結 論として、アフリカ経 済は成長し続け、アフリカ諸 悪化する兆候が現れています。加えて、インフレ率は現 国の国民はより豊かになり、可処分所得が増加し、かつ 在歴史的な低水準にあるとはいえ、小刻みに上昇し始め てない強さで世界中とつながり、企業が提供する様々な ています。北アフリカでは紛争と治安リスクが大きな混 製品とサービスを求めていると言えます。 乱を招き、インフラと金融機関に打撃を与え、貯蓄を減 FIGURE 3: SUB SAHARAN AFRICA AND NORTH AFRICA, GROSS DOMESTIC PRODUCT (Based on purchasing-power parity (PPP) per capita GDP) (US $) $13,806 $12,869 $12,138 $11,339 $11,543 $10,781 $10,823 $10,956 $4,130 $4,299 $4,473 $3,606 $3,752 $3,817 $3,869 $3,976 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 Sub-Saharan Africa North Africa Source: IMF 14 アフリカ開発の軌跡 変化する環境におけるビジネスの見通し アフリカは依 然として資本を強く求めています。アフ リカ大 陸 は安 定した電 力、公 衆衛 生 施 設、水 源、舗 装 アフリカと世界中の企業はこうしたビジネスチャンス された道路という点で、世界のどの地域よりも遅れてい を 過 去10年で捉 え、アフリカの 国と地 域 で 事 業 を拡 大 ます。アフリカ全 体でインフラ・プロジェクト向け投 資 してきました。また、アフリカが持つ将来性は、その大 機 会は年間930億ドル以 上ですが、世界銀行グループの きなビジネスチャンスに注目している世界中の新しいタ 2014年 のレポートによると、インフラ・プロジェクトへ イプの民 間 投 資 家を 刺 激しています。IFC と 調 査 会 社 の支出は2009年の半分にすぎませんでした。同レポート ディールロジックの 統計によると、アフリカ諸国に流入 によると、今後資本不足が特に深刻化するのがナイジェ した総資本フローは2005年の150億ドルから2014年には リア、アンゴラ、ケニアで、効果とリターンの両 面で最 570億ドルに増加しました(北アフリカに80億ドル、サブ も期待できるのはエネルギー、輸送、物流への投資です。 サハラ・アフリカに490億ドル)。 北アフリカがさらに成長するには、若年人口に雇用と機 会を提供することができる、より強力な民間セクターが とはいえ、近年の経済的逆風が悪影響を及ぼしていま 不可欠であり、それが経済へのより広範な参加と社会の す。アフリカへの2015年の総資本フローは2014年比で11% 安定にも貢献します。 減の510億へと若干減少しました。サブサハラ・アフリカへ の資本フローは2014年の490億ドルから2015年に400億ド 投 資 機 会に十 分な 資 金 が向 けられてい ない主 要セク ルに減少しています。昨年は例外的に南アフリカだけ資本 ターは以下の通りです。 フローがやや増加しましたが、これは海外投資家による比 較的分かりやすい対象への逃避であることは明らかです。 金融サービス : 世界銀行の統計によると、サブサハラ・ • エジプトへの資本フローが回復したことで、北アフリカは アフリカで預金口座を保有している成人の割合は、2012 総資本フローが増加した世界で唯一の新興市場地域となり 年時点でわずか15%でした。その後大陸全体で所得が ましたが、その水準は世界的な金融危機が発生する前の 急増して1,000ドルの節目を超えたのに伴い、この地域 2007年のピークより依然低いままです。 のリテールバンキングは今後10年間で年率15%成長す FIGURE 4: GROSS CAPITAL FLOWS TO AFRICA (US $bn) 57 31 51 26 42 41 24 18 31 27 15 23 14 25 14 8 10 19 17 4 15 11 7 14 19 12 13 10 3 18 15 8 5 8 8 8 12 2 4 4 11 8 9 2 6 2 0 1 4 4 3 2 2 3 4 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 Bond Equity Loan Sources: IFC Economics and Industry Research based on Dealogic. パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 15 ると予想されています。 北アフリカにおいて銀行セク 開業医がそれぞれ独自に活動しているため、大規模な ターは総じて成熟していて効率的で、口座保有率も相 変革を起こせる企業にとってはまたとないビジネスチャ 対的に高水準ですが、同等の1人当たりの所得水準を有 ンスが生まれています。 する近隣諸国の銀行と比べてイノベーションと競争力の 点で遅れを取っています。 • 気候変動関連のビジネス : 世界銀行では、アフリカが 気候変動に適応するための年間支出を50 ~ 100億ドル • 製造とサービス : アフリカの消費者は、手頃な価格でよ と推定しています。気温上昇と水供給の問題は、低炭 りバラエティに富んだ商品とサービスを望んでいます。 素エネルギー源の拡大や、灌漑システムへの投資など 競争力のある企業が今後業績を伸ばすと思われる分野 水管理の効率化への投資機会を創出しています。北ア には、建築資材、省エネ型の機械、不動産、小売り、 フリカは農地の縮小につながる干ばつの影響を特に受 観光があります。北アフリカに関して言えば、エジプト けると予想されます。 には大手メーカーが既に数社あり、またモロッコは工場 の建設用地を求めている自動車メーカーにとってますま  アフリカ全土でこうしたニーズを満たし投資リターンを す魅力的になっています。 得たいとする企業は、必要資金をどこで獲得できるので しょう。 • 住宅 : アフリカの都市部は急成長を遂げていますが、 住宅供給がなかなか追いつくことができません。都市 資金源と障害 部には1日当たり4万人の新たな居住者が流入しており、 その大多数は住居を見つけられずにいます。 例えば、 アフリカへの投資を考えている企業の資金調達方法に 不足している住宅の数は推定で、ケニアでは約200万戸、 は、国内外の銀行融資、現地と海外の株式・債券市場、 ナイジェリアでは1700万戸と考えられています。 プライベート・エクイティなど、数多くあります。問題は、 アフリカではこれらの 調 達 方法 の 一 部が 慢 性 的に未 開 • 教育 : 多くの国では、公共の教育機関による質の高い 拓であることであり、それ以外の方法についても昨今の 教育を最貧困層の子どもたちは受けられずにいます。 経 済的逆 風や2007年から2008年にかけての世界金融 危 世界銀行は、サブサハラ・アフリカで学校に通えない子 機の影響によって十分に活用できていないことです。北 どもが5,000万人以上いると推計しています。各国政府 アフリカでは、近年における一連の紛争と不安定さも投 (万人のための は2030年までに「Education for All」 資家の意欲を削ぐ原因となっています。 教育)を実現すると約束しましたが、この目標を達成す るには新たに1億2,700万人の学生を収容できるスペー アフリカのインフラ・プロジェクトに向けた銀 行融 資 スが必要です。北アフリカの識字率は過去20年で向上 は2007年以 降に急 減しており、そ の主 な 理 由は金 融 危 したものの、教育の質は依然低いままです。また、急 機 後に商業 銀 行に新たな 資本 規 制が 課されたことだと 増する若年人口にとってスキルのミスマッチが大きいこ 考えられます。新 興 市 場 の インフラ向 け融 資は2007年 とも持続可能な雇用創出の妨げになっており、この点も 以 降に落ち込 み、2014年にかけて徐 々に回 復したもの 教育制度を通じて解消していかなければなりません。 の、再び減少しました。債券と株式もこれと似たパター ンを辿っています。ここにきて資本フローが鈍化したの 医療 : サブサハラ・アフリカは世界疾病負担の24%を占 • は、米国における将 来 的な 利 上げ 観 測が 理由の 一つと めるにもかかわらず、世界の医療費支出に占める割合は も考えられます(Figure 4 and 5 )。 1%にすぎません。北アフリカでは非感染性疾病による 死亡と障害の増加によって疾病負担が増加しています。 アフリカの銀行セクターは他の新興市場と比べて未だ開 医療従事者と病院のベッド数は需要をまったく満たせて 拓の余地があります。世界銀行の2012年度調査によると、 いない状況です。手頃な費用で質の高い医療を提供す 銀行セクターは利用のしやすさ、奥行き、効率、安定性の るという観点から、医療サービス提供業者、薬局、医 面で他のすべての地域に遅れています。近年、金融セクター 療技術の分野で投資チャンスが拡大しています。医療 が成長・成熟したとはいえ、2011年時点で銀行セクターの セクターは経営統合も進んでおらず、多数の小規模な 資産の78%を大手3行が保有しており、融資先は個人や零 16 アフリカ開発の軌跡 細企業ではなく利益率の高い企業が主体となっています。 め、ナイジェリア 証 券取引所はこの 割 合が8%でした。 北アフリカの銀行セクターは多くのサブサハラ・アフリカ 南アフリカとナイジェリアを除く地域の株式時価総額は 諸国よりも発達していますが、インクルージョン・レート(金 GDP の10%にすぎず、この割合はアフリカ諸国以外の 融包摂率)は低いままで、全体としての競争力は同等の所 新興国をはるかに下回っています。アフリカ全体で市場 得水準の国と比べて劣っています。 の流動性が依然として問題となっています。 また、アフリカ地域の資本市場には、一部に顕著な例 国内債券市場についても、成長しているとはいえ底が 外はあるものの、サブサハラ・アフリカの資本需要に大 浅く、債券市場の時価総額の4分の3を占める国債が中 きく貢 献できるだけの規模と流動性が 不足しています。 心となっており、国内債券市場に厚みがあるのは南アフ 世界銀行の統計によると、サブサハラ・アフリカの2012 リカだけです。南アフリカ以外では社債市場はなきに等 年 の 時 価 総 額の83%をヨハネスブルグ 証 券取引所が占 しいか、初期段階にあります。 FIGURE 5: GROSS CAPITAL FLOWS TO INFRASTRUCTURE IN AFRICA (US $bn) 8.0 7.8 7.0 6.0 5.7 5.0 4.9 4.5 4.1 4.0 3.0 2.8 2.3 2.4 2.3 2.0 1.3 1.1 1.0 0.8 0.2 0.2 0.0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 Bond Equity Loan Sources: IFC Economics and Industry Research based on Dealogic. パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 17 アフリカへの官民投融資を動員 アフリカ向け投融資ソリューション の人口動態や、必要とされる投資規模がこれまでよりは るかに大きくなっていることを考えると、民間投融資だ  サブサハラ・アフリカには投資機会が多く、それを利用 けでは、アフリカの高リスクで長期にわたる大規模プロ したいと考える機関投資家がいるのに対し、プロジェクト ジェクトの資金を賄うことはできません。 に対する融資アプローチは限られています。アフリカの企 業や投資家は、収益を生む可能性のある現地の新規事業 アフリカは所得水準が世界で最も低い地域であるうえ、 に資金を提供する新たな方法を模索しています。 脆弱で紛争影響下にある国が少なくありません。世界銀行 グループが定義する「脆弱で紛争影響下にある国」に当ては 商業銀行の融資やファンドが 利用しやすくなり、国内 まる国の半数がアフリカの国です。ガバナンスは改善してい 資本市場をはじめとする民間の融資供給源が緩やかなが るとはいえほとんどの国で不十分であり、アフリカは依然と ら着実に成長していることは、心強い兆候です。これら して世界で最もビジネスが困難な地域です。アフリカの貧 は今までもアフリカの民間企業の成長を支えるうえで大 困イメージは誇張されているかもしれませんが、上記のすべ きな役割を果たしており、その重要性は今後数年でさら ての要素が実際のリスクにつながっており、これらのリスク に増すでしょう。しかし、目まぐるしく変化するアフリカ は管理され、緩和されなければなりません(Figure 6 ) 。 FIGURE 6: EASE OF DOING BUSINESS INDEX (1=most business-friendly regulations) 160 144 143 140 127 128 120 110 111 101 102 100 95 95 85 84 80 60 41 41 40 20 10 11 0 2014 fic sia an a a ia a ld 2015 ric ic ric As or ci be lA er Af Af W Pa h Am rib ra ut th n & nt ra Ca So or th ia Ce ha N As & or Sa & a & N st ic pe b- st Ea er Ea Su ro Am Eu e dl tin id La M Sources: World Bank, WDI Datbase, Doing Business 18 アフリカ開発の軌跡 一方で、特にサブサハラ・アフリカでのビジネス 環境の改善はアフリカの魅力の一部となっていま す。世界銀行グループの2015年と2016年の報告書 「ビジネス環境の現状」では、世界でビジネス環境 が最も改善された上位10カ国のうち5カ国をアフ リカの国が占めました。上位10カ国にランクイン したのは、ベナン(2015年と2016年)、コートジ ボワール、コンゴ民主共和国、ケニア、モーリタニア、 セネガル 、トーゴ、ウガンダ (2015年と2016年) です。 IFCのアフリカ・リース・ファシリティ 他にもいくつかの国が近年大きな進歩を遂げて リースを活用して企業に資産を提供 います。例えば、ルワンダは一貫して投資環境の 改善に取り組み、アフリカで2番目にビジネスが容  多くの新興国の開発において、リースの利用を増やすことは極めて重要 易な国となりました。全体的なビジネス環境ラン であり、それはアフリカにも当てはまります。 最も単純なリース取引は、 二者間で一方が資産(例えば自動車やトラック、縫製機械、重機など)を キングでルワンダより上位にあるのは、アフリカで 提供し、一方がそれを使用することでキャッシュが創出される形態ですが、 はモーリシャスだけです。モーリシャスもルワンダ これが資金調達の一手段になります。 同様、投資に好ましい国への改善を目指し、改革  リースの基本的な考え方は、資産の所有権ではなく使用を通じて収益を に一貫して取り組んでいます。 得るというものです。事業に必要な資産の購入資金の融資を商業銀行から 受ける際に必要となる従来型の担保資産を持たない中小企業のオーナーに 複数年にわたる大規模投資やプロジェクトを実 とって、多くの場合はリースが唯一の中長期的資金の調達方法です。 行可能にする方法としては、既存の資金源を利用  サブサハラ・アフリカ 25 カ国(ナイジェリアと南アフリカを除く)にお しつつ、それを他の種類の融資や支援によって補 けるリース市場の規模は、2008 年の 3 億ドルから 2015 年の約 8 億ドル うことが考えられます。こうした補完的な手法に へと 2 倍以上に成長しています。零細企業や中小企業が事業の成長にリー スを利用できることで、同地域の民間セクター開発に極めて大きなビジネ は、民間セクターの開発金融、ドナーによる資金 スチャンスがもたらされています。 援助、官民の融 資の組み合わせ、その 他の 債券  IFC が 2008 年に立ち上げた「アフリカ・リース・ファシリティ」プログ や株式などがあり、それによって当事者間でリス ラムにより、リースは小規模企業の融資利用を拡大する画期的かつ堅実な クをより適切に分散させ、不適切なリスク配分を 資金調達手段として確立されました。2013 年に始まった同プログラムの なくすことが可能です。 第 2 フェーズ(ALF II)は、融資へのニーズが最も高く、リースによる効 果が最も見込まれるサブサハラ・アフリカの脆弱で紛争影響下にある地域 幸いなことに、アフリカでは現在、融資とリス にほぼ特化しています。 ク緩和に関する戦略とイノベーションが組み合わ  「アフリカ・リース・ファシリティ」プログラムは設立以来、各国政府にリース 政策に関するアドバイスを提供しており、これまでに24本のリース法が施行され される形で使用されつつあり、それによって上記 ました。同プログラムを通じてほぼ2万社の中小企業が講習を受け、5,700万ド の手法が実現可能になっています。 ルの投融資が実行されました。  ALF II の最大の支援者はスイス政府の経済官房長室で、その他のドナー・パー トナーは英国政府、およびオランダ、カナダ、スウェーデンの国際開発協力庁な どです。同プログラムは「西アフリカ経済金融同盟」地域、ブルンジ、チャド、 ジブチ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ギニア、ギニア・ビサウ、リベリア、 セイシェル、シエラレオネ、南スーダンで稼動しており、追加的な資金提供が受 けられれば他のサブサハラ・アフリカ諸国に拡大される可能性があります。 プロジェクトの効果 • 24本の新たなリース法が成立 • 2万社の中小企業が受講。5,700万ドルの投融資を動員 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 19 CEC Africa Power シエラレオネの発電能力を大幅に増強 アフリカでは電力を使用できる人口が全体の 10% に満たず、この比率は新興国で最低水準にあります。シエラレオネでは何十 年もの間、発電、送電、配電への投資が不足しており、特に電力セクターが問題を抱えています。 送 電損失は38% とアフリカ諸国の中で最も高い部類に  本発電所が本格的に稼働すればシエラレオネの発電能力は 属します。送電網への接続率は低く、電力負荷が常 50% 以上増加する見込みであり、経済成長と雇用の創出につ に制限され、料金体系はコストが回収できるよう設 ながります。本プロジェクトはシエラレオネ初の独立系発電事 計されておらず、信用力もありません。国の電力公社である電 業者であり、民間セクターが国内電力セクターに参入する契機 (EDSA) 力配電供給局 は経営に問題があり、同国の電力セクター として期待されています。 を悪循環に陥れており、このため住民は暗闇の中で生活し続け、 経済成長が妨げられています。  世界銀行グループはこの悪 循環を断ち切るため、10年にわ たる内戦と最近のエボラ出血熱の大流行から回復途上にある シエラレオネのために、融資商品とアドバイザリー商品をパッ ケージ化しました。その結果、首都フリータウンの東方約4キ ロメートルの工 業地帯 で、1億3,400万ドルを投じた発電 所が 2016年に運転を開始しました。本プロジェクトは57メガワット の石油火力発電所の開発、建設、運転を対象としており、ア フリカ全土で事 業を行う民間エネルギー会社の CEC Africa Investments 社と、アブダビを拠点とするエネルギー会社の TCQ Power 社から出資を受けています。本施設で発電された 電力は20年間の電力購入契約に基づき、国のオフテイカーであ る EDSA に販売されることになっています。  脆弱で紛争影響下にある地域で実施されるプロジェクトに対 する民間投資家のリスク選好が限定的であることから、IFC は 最大3,000万ドルのシニア債の起債を決定しました。また、ア フリカ新興インフラファンド 、オランダ開発金融公庫 (EAIF) (FMO)、ドイツ投資開発公社(DEG)、アフリカ投資環境ファ シリティ(ICF)などの開発金融機関やドナーからの長期融資 により最大1億ドルを動員するため、IFC が主幹事および金利 プロジェクトの効果とリスク低減策 スワップの提供者となりました。世界銀行グループの国際開発 効果 協会(IDA)は、国の送電網の修復と更新を目的とする5,600 • 電力需要の大きい国で電力供給量を50% 増加させる(建 万ドルのパッケージに加え、最大4,000万ドルの部分リスク保証 設前の発電能力との比較) を提供しています。世界銀行グループの多数国間投資保証機関 • シエラレオネ初の独立系発電事業者プロジェクトであり、 (MIGA)は、株式、株主融資、内部留保を対象とする最大6,000 同国の電力セクターに民間セクターが参入する契機となる 万ドルのリスク保証を提供する予定です。 融資リスクの低減 • IFC、EAIF、FMO、DEG、ICF による長期債の提供  本プロジェクトは、世界銀行と MIGA から早期段階での助言 • IFC が貸し手を代表してデューデリジェンスのプロセスを と非商業的リスクの保証を受けたことで、事業リスクやオフテ 主導 イカー・リスクなどの現実的投資リスクへのエクスポージャーを • IFC が金利スワップによりシニア債の金利を固定 低減し、本来であれば不可能だった融資を実現し、IFC や他の 開発金融機関、有望な民間投資家による後期段階での投資に よって恩恵を受けました。 20 アフリカ開発の軌跡 Azura Edo ナイジェリアの 1,400 万人のエネルギー需要を満たす、電力プロジェクトの新たなテンプレート 脆弱な電力網と不十分な発電能力が原因で、ナイジェリアでは常に広範囲で停電が発生しており、何百万人もの人が、照明や冷 蔵庫、コンピューターを稼働させ続けるため、環境を汚染する上に高価なディーゼル発電機に頼らざるを得ません。推定では、 1 億 8,000 万人のナイジェリア人のうち 42% が電力を利用できていません。 ア フリカ最大の人口を抱えるナイジェリアの歴代政府に を別途動員しました。 とって、長年の電力不足を解決することは、言うまで もなく最大の開発課題でした。使用可能な発電能力  この取引には、株主から貸し手まで、ナイジェリアの電力セ が5,000メガワット未満であるのに対し、需要は桁違いに大き クターで経験のない約20の投資家が参加し、その多くが同国 いと推定されています。 で他の投資機会を求めると予想されます。このため、ナイジェ リアで民間から資金を調達する将来の電力取引で Azura プロ  ナイジェリア政府は2010年、電力セクターの自由化、民間企 ジェクトの文書や融資ストラクチャーがテンプレートとして使用 業の参入増加、効率性の向上を目的に、電力セクターの包括的 され、時間とコストの削減や新たな投資家の誘引を可能とする な改革に着手しました。世界銀行グループ改革プロセスを支援 モデルとされることが期待されています。 「ナイジェリアエネルギー事業計画」を策定するとと するため、 もに、電力セクターへ民間投資の誘引に向けて国際復興開発銀  Azura プロジェクトは、何百万人ものナイジェリア人の逼迫 行、IFC、多数国間投資保証機関の資源を結集しました。 した電力需要を満たすだけでなく、最も困難な投資環境であっ ても、ソリューションが適切に構成されることで国際的な融資  世界銀行グループは、商業銀行や開発金融機関などの約15 を引き付けられることを証明しています。 の金融機関と協力しました。その目的は、ナイジェリアで推計 1,400万人に電力を供給する予定のガス火力発電所、Azura 発 電所をグリーンフィールド開発プロジェクトとして支援すること プロジェクトの効果とリスク低減策 です。Azura は、ナイジェリアで民間から資金調達を受けた初 効果 めての独立系電力プロジェクトであり、環境汚染が少ない天然 • 2018年までに電力供給量を約450メガワット増加(現在の ガスは国内のガス油田で生産されたものを使用し、危機的な電 発電能力に比べ12% 増)。プロジェクトの第1フェーズでは 力需要に対応しつつ、ローカーボン経済を目指しています。 1,000メガワットを発電予定 • 新たに推定1,400万人の住民に電力を供給  新たに建設される Azura 発電所は発電能力が459メガワット • 民間融資の電力プロジェクト向けに、新規のプロジェクト で、ラゴスの東方約300キロメートルのベニンシティ近郊に位 文書テンプレートを作成 「初 置します。同発電所は二つのフェーズからなるプロジェクトの めの一歩」であり、最終的にはナイジェリアで約1,000メガワッ 市場リスクおよびオフテイカー・リスク トの電力を新たに供給する予定です。商業運転は2018年半ば • 企業とオフテイカー間の「プット・コール・オプション協定」 に開始される予定です。 に基づき、オフテイカーの支払いリスクをヘッジ • 世界銀行の部分リスク保証と、MIGA の政治的リスク保険  2015年12月に、約8億7,600万ドルの融資パッケージが署名さ で信用強化 れ、世界銀行グループと、その融資パートナーである Standard • 世界銀行グループが複数の手段を通じて関与し、他の投資 Chartered 銀 行、Siemens 銀 行、Rand Merchant 銀 行、 家に安心感を提供 ドイツ復興金融公庫 、フランス経済協力振興投資公社 (KfW) 、Swedfund、OPIC な ど か ら承 認 さ れ ました。 (Proparco) 建設リスクおよび事業リスク これはナイジェリアの発電事業にとって大きな前進です。 • 標準的なプロジェクト・ファイナンス構造 • 強力な事業実績を持つナイジェリアおよび世界の事業体が  IBRD が部分リスク保証を提供し、MIGA が株式、スワップ、 固定価格方式のターンキー EPC 契約と O&M 契約を締結 商業債券を対象とする政治的リスク保険を提供するなど、世界 銀行グループの多くの金融商品が 融資の組成に使用されまし ガス供給リスク た。IFC は5,000万ドルの債券と3,000万ドルの劣後債を起債 • 確かな事業実績を持つガス供給事業者の Seplat 社とオフ するとともに、オランダの開発組織である FMO と共同で2億 テイカーとの電力購入契約の下で強固な契約を締結  6,750万ドルのシニア債を動員し、さらに3,500万ドルの劣後債 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 21 パートナーシップ投融資ツール 心感が得ることができるため他の投資家を引き寄せる要因 となります。 官民パートナーシップ 特に大規模インフラや公共サー 官民パートナーシップは、 アフリカ最大の低学費型私立学校ネットワークを運営する ビスなどのプロジェクトで実績を上げている戦略です。中 NewGlobe Schools は開発金融機関や新規投資家と共同 核的インフラから医療や教育など、非常に多くのセクター で、傘下の Bridge Academies をケニア以外の3つの国でも に適用できます。 開校することを決め、パートナーシップによりシード投資や 規制対応支援が同校に提供されました。Bridge は現在、低 例えば、アフリカ全体で不足している発電所の場合、民 所得層に属する100万人の生徒に2,100校で教育を2020年ま 間投資家が安心してプロジェクトに参加するためには、多 (CASESTUDY 参照) でに提供することを目標としています。 額の資金調達、適切な規制の枠組み、セクター設計、質 の高いオフテイカーが必要となります。開発機関は多くの ブレンド型融資 場合、官民を結びつけ、上記の全ての要素を提供するうえ ブレンド型融資は、本来であれば民間セクターが不可能 で重要な役割を果たします。 な融資を可能にするアプローチです。その考え方は、通常 はドナー・パートナーから供与される譲許的資金と商業的 2012年、コートジボワールで139メガワットの天然ガス 開発機関や民間投資家の資金を組み合わせることでリスク 火力発電プロジェクトを推進するため、それに必要な長 の共有化を行い、民間資本が公的支援を可能な限り活用 期資金調達、規制改革、電力購入の合意に向けて9つの できるように各資金提供者を動機付けます。 開発銀行が協力しました。このプロジェクトにより、ガス 消費量を増やすことなく、既存の施設の発電量が50% 増 2015年、IFC はルワンダの Dutch Africa Improved 加する見通しです。より最近では、シエラレオネでの発電 Foods Holding 社に2,150万ドルの融資を行い、さらに450 プロジェクトを支援するため、CEC Africa Power 社が 万ドルを出資することで合意しました。この融資は、ドナー 複数の資金提 供者からの資金調達に取り組んでいます。 から資金提供を受けている「世界農業食糧安全保障プログ (CASESTUDY 参照) ラム」の支援を受けて実施するもので、年間4万5,000トン の生産能力を有する栄養強化シリアル加工工場をルワンダ 開発銀行との共同融資 に建設、運営し、子供の栄養失調に対処することを目的 資金を動員し、リスクを分散するもう一つの方法は共同 としており、原料はルワンダの既存の農業協同組合や政 融資です。共同融資を行うことにより、投資家は開発銀行 府から調達します。このプロジェクトは、国際連合(国連) の政府との結びつき、財務の健全性、困難な経済状況で の食糧援助部門である世界食糧計画の支援を受けて計画 も融資を継続する意欲、銀行許可という要素から大きな安 されました。世界食糧計画は、最終製品の大部分を購入し、 22 アフリカ開発の軌跡 Azito Energy アフリカの電力需要を満たす サブサハラ・アフリカは膨大な埋蔵天然ガスや、水力発電能力などの天然資源に恵まれているにもかかわらず、電力が非常に不 足しています。世界のどの地域よりも発電能力が低く、供給は不安定で、価格は高く、電気を利用できる家庭の比率は低いまま です。McKinsey 社の 2015 年のレポートによると、6 億人ものアフリカ人が電気を利用できません。 し かも、供給と需要のギャップは広がっています。多くの ワール電力会社(CIE)は発電された電力のオフテイク(引き取り)お 国で、新規世帯への電力供給が人口の伸びに追いつい よび配電に関する契約を締結しました。世界銀行はコートジボワー ておらず、元々低かった電化率がさらに低下しているの ル政府にエネルギー・セクター改革と財務管理に取り組むよう働き が現実です。一方、アフリカでは、通常の電気料金の3 ~ 6倍と かけました。 いう価格にもかかわらずディーゼル発電機の普及率が高く、この ことからもアフリカの企業と消費者が電力への支出を惜しまない  既に稼働している発電所の拡張の一環として、2基の熱回収蒸 ということがよく分かります。McKinsey 社は、アフリカの電力 気発電機、および140メガワットの蒸気タービン発電機、復水器、 化が今後数十年で急速に進むと予測しています。 空冷式の水冷却システムがそれぞれ1基ずつ設置されました。こ の技術は基本的に、既存のガスタービンから排出された熱で蒸気  とはいえ、長期の内戦と、激しい選挙直後の2012年のコートジ を発生させ、それによって他の発電機を運転させるもので、発電 ボワールでは、民間企業が大規模な電力インフラプロジェクトを単 能力の増強に必要となる追加燃料を削減します。 独で開始するのはほとんど不可能だったと思われます。特に政情不 安の規制への影響や通貨へのリスク、現地の専門知識の不足による  上記の取り組みにより発電所の拡張が進められており、完成す 民間企業による大規模電力プロジェ リスクはあまりにも深刻でした。 ればガス消費量を増やすことなく発電量が50% 増加する見込み クトの推進を可能にするため、2012年に9つの開発金融機関が協力 です。電力は新たに230万人に届けられる見通しで、危機後のコー し、コートジボワールで139メガワットの発電所の拡張に着工するた トジボワールにおける大規模投資の成功例となっています。 め必要な長期融資の提供と規制改革の制度設計を行いました。  Azito 発電所の拡張プロジェクトの成功事例のような事業機会  この発電所は、アビジャン港の西方約6キロメートル、コートジボ はアフリカ全土で増えていますが、そのほとんどはまだ手が着け ワールのヨプゴン地区のアジト村付近に位置しており、当初は世界 られていません。民間セクターで2012年から2014年までに新た 銀行の最貧国向け基金である国際開発協会(IDA)から最大3,000万 に創出された発電能力は、アフリカ全土で新たに発生する年間発 ドルの部分リスク保証を受けて1998年に建設されました。IDA の保 電能力需要の6% にすぎません。McKinsey 社によると、アフリ 証により、同国向けの一般的な条件よりも大幅に優遇された条件で カには今後25年間に渡って、新たな発電能力のために4,900億ド 長期融資を動員し、この第一期プロジェクトを完了させることがで ル、送配電のために3,450億ドルの投資機会があります。 きました。現在、新興国に重点を置く発電デベロッパーの Globeleq Generation Holdings 社が本発電所の持分の過半数を所有しています。 プロジェクトの効果とリスク低減策 効果  1998年に建設された Azito 発電所の拡張と近代化には4億3,000 • 燃料消費量を増やすことなく、230万人分の発電能力を新 万ドルの費用がかかると見積もられ、融資、技術的な専門知識、通貨 たに創出 ヘッジ、金利スワップ、政治的リスクに対する保険、信頼性のある燃 料供給、エンドユーザーとの購入契約が必要となり、民間投資家の範 融資リスクの低減 疇を超えた大規模で複雑なパッケージをまとめることになりました。 • IFC の長期資金が他の投資家に安心感を提供 • プロジェクト出資者の強固な財務体質  そこで IFC の出番となりました。IFC は1億2,500万ドルのア • IFC が金利スワップを提供し、金利を固定(15年) ンカー投資を提供し、さらに他の8つの開発銀行による2億2,000 事業リスクの低減 万ドルの長期融資をとりまとめました。さらに General Electric • 電力セクターで豊富な経験を有するプロジェクト出資者 社 か ら世 界 最 先 端 の タービ ン 技 術 の 提 供 を 受 け、Hyundai • 経験豊富な国際企業と契約 Engineering and Construction 社などの経験豊富な建設業者 との間で施設の建設、運転、維持契約を締結しました。 市場リスクおよびオフテイカー・リスクの低減 • MIGA がコンセッション契約、政治的リスク、移転リスク  現地の複数の生産者が信頼性の高い天然ガス供給を計画する一方 についてエクイティ保証 で、コートジボワール政府および民間の公益企業であるコートジボ • 世界銀行が電力セクターの構造改革と財務管理に関与 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 23 南スーダン、ウガンダ、ブルンジなど各国で配給すること (CASE STUDY 参照) で合意しています。 農業開発向けの融資もブレンド型融資に適しています。 例えば、アグリビジネス大手の Cargill 社とコートジボワー ルの Societe Ivoirienne de Banque は2015年に IFC と 提携して、畑でカカオ豆を収穫する際に丈夫で安心なトラッ ク車両を使えるようにするトラック・リース・プログラムを コートジボワールで開始しました。 IFC はリスク共有ファシリティを通じ、最大600万ドル のリース・ポートフォリオの50% を保証しました。保証さ れたリスクの一部は「世界農業食糧安全保障プログラム」 を通じてドナーが引き受けました。(CASE STUDY 参照) 倉荷証券 アフリカ全土で総合金融サービスを展開する銀行グルー 農家に革新的なインベントリーファイナンスを提供 プの Ecobank にも同様のアプローチが用いられました。 IFC は、不安定性や所得水準の点で特に困難な経済環境  商業活動による収入を確実に増加させるためには、事業環 境の改善が必要不可欠です。 「貿易 IFC は世界銀行グループの ・ にあるアフリカの8つの国で、Ecobank による小規模企業 競争力に関するグローバル・プラクティス」と共同で、規制の 向け融資を展開するプロジェクトを支援しました。このプ 簡素化と技術の改善を促進し、事業をより低コストで円滑に行 ロジェクトでは、Ecobank、IFC、英国の国際開発省の3 えるようにすることを目的とした数多くのプログラムをアフリカ 者による1億1,000万ドルのリスク共有ファシリティを使用 の様々な地域で支援しています。これには、農業における市 (CASE STTUDY 参照) しています。 場機会の調査と育成に取り組む民間セクターを支援するプログ ラムが含まれています。 開発ニーズが存在する国には、ブレンド型融資を用いて  融資を受ける際の担保として、また作物の貯蔵に必要とされ ビジネスを拡大する機会も存在します。例えば、多くのア る資産の不足がアフリカの農家の悩みの種です。 農家は融資 を受けられなければ事業を拡大できないだけでなく、価格が安 フリカの市場では、女性へのサービス提供にまつわる不平 くとも作物を売らざるを得ないこともあります。 等に対処するための持続可能な戦略を金融機関が展開して  これに対し、農家とその他のバリューチェーンの担い手を結 おらず、ビジネスの機会を失っており、それが経済成長と び付けることにより、解決策が生まれつつあります。 民間セクターの発展をも制約しています。  コートジボワール、ケニア、マラウィ、セネガルでは、生産 者やサプライヤー、取引業者、加工業者を対象に手持ちの商 コンゴ民主共和国の Rawbank は、女性に特別なサービ 品を担保として融資を提供するインベントリーファイナンスとい スを提供する「女性にとって最も好まれる」銀行サービスを う革新的な手法が先行的に導入されています。この手法は国際 導入しました。IFC はサービス内容の立案に際してアドバイ 倉荷証券プログラムとして知られており、東西アフリカの数千 戸の農家が倉荷証券を担保とした短期融資の利用、またはより 「グローバル SME 金融ファシリティ」の支援に スを提供し、 条件の良いタイミングで倉荷証券を売却することが可能です。 「グローバル SME より Rawbank への投資を行いました。 「貿易・競争力に関す  IFC は日本政府の資金援助を受け、 金融ファシリティ」は IFC が2012年に設立したドナー・ファ るグローバル・プラクティス」を通じて、農業セクターにおけ シリティであり、開発機関による新興国市場の小規模企業へ る融資利用上の問題点への対応と貯蔵インフラの改善を目的 (CASESTUDY 参照) の融資の拡大を目的としています。 とする本格的な倉荷証券システムの確立に向けた政府の取り 組みをサポートしています。 当初の一次産品である米を手始 めに、倉荷証券に関する法制度と規制の枠組み案が完成して おり、現在の貯蔵容量と、システムに見合ったインフラ改修・ 構築に対する投融資上の要件の評価作業が行われています。 < P24 に続く> 24 アフリカ開発の軌跡 < P24 から続く> ENDA Inter Arabe  IFC は、セネガル政府による規制当局の創設に チュニジアの起業家に 「初めの一歩」 となる 向けた取り組みと、倉荷証券システムの実施に関 する運営委員会の設立を支援しています。 運営委 融資を提供し、若年層の雇用を促進 員会にはすべての重要なステークホルダーが参加 IFC は、チュニジ アの 大 手マイクロファイナンス機 関である し、銀行、担保管理業者、米のバリューチェーン ENDA を過去数年にわたって支援しています。支援の内容は、 の担い手などの官民の当事者、および関連省庁で リスク管理、組織強化、商品戦略や変革などの包括的なキャパ 構成されます。システムに参加する受益者は、農 シティ・ビルディング・プログラムです。特筆されるのは、チュ 家、製粉業者、取引業者など 2,500 に上るとみられ、 ニジアでの動乱を受けた ENDA による不良債権削減アプロー これらの参加者はプロジェクト完了から 3 年以内に チの開発を IFC が支援したことです。IFC は ENDA の商品マー 倉荷証券と融資を利用できるようになります。この ケティング戦略とコストを見直すとともに、人的資源および経 支援により、農業セクターに最低でも年間 250 万 営情報システム(MIS)に関する戦略を立案し、マイクロレンダー ドルの融資が実行される見通しです。 (小規模な貸し手)のための先進的なリスク管理の枠組みを導  倉荷証券プログラムは、主にセネガルで、従来 入しました。さらに IFC は ENDA と協力し、従来のマイクロファ 型の担保資産を保有していないことを理由に事業 イナンスの代替手段を求める顧客のために、シャリーアを遵守 資金の調達に困難をきたしているセネガル僻地の したリスク共有商品を開発しました。IFC はこの間、ENDA の 零細米農家を支援します。 倉荷証券による効率的 成長資金を供給するため合計 1,600 万ドルの与信枠を 3 本提 な資金調達により、こうした農家は近い将来、農 供しました。 作物の販売時期を調節することが可能になります。 つまり、倉庫に貯蔵した農作物を担保として利用す こ ることで、セネガルの農民は農作物の売却時期の れと並行して、ENDA は過去数年間にわたり、アントレプ 自由度を高め、栽培した農作物をより高い値段で レナーシップ・プログラムを通じてチュニジアの若年層の 売ることが可能になるのです。 失業問題に取り組んできました。このプログラムは、スイ ス経済省経済事務局(SECO)から資金供給を受けました。 プロジェクトの効果  ENDA の Bidaya プログラム(Bidaya はアラビア語で「出発点」 • システムに参加する農家、取引業者など推定 の意味)は、チュニジアの若年起業家が自らのビジネスプランを開 2,500の受益者 発し、必要であれば融資を提供する目的で設立されました。2011 • 農業セクターに年間250万ドルの融資 年 の 開 始 以 来、本プログラムは約8,000の小規 模 企 業に1万件 の Bidaya 融資を、チュニジア全土の70の支店を通じて提供していま す。借り手の約63% が35歳未満で、約42% が女性、約17% が修 士号もしくは博士号を有し、約42% が最初に融資を受けた時点で 失業中でした。  Bidaya プログラムの効率性を高めるため、ENDA は以下の施策 を実行しました。 • スタートアップの起業家を支援するため、内部の体制を強化しま した。Bidaya の職員向けに独自の訓練プログラムを運営し(訓 練対象者は40人)、これらの職員を支援するため8人のコーチング 担当職員を配置しました。 • 2015年に試験的な起業後支援活動を初めて実施しました。この 活動の目的は、Bidaya の借り手が企業を設立した後も事業を継 続できるように支援することです。これまでに約230人の Bidaya の借り手が11人の ENDA のコーチや外部コンサルタントから技 術的なサポートを受けています。 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 25 SECTORS FINANCED BY BIDAYA PROGRAM • Bidaya の推進、および起業家同士のネットワーキングや情 報交換の促進を目的に、チュニジア職業訓練・雇用省、ビジ 3% ネスセンター、国連食糧農業機関(FAO)、国際青年会議所 7% Retail と提携しました。 Services Manufacturing  ENDA は現在、Bidaya プログラムでの成功事例を基に、起 14% 37% Agriculture 業家支援を専門に行う Village Entreprendre(アントレプレ Handcraft ナーシップの村)の設立を計画しています。最初の村である El Kahina は2015年にチュニスで設立され、200人の若年起業家 (そのうち60% は宿泊費が無料)を支援し、150件の持続可能 で革新的なプロジェクトを開発する計画です。 39%  起業家の一人である Essia さん。ENDA の Bidaya プログラ ムで支援を受け、チュニジア様式の手作り家具というユニーク なコンセプトの Pouffy 社を創業しました。現在は作品の輸出 Source: IFC Financial Institutions Group 開始の準備を進めています。 • これと並行して、起業家の支援ニーズの調査を進め、起業家 ツールキットを設計しました。 プログラムはチュニジアの若年層の雇用創出に成功しています。 ENDA の推計では、これまでに様々な産業で実に5,000人分の • Youth Business International と提携し、若年起業家を支 雇用創出に貢献しています。Bidaya 融資は基本的にスタート 援するボランティアを集めるためのメンタリング・プログラム アップ融資ですが、融資のうち合計2,500万ディナール(1,250 を試験しました。一部の地域では、ネットワークの活動を促 万ドル)は「休眠中」の小規模企業の支援に使われました。 進するための「起業家クラブ」を設立しました。 プロジェクトの効果とリスク低減策 効果 • チュニジアの小規模企業起業家による融資へのアクセスを 全体的に増加させる一方、ポートフォリオの質を改善(30 日の PAR は約1%) • 約1万件の Bidaya スタートアップローンを約8,000の小規 模企業に、ENDA の国内の70の支店を通じて支出 • 推計2,500万ディナール(1,250万ドル)のローンを若年起 業家に提供 • ENDA の推計では、5,000人分の雇用創出に寄与 マイクロファイナンス機関のリスク・エクスポージャーへの対応 • IFC による ENDA のキャパシティ・ビルディング支援が不 良債権管理改善、強固なリスク管理の枠組み構築に寄与。 これによりシステムの強化と新商品の開発を促進 • ENDA による、特に若年層向けプログラム(Bidaya)で 新興企業のリスクを限定する取り組み。スタッフの能力開 発への投資、若年起業家を成功へ向けて支援   26 アフリカ開発の軌跡 Ecobank 中小企業向け融資への取り組み アフリカ諸国で幅広く事業を展開する Ecobank はすべての企業を対象に融資に取り組んでおり、顧客層を拡大するという方針 の下、脆弱さと所得の点で特に厳しい経済環境にある 8 カ国で中小企業向け融資を拡大したいと考えました。本プロジェクトで は 1 億 1,000 万ドルに上る官民のリスク共有ファシリティに加え、いくつかのリスク低減策が導入されました。 サ ブサハラ・アフリカの中小企業は銀行業界のサービス にとりまとめた融資パッケージは、ブルンジ、チャド、コートジ 対象とならないことが多く、世界銀行の調査によると、 ボワール、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ギニア、マリ、トー 銀行から融資または与信枠の設定を受けている同地 ゴなどの極めて貧しい国々にあって、なお且つリスク特性の高 域の企業の割合は、中規模の企業で3分の1未満、小規模の企業 い中小企業に融資する際の問題点を克服する目的で開発され では5分の1未満です。 ました。なお、 「グローバル SME 融資ファシリティ」 国際開発省は を通じて参加しました。  脆弱で紛争影響下にある国におけるこうした企業が経済を支 え、雇用の大部分を提供しているにもかかわらず、融資および与  Ecobank のパッケージで中核となるのが、同行と IFC による 信全体の4分の1しか受けていません。その理由の一端は、そうし 1億1,000万ドルのリスク共有ファシリティであり(ただし追加的 た企業の信用力に関する知識が全体的に不足していることです。 、Ecobank 対象8カ国の なリスク低減策を国際開発省が提供) さらに、脆弱で紛争影響下にある国では金融機関の融資能力が それぞれに置いている支社が利用できるようになっています。欧 不足しており、金融インフラが貧弱で、多くの場合マクロ経済の 州投資銀行は、このリスク共有ファシリティを支援するため1億 不安定性に悩まされています。残念ながらその結果が、こうした ドルのリスク負担枠を引き受けました。 国の銀行における中小企業への融資意欲の低さとなっています。  リスク共有ファシリティは Ecobank の提携先金融機関に中  Ecobank Transnational はアフリカ地域で事業を展開する銀 小企業向け融資を拡大するためのツールも提供しており、それ 行の中では最大の規模を持ち、36カ国で事業を展開しています。 にはアドバイザリー・サービスや中小企業向け融資に関する職業 同行は1985年の設立以来、法人向け金融を得意としつつ、中小 訓練が含まれています。12カ月以内にファシリティの50% の利 企業や個人顧客向けの金融サービスにも取り組んでいました。 用を達成した Ecobank の提携先金融機関に対し、金利上のイ ンセンティブも提供されます。  一方で、経済的により困難な状況にある西アフリカや中部ア フリカの諸国で中小企業向け融資を拡大するプロジェクトには  この新たなリスク共有ファシリティにより、8カ国において中 開発銀行の支援が必要でした。 小企業が融資を利用可能になり、金融セクターが強化され、よ り良い雇用機会が創出されました。Ecobank にとって、顧客  Ecobank が IFC および英国の国際開発省と共同で2015年 基盤の拡大へ、そして将来的には融資対象である経済の強化 へとつながります。 プロジェクトの効果とリスク低減策 効果 • ブルンジ、コンゴ、コートジボワール、コンゴ民主共和国、 ギニア、マリ、チャド、トーゴの8カ国で1万社の中小企業 が融資を利用 脆弱な状況にある中小企業を対象とした融資のリスク低減 メカニズム • IFC によるリスク共有ファシリティ • DFID による追加的なリスク低減 • Ecobank のリスク管理の枠組みと、IFC による銀行トレー ニング支援 監督上の課題 • 堅固に構築された IFC の監督モデル 利用上の課題 • リスク共有ファシリティ(RSF)利用のためのアクションプ ラン、および的を絞った RSF トレーニングを IFC が提供 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 27 Rawbank 女性と中小企業への支援 2002 年に創立された Rawbank は停滞市場のイノベーターです。創業家の Rawji 家はコンゴ民主共和国で 1922 年から事業 を営み、同行はその技術とビジネス感覚を受け継いでいます。同行は最近、総資産と預金額においてコンゴ民主共和国最大の 銀行となりました。 コ ンゴ民主共和国における銀行利用者の比率は2014 向の強い同行は当時、中小企業ポートフォリオの不良債権率が 年時点でわずか2% と推定されています。リスク回 16%(ハイエンドのポートフォリオでは1% 未満)だったことで 避傾向の強い4大銀行は政府と大企業に重点を置き、 伸び悩んでいました。 市場の70 ~ 75% を支配していました。これらの銀行は、紹介 を通じて融資を行い、与信の担保設定比率を高めることにより  Rawbank とその顧客が直面している課題を採ってみても、 厳しいビジネス環境(2016年の「ビジネス環境ランキング」で 中小企業向け融資と金融サービスが拡大していることは、コン 189カ国中184位)で何とか事業を行っていました。 ゴ民主共和国のビジネス環境と民間セクターの発展にとって明 るい兆しです。IFC の推定では、Rawbank 銀行の中小企業の  コンゴ民主共和国が内戦から立ち直り始め、マクロ経済の安 ポートフォリオおよび女性がオーナーの中小企業のポートフォリ 定が回復すると、Rawbank は競争が比較的穏やかで以前から オは、2018年末までにそれぞれ1億330万ドル、1,380万ドルに 融資の対象となっていなかった中小企業などのセグメントを対 成長する見通しです。このことは、内戦後に設立された新興の 象とする融資にニーズとビジネスチャンスがあることに気付きま 金融機関に大きな影響を与えると思われます。 した。世界銀行の直近の「企業調査」によると、同国の中小企 業の90% が融資を受けられていませんでした。  IFC は、リスク管理と与信業務の能力や中小企業市場への理解 が不足していた Rawbank を支援するため、融資とアドバイザリー・ サービスを提供し、その取り組みで鍵を握ったのがドナーでした。  Rawbank は、700万ドル の「IFC アフリカ零 細・中小企 業 融資プログラム」ファシリティを利用し、女性をオーナーとする 企業を対象とした融資プログラムである Lady’s First WIN を 2010年に設立しました。女性に手を差し延べるこの取り組みは、 信用力を高め、基礎となる取引履歴を構築し、将来に向けた借 り入れ能力を強化するものです。  IFC は2013年、英国の国際開発省が資金を提供する「SME プロジェクトの効果とリスク低減策 融資ファシリティ」を通じ、Rawbank に2度目の融資を行い ました。この2度目の IFC の融 資には前回と同様、融 資のイ 効果 ンセンティブが盛り込まれました。このインセンティブは例え • Rawbank による、中小企業を対象としたポートフォリオ 「Rawbank による中小企業および女性がオーナーとなって ば、 の拡大を支援。2,940万ドル(女性がオーナーの中小企業 いる中小企業のポートフォリオが全体のポートフォリオよりも速 (女性 に330万ドル)から2018年、10,330万ドル [ 予測 ] いペースで拡大した場合、同行に3% の譲許的融資を実行する」 がオーナーの中小企業に1,380万ドル)に というものです。1,500万ドルのファシリティのうち25% は女 性がオーナーの企業に割り当てられました。 融資リスクの低減 • IFC が DFID を通じて2度目の融資  Rawbank の 中 小 企 業 ポートフォリオ は2014年 末 ま で に • IFC が融資を認めたことがフランス開発庁の追加融資を誘引 2,940万ドルに成長し、そのうち女性がオーナーの企業が330 万ドルを占めました。さらに、IFC が融資を認めたことが、フ 事業リスクの低減 ランス開発庁による追加融資を引き付ける要因となりました。 • Rawbank が2010年以降、与信の基礎となる取引履歴を蓄積 この 資 本 注 入と IFC の2度目の 融 資は、Rawbank の成 長 の • 女性オーナーの中小企業ポートフォリオ拡大を条件に、 勢いを維持する上で重要な役割を果たしました。リスク回避傾 IFC が Rawbank に3% の譲許的融資を実行 28 アフリカ開発の軌跡 気候関連融資 に合致した革新的な投資ストラクチャーおよびリスク低減 官民から調達された資金は、様々な経路を利用し、新興 手法の開発を支援しています。IFC アセットマネージメン 国の気候関連投融資に利用されます。IFC は気候変動か ト社の「触媒ファンド」は、資源の効率化を可能にし、低 ら大きな影響を受けるリスクのあるプロジェクトを対象に、 炭素製品を開発する企業への投資に特化したプライベート・ 「地球環境ファシリティ」 自己資金を提供するだけでなく、 、 エクイティ・ファンドに投資しており、グリーンボンドはそ 、協力関係にあるカナダなど 「気候変動関連投資ファンド」 うした投資商品の一つです。 の国からの譲許的資金による共同投資を行っています。南 アフリカの KaXu Solar One 発電所は、新興国で初めて 資本市場とテイラード・ソリューション 蓄熱設備を備えた大規模集光型太陽熱発電所となりまし 奥行きのある効率的な 現 地 資本 市場は、長 期の 現 地 た。技術的に困難で前例のないプロジェクトを成功させる 通 貨 建て投 融 資にアクセスするため の 有 効な方法であ ため、IFC による「クリーン・テクノロジー・ファンド」の譲 り、繁栄する民間セクターの基礎であり、さらには雇用 許的融資を通じたブレンド型融資など複数のプロジェクト と成長の重要な原動力でもあります。健全な現地資本市 領域にまたがる革新的なアプローチが必要となりました。 場は、資本流入量の変動から経済を守り、海外債務への (CASE STUDY 参照) 依存を緩和します。現地市場以外の通貨リスクや市場変 動は、ニーズに合わせて構築されたソリューションと手段 地場の銀行やその他の金融仲介業者には、気候変動対 によって対処可能です。 策活動を支援する義務があります。IFC の金融パートナー が新たな気候変動対策分野の成功にこぎ付けている一方 こうした市場の育成は、開発金融機関の優先事項です。 で、顧客はリスクを削減し、運営コストを低減し、気候変 IFC は国債以外の現地通貨建て債券の発行を通じて市場 動や経済の不確実性に対する回復力を強めています。 の育成を促しており、他の発行体の先駆け的存在です。開 発金融機関は、民間セクターのニーズに合わせて現地通貨 開発金融機関は、資本市場の育成への取り組みと、気候 建て融資を提供するだけでなく、政府や規制当局と協力し、 に配慮したプロジェクト支援に対する投資家の関心を結び 現地資本市場や現地通貨建て融資を支援するための改革 付けることが可能です。IFC の財務部門はグリーンボンド や政策を促進することができます。 の発行者として世界をリードしており、グリーンボンドの 収益は再生可能エネルギーやエネルギー効率向上などの気 IFC はこれまでに、アルメニア・ドラム、中国人 民元、 候関連分野への投資を支えています。IFC は投資家と協 インド・ルピー、ペルー・ソル、ザンビア・クワチャなど、 力し、投資家による気候変動リスクの特定、測定、対処を 18の新興国通貨で起債された債券を発行しました。為替 サポートし、投資ポートフォリオの健全性を高めている一 リスク、金利リスク、一次産品価格の変動リスクをヘッジ 方で、低炭素投資の拡大に向け、リスク調整後リターンや する他の手段として、融資、スワップ、保証、リスク共有ファ 分散化、投資規模、流動性にまつわる機関投資家ニーズ シリティなどのストラクチャード商品を使用しています。 KaXu Solar One 南アフリカの KaXu Solar One は新興国で稼働する最初の蓄熱設備付き大規模集光型太陽熱発電所(CSP)となりました。 同発電所の CSP は100メガワットの発電能力を備えた放物線トラフ式であり、民間セクターの投資家と銀行によって開発、資 金調達、建設が行われ、2015年2月からクリーンなベースロード・エネルギーを同国の電力グリッドに供給しています。 同プロジェクトは建設時に4,500人の雇用を創出し、稼働時に80人の正社員を雇用しました。約8万戸の家庭にエネルギーを供 給しています。出資者は Abengoa 社、IDC 社、Kaxu Community Trust です。 IFC が組成した「クリーン・テクノロジー・ファンド」はプロジェクトに革新的な譲許的融資を提供しました。譲許的融資と IFC 資金の組み合わせは、同プロジェクトが出資者にとっては現実的な金融ストラクチャーを採用するうえで、最終消費者にとって は発電エネルギーのコストを受け入れ可能な水準に維持するうえで、重要な役割を果たしました。 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 29 アフリカでの「効率的証券市場制度開発」プログラムは、 世界銀行グループとスウェーデン国際開発協力庁のパート ナーシップによるものです。このプログラムは、住宅、イ ンフラ、マイクロファイナンスなどの重要なセクターの資 金調達の改善を目的とし、効率的に機能する証券市場の 育成を支援しています。 マイクロファイナンスによる融資を手掛けるザンビアの Bayport Financial Services 社は2014年、開発機関の Efficient Securities Market アンカー投資から支援を受けて最初の中期債を発行し、1 Institutional Development 億7,200万クワチャ(約2,650万ドル)の資金を調達しまし 株式・債券市場が存在しない地域に機能的な た。ザンビアでは5年ぶりの社債発行となり、発行による 市場を創造 収益は Bayport 社により低中所得層の借り手や中小企業 への融資拡大に使用される予定です。 (CASESTUDY 参  サブサハラ・アフリカでは、住宅、道路、電力、その他のインフ ラへの需要が拡大しており、それに対応して資金調達への要求が 照 )IFC はこれに先立ち、2013年のザンベジ債の発行を 高まっています。同地域の政府をはじめとする公的機関は民間セク 通じてザンビアの資本市場規制当局と初めて建設的な対 ター主体のソリューションを模索しており、証券市場への期待を募 話を行いました。 らせています。証券市場を利用することにより、各国は自国通貨で の資金調達が必要なプロジェクトに民間資金を動員することが可能 になるからです。 企業が市場の変動リスクを管理し、有望なプロジェクト  アフリカにおける「効率的証券市場制度開発」 (ESMID)プログ への資金調達を行ううえでは、現地での債券発行だけでな ラムは、世界銀行グループとスウェーデン国際開発協力庁のパー ト く、クロスカレンシー・スワップなどの資本市場商品を活用 ナーシップに基づいて提供されています。ESMID は、住宅、イン することが重要になることがあります。例えば、IFC と米 フラ、マイクロファイナンスなどの重要なセクターの資金調達の改 善を目的とし、効率的に機能する証券市場の創造を支援しています。 国海外民間投資会社(OPIC)は、セネガルでの53メガワッ  ESMID は東アフリカで自国通貨での長期的な資金を必要として トの Cap des Biches 発電所のプロジェクトにおいて、プ いるセクターへの資金提供の拡大を促進するため、地域における資 ロジェクト・デベロッパーの ContourGlobal、セネガル政府、 本市場の導入を支援しています。ESMID プログラムが 2007 年に セネガルの国営電力会社への資金提供を行いました。この 立ち上げられて以降、東アフリカにおける社債を通じた資金調達額 は 16 億ドルに達しています。同地域のすべての国が今ではインフ プロジェクトの革新的な資金調達モデルは民間セクターの ラ投資を優先的に実行しており、大規模な財源(2015 ~ 2016 年 オペレーターのニーズに合わせてカスタマイズされたもの に 35 億ドル)をエネルギー、インフラ、交通の各セクターに配分 で、OPIC による18年間で9,100万ドルの融資のユーロへ しています。 の交換を IFC が担うことで ContourGlobalによるプロジェ  ESMID の活動は、債券市場を通じた資金調達への取り組みを数 クト資金の調達が可能になりました。 多く支援しています。 • ルワンダの商業銀行Banque Commerciale du Rwandaは住宅 このアプローチでは、通貨変動のリスクを軽減し、収益 ローン・ポートフォリオを支えるため、2011年に100万ドルの社債を 発行し、債券市場への再参入を果たしました。 と債務返済額を一致させることで、安定的な資金調達を • アフリカ地域で幅広く事業を展開する金融機関であるShelter 実現しました。このプロジェクトにより、今後10万人のセ Afriqueは、ケニアのさまざまな住宅プロジェクトに使用するための ネガル国民に電力が供給される見込みです。 3,500万ドルの資金調達に2010年に成功しました。ESMIDが本件の 取引を支援しました。 「ケニア道路年金」 • プログラムは4億ドル相当の資金を現地通貨建 てで調達する計画です。これだけの資金があれば、1万キロ分の道 路を新設することができます。 • ケニア野生生物公社(KWS)は、国立公園内の保護官宿舎の建設な どの自然保護関連の取り組みを目的に、7,000万ドル相当の資金を 現地通貨建てで調達する計画です。 • タン ザ ニ ア の マ イクロファイ ナン ス 機 関 で あ るN a t i o n a l Microfinance Bankは1億5,000万ドル相当の現地通貨建て債券 の発行を提案しています。 30 アフリカ開発の軌跡 Scaling Solar 効率的でよりクリーンなアフリカ資源を有効活用 サブサハラ・アフリカに暮らす人々の 70%が電気を使えない生活を送っており、アフリカでは発電所規模の太陽光発電の経済性 と持続可能性は依然として改善していません。 太 陽光エネルギーはサブサハラ・アフリカのニーズに最  入札は、競争に基づく透明なプロセスとするため、Scaling も適しています。太陽光発電所は短期間で建設でき、 Solar と政府の監督の下に実施され、Scaling Solar が政府に 長期的にみた電力価格は石油火力発電所より確実に 具体的なスケジュールを提示します。このスケジュールでは、低 安くなります。太陽光の照射レベルはアフリカ全域で高く、大 コストで持続可能なエネルギーがプロジェクト開始から2年以内 半の国が発電所規模の太陽光ソリューションに適した環境を備 に供給されることが保証されます。 え、再生可能エネルギーに向けたエネルギー生産の多様化を図 ることができます。その半面、民間資金を利用した大規模太陽  2015年、ザンビアはこのプログラムに参加する最初の国となり 光発電所が南アフリカ以外のアフリカ諸国で建設された例はあ ました。渇水による水力発電能力の低下が原因で停電が毎日のよ りません。その理由は、規模の小さな特異な市場では、リスク うに発生したため、政府は太陽光発電能力を近い将来に600メガ とコストの高さが資金調達意欲を低下させ、収益性を確保でき ワットに引き上げる長期計画の一環として50メガワットの太陽光 るプロジェクトが成立しなかったためです。 発電所を2基建設したいと考えていました。このプログラムの1回 目の入札が最近完了し、最低入札価格は1キロワット時当たり6.02  一方で、サブサハラ・アフリカにおける太陽光プロジェクトは、 セント(25年間固定・インフレ調整後)でした。これは、アフリ 世界の投資家とデベロッパーが求めている投資リターンを実現 カ地域の太陽光発電における最低料金であり、石油火力発電のわ できる可能性があります。こうした太陽光発電プロジェクトに ずか4分の1の価格です。このプロジェクトでは、太陽光による発 必要とされる資金を引き寄せる重要なポイントは、プロジェクト 電能力が2年以内に100メガワットに引き上げられる見通しです。 と市場を標準化し、回避できるリスクの目を摘むことです。  ザンビアは同プログラムを通じて2回目の入札を実施すると宣  Scaling Solar はこうしたことを念頭に設計されました。こ 言しています。ザンビアに続き、マダガスカルとセネガルも今 のプロジェクトは世界銀行グループの専門知識を活用し、1)民 年初めにそれぞれ40メガワット、100メガワットの発電能力の 間資金を活用し、グリッド接続された太陽光発電プロジェクトを 開発に関して契約を締結しました。 2年以内の関与で展開する、2)安定的な電力供給と競争力のあ る料金を実現し、短期間でプロジェクトを遂行する、3)プロジェ クトを構造化・標準化し、リスクとコスト、電力料金を低減する プロジェクトの効果とリスク低減策 競争力の高いプロセスの形に仕上げ、投資家がプロジェクトから 利益を享受できるようする、といった取り組みを行っています。 効果 • ザンビアで2年以内に発電能力を100メガワット増強  Scaling Solar を導入する国がプロジェクトを前進させるために は、政府がプロジェクトをとりまとめるだけでなく、エネルギー省 融資リスクの低減 や財務省、規制当局、オフテイカーによるサポートが必要です。プ • ドナーの支援により、競争入札を通じた民間資本の利用を ロジェクトと入札の準備段階で、Scaling Solar と政府の監督の 促進 下、競争に基づく透明な入札・選定プロセスの手順が定められま す。Scaling Solar プロジェクトの入札に参加するデベロッパーに 業務リスクの低減 は、 完全に体系化された取引、 標準化された文書の使用が課せられ、 • 経験豊富な EPC と O & M コントラクターが技術的リスク 世界銀行によるデュー・デリジェンスの完了が義務付けられます。 を共有 • 世界銀行グループがデュー・デリジエンスを実施  加えて、入札参加者は世界銀行グループが保有する一連の融 • 世界銀行が持続可能な規制環境づくりを支援 資・リスク低減手法を利用することができ、これにより残存す • MIGA による政治的リスクに対する保険商品の提供 る不確実性に対応し、迅速な入札プロセスを進めることが可能 になります。国際開発協会を含む世界銀行グループは、オフテ イカーの信用リスクへの対応をサポートし、政治的リスクに対 する保険を提供可能です。また、IFC は現地通貨建てのプロジェ クト・ファイナンスや外国為替リスクのヘッジを提供できます。 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 31 Bayport 融資の拡大に債券市場を活用 資本市場は銀行融資を拡大するうえで伝統的資金調達手段となりますが、多くのアフリカ諸国の債券市場と株式市場は存在し たとしても未開発であり、債券と株式の流動性は低いのが現状です。しかも、アフリカの国内債券市場での取引の大半は国債 です。こうした状況はザンビアも例外ではなく、Zambian kwacha(ZMW)は 2014 年までの過去 5 年間、社債を発行して いませんでした。 B ayport Financial Services は国際金融機関と協力 したことにより、こうした「干ばつ状況」を終わらせ、 融資の拡大に必要な資金調達に資本市場を利用する ことが可能になりました。IFC は2013年のザンベジ債の発行 を通じてザンビアの資本市場規制当局と初めて建設的な協議を 行うとともに、その次のステップとして、ザンビアの国内外で の資本市場取引における自らの広範な経験を活用することで、 Bayport の債券発行が適切に組成され、時宜を得た売り出し ができるよう支援しました。  IFC と、ドイツ政府が保有する開発金融機関 KfW の1部門 である African Local Currency Bond Fund も融資枠を設 定しています。IFC は Bayport の債券へのアンカー投資とし て発行債券の35%を買い入れることを約束し、ALCB Fund  おそらく最も重要なことは、ザンビアの低中所得層の労働者 は13%を買い入れることを約束しました。また、IFC が融資を と中小企業が今では融資を受けられるようになり、それによっ 約束したことで発行体の信用力が強化され、これが他の投資家 てビジネス・ベンチャーや小規模農業、教育、住宅改修への投 の安心感を醸成し、結果的に年金基金や保険会社を引き付けま 資が促進され、ひいては経済成長と民間企業の新たな収益源を した。つまり、これらの投融資が触媒の役割を果たしたのです。 生み出すことでしょう。  Bayport の社債発行への投資家の関心は高く、それにより Bayport は公募規模を当初予定した1億7,200万 ZMW(ザン ビア・クワチャ)から2,100万 ZMW 上乗せすることができまし プロジェクトの効果とリスク低減策 た。結局、同社は初めて中期社債を発行し、 (約 1億5,000万 ZMW 効果 2,650万ドル) 「干 を調達できました。この社債発行は債券市場の • 東アフリカにおける社債公募を通じて16億ドルを調達 ばつ状況」を終わらせただけでなく、ザンビア史上で最大規模 • 小口融資の資金調達のため、ザンビアでの新たな債券発 の社債発行となりました。 行を通じて2,650万ドルを調達  Bayport 債券プロジェクトは、Bayport の融資基盤と潜在 融資リスクの低減 的利益を拡大し、同社の責任ある資金調達への取り組みを後押 • 債券プログラムにおける IFC のプレゼンスが投資家に安心 ししただけでなく、ザンビア国内における資金調達にとって必 感を付与 要不可欠な同国資本市場の深化にも貢献しました。さらに同プ • IFC のテクニカル面での優れた専門知識を利用し、債券プ ロジェクトは、優れた資金調達手段を確立し、アフリカのベン ログラムの立案を支援 チャービジネスの資金調達における資本市場活用の可能性を示 すことで、民間セクターに良い影響を与えました。 事業リスクの低減 • 優秀な中間管理職  Bayport の事例は、投資家基盤を拡大し、資金調達コスト • 2013年のクワチャ建てザンベジ債の発行から得た IFC 保 を低下させる手段として債券発行に強く期待している他のアフ 有のザンビア債券市場に関する知識 リカ企業を勇気づけると思われます。 • IFC と Bayport 経営幹部、同社の債権者、調整役 (Barclays/ABSA)との緊密な関係 32 アフリカ開発の軌跡 Cargill/SIB と Cameroon Agricultural 農家と協同組合への融資を通じて農産物の供給を確保 コートジボワールは世界最大のカカオ豆生産国の一つであり、その輸出が西アフリカ経済を支えています。同国におけるカカオ 豆生産の大半は小規模農家が栽培したもので、そうした農家の多くが農業協同組合に所属しています。一方、こうした農家にとっ て、物流は従来から大きな課題となっています。道路状態が悪くトラックの損傷が激しく、保守と修復に極めて多額の費用がか かることが少なくないからです。 協 同組合は輸出業者を通じて短期融資を利用できます たすべく、その多くが世界の零細農家によって栽培されているカ が、利用可能な融資期間が制約されるため、新しいト カオ豆の供給を確保することを目的としています。 ラックの購入資金を借り入れることは多くの場合はで きません。その結果、協同組合は保守コストのかかる中古トラッ  2015年、Cargill は老朽化したトラックの保守負担を軽減して クに頼らざるを得ませんでした。老朽化したトラックによるカカ 協同組合の収益性を改善するため、コートジボワールの Coop オ豆の集荷は、協同組合のコスト構造において最大の割合を占め Academy program を拡張したいと考えました。そこで同社 ています。 は IFC、コートジボワールの地場銀行、世界農業食糧安全保障 プログラムと共同でリスク共有ファシリティを組 成し、Coop  2013年、アグリビジネス大手で世界有数のカカオ豆買い付け・ Academy に融資部門を追加しました。協同組合は融資を利用 加工業者でもある Cargill は、コートジボワールのカカオ豆協同 できるだけでなく、トラックを以前より容易にリースできるように 組合の経営を改善する一助として、経営や統治、財務、監査、マー なり、農場からカカオ豆を効率的に集荷できるようになりました。 ケティングの知識を教える Cargill Coop Academy というプロ グラムを設立しました。同プログラムは、Cargill が広く取り組  IFC とコートジボワール第4の銀行である Societe Ivoirienne んでいる Cargill Cocoa Promise の一環です。この取り組みは、 de Banque は、SIB が協同組合に提供する総額600万ドルの中期 世界的に増大しているカカオ豆とチョコレート製品への需要を満 (3年間)トラック・リース・ポートフォリオの信用リスクを折半する パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 33 ことで合意しました。Cargill が協同組合によって生産されたカカ オ豆のオフテイカーとなり、カカオ豆の販売益によって協同組合の 債務を返済できるようにしたことで、この取引は確実に収益をもた らすものとなり、内在する信用リスクが軽減されました。  2015年9月に Abidjan で開かれた式典では、コートジボワー ルの43の協同組合に新品のトラックが引き渡されました。これ まで融資を受けられなかった7万人の小規模農家が今では100 の協同組合を通じて中期融資を受けられるようになりました。 Cargill はこれによって、カカオ豆のバリューチェーンが強化さ れ、供給に確実性が増すことになります。  同様にカメルーンでは、キャッサバ、トウモロコシ、ソルガム の栽培農家による生産者組合の競争力改善を目的に、世界銀行 と IFC の共同プログラムが2015年3月に立ち上げられました。 同国の 銀 行第3位、Banque Internationale du Cameroun pour l’Epargne et le Crédit(BICEC)がリスク共有ファ シリティに最初に参加した金融機関となりました。リスク共有 ファシリティの全体的な規模は約50億 CFA フラン(CFA フラ ンは中央アフリカの共通通貨)、すなわち約830万ドルです。 プロジェクトの効果とリスク低減策  プログラムの契約内容によると、BICEC と IFC が設定した 基準を満たす生産者組合に BICEC が融資し、IFC がプロジェ 効果 クト費用の50%を上限にリスクを負担します。また、世界農業 • コートジボワールの7 万戸の農家による合計130台の新品 食糧安全保障プログラムからの融資も IFC によって動員されま トラックの使用を実現 した。これは、すべてのリスク共有ファシリティを対象に、IFC • コートジボワールの協同組合がリースを使用可能になった のリスク負担分に生じたファースト・ロスの25%を IFC が保証 ことにより、9万メートルトンのカカオ豆を収穫 することで可能になりました。さらに世界銀行は、生産能力増強、 • 女性の就労人口の25% 以上をキャッサバやトウモロコシの 主要公的サービスのサポート、インフラの改善を通じて生産者 バリュー・チェーンの担い手として雇用 組合を支援することを目的として、国際開発協会を通じて別途1 融資リスクの低減策 億ドルの融資を実行しました。 • Cargill、SIB、IFC 、GAFSP の四者間リスク共有ファシリティ • Cargill の運転資本に寄与してきた協同組合の長期的な実  BICEC は北カメルーンでソルガムを栽培する2つの生産者組合 績がさらに前進 とともにプログラムをスタートさせ、Guinness Cameroon 向け セクター固有のリスクの低減策  に洗浄済みソルガムを加工する工場の買収資金を調達しました。 • 2012年の改革以降の協同組合による持続可能な取引マー このプログラムは、銀行がこれまで避けてきたセクターを対象とし ジン確保システムの成功 ており、小規模農家による生産の拡大と近代化を可能にしました。 環境 / 社会的リスクの低減策 • 協同組合に対する持続可能性と Cargill のサプライチェー  今後は、こうした官民の複数の当事者による信用協定を、コー ン管理プログラムを通じた児童就労とトレーサビリティリ ドジボワールやカメルーンなどのアフリカ諸国で他の穀物にも適 スクの軽減要件 用できるようにし、アフリカ全域の小規模農家がコスト削減と収 益性の改善を目的とした中期融資を利用可能にすることが期待さ れます。 34 アフリカ開発の軌跡 Al Tadamum Microfinance Foundation 北アフリカの女性起業家を支援 IFC は、日本の DANIDA と中東及び北米の移行ファンドからドナーサポートを受け、Al Tadamun マイクロファイナンス基金 というエジプトの主要なマイクロファイナンス機関を支援しています。 I FC は Al Tadamun の ようなマイクロファイナンス機 関 (MFI)にアドバイザリーサービスを提供しています。具体 的には、環境変化への対応力の強化、商品ポートフォリオ の多様化、金融機関としての全体的な能力強化を支援すること で、MFI による顧客サービス向上をサポートしています。これは、 エジプト社会の最貧困層による金融サービスへのアクセスを可 能にする取り組みの前進にもつながります。  Al Tadamun は、エジプトの社会的に恵まれない女性企業 家を対象として、起業資金の支援や家族の収入を生み出すため のプロジェクトの維持、拡大に関する支援に関し20年間の経験  Al Tadamun はグレーター・カイロ地域の女性顧客に限定 があります。2013年、Al Tadamun は、零細中小企業の起業 して融資を提供しています。この地域は、貧困層に分類される 家を支援する SANAD 基金との連携の下、IFC との3か年パー 人口としてエジプト最大です(750万人)。Tadamun の営業所 トナシップ計画に合意しました。本合意により、Al Tadamun は全てグレーター・カイロの最貧地区(Imbaba、Boulaq、El が頑健性と多様性を備えた商品を構築することへの支援や組織 Marg、Dar El Salam など)に設置され、切実な需要のある 基盤を強化することを可能にしました。マイクロファイナンス機 顧客に融資を提供しています。こうした融資は所得を生み出し、 関は、マイクロローン市場でのシェア獲得や既存コミュニティへ 様々な脆弱性を緩和することに繋がります。 のより深化したアプローチを目指しながら、急速な成長、発展  Tadamun は自分のミシンを使って財布を製作する Zeinab を遂げようとしています。 さん(写 真)19歳 のような 女 性への支 援も実現しています。 Zeinab さんは1,500エジプト・ポンド(約200ドル)の融資を  Al Tadamun の2015年12月時点でのアクティブな借り手の 受け、いつの日か、ミシンや従業員の数を増やし、自分の工房 数は6万6,277人で、平均融資残高は145ドルです。国民一人当 を持つことを目指しています。 たりの所得に対する平均融資残高の割合は約5%であり、アフ リカ地域の平均である14.2%を大きく下回っていますが、これ は、同地域の他の貸し手に比べ、Al Tadamun がより貧困層 プロジェクトの効果 の借り手に手を差し伸べていることを示しています。 • 機能的で、熟練した内部監査部署の設立によって、専門 性が高く人材の豊富な HR 機能の実現に寄与  Al Tadamun は互助グループ貸付制度を通じて都市部の女 • 2013年から2016年中旬までに借り手が3万人に増加 性起業家に特化した融資を行うほか、零細企業セグメント(低 • 約160% のポートフォリオ成長 所得層の女性)にも同様な貸し付けを行っています。調査によ ると、こうした女性は既存の金融セクターから(低所得であり、 女性であることによる)二重の理由で対象外にされてきたと考 えられます。世界銀行のデータによれば、エジプトでは零細企 業に対する金融仲介に偏りが見られ、融資を受けられるのは 11.1%に過ぎません(大企業に関しては38.2%)。また、エジプ トに関する最新の「投資環境評価」によると、融資の利用に当 たり、女性が直面する障害は男性よりはるかに大きく、拒否率 も女性の方が高いことが分かります。 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 35 Kenya Tea Development Agency 肥料の改良と実務講習により茶栽培農家の収穫量を改善 アフリカ東部のケニアでは茶葉が主要な収入源となる作物であり、同国は世界第 3 位の茶葉生産国です。茶産業はケニアの外貨 の稼ぎ手であり、東アフリカ諸国にとって雇用と経済成長の重要な源泉となっています。ケニアの紅茶生産量(世界の生産量の 13%)の 60%以上が 56 万戸の小規模農家によって支えられています。これらの農家は、67 カ所の茶工場を持つ Kenya Tea (KDTA)社のオーナーでもあります。 Development Agency K DTA は、農家向けの肥料の調達から輸送、加工、生産 KTDA の再生可能エネルギー源への移行をサポートする予定です。 された茶のマーケティングまで、茶のバリューチェーン全 体で事業を行っています。各工場は加盟する農家が栽培  この新たなイニシアティブにより、IFC が KTDA に最初に投 した茶葉を購入して加工しています。 資した2012年から続くパートナーシップは今後も継続していき ます。IFC は別途、KTDA の茶工場に電力を供給する7基の小  茶農家の収入は主に、1)茶の価格、2)投入コスト、3)収穫量 型水力発電所の資金を提供するため総額5,500万ドルの融資を を最大化する農家の能力という3つの要素に左右されます。KTDA 2016年に行いました。 はこのうち1)と2)への取り組みに非常に多くの労力を傾けてき 収穫量を押し上げるうえではまだ相当の改善が必要です。 ましたが、  IFC からの資金提供は、日本政府による包括的な「日本 /IFC 現在、KTDA に加盟する小規模農家の1ヘクタール当たりの収穫量 信託基金‐アフリカ開発会議 」の枠を通じて実施する (TICAD) は平均2トンで、同国の大規模農園の1ヘクタール当たり平均3トン ことが可能になりました。日本政府によるこうした巨額の金融支 を下回っています。小規模農家の収穫量を増やすうえでの最大の 援は KTDA のリスク / リターン特性を大幅に改善し、民間投資 障害は土壌の栄養素管理です。KTDA の茶工場は、1950年代と 家への魅力を高めるはずです。 1960年代に実施した土壌分析に基づき、すべての茶畑に同一の肥 料を適用していましたが、一部の茶畑で栄養素不足、別の茶畑で  今後に関しては、KTDA のように小規模な事業者を抱えるアフ 肥料過多に陥りました。一部の地域では重要な微量栄養素が激減 リカ企業の中で、日本からの金融支援だけでなく、農業経営やエ しており、長期的に見て収穫量や品質の低下の恐れが出ています。 ネルギー効率、土壌肥沃度管理、バイオマス燃料使用などの分 野における日本からの技術移転による恩恵に注目する企業が増え  KTDA では茶の加工にバイオマス燃料を使用していますが、 ています。これにより、サブサハラ・アフリカの食料供給のほぼ それにまつわる懸念も浮上しています。茶栽培用農地の急拡大に 80%を供給する小規模農家の生計が大きく改善するはずです。 伴い、KTDA の茶工場の一部で木材を原料とするバイオマス燃 料をサードパーティ・サプライヤーから購入していることが発覚 しました。原料となる木材に、保護林で育成された絶滅危惧種 が使用された可能性があります。こうした行動により、これらの 工場は「レインフォレスト・アライアンス」の認証を取り消され、 持続可能な方法で生産された茶葉を求める Unilever 社などの 主要な買い手を失う危険にさらされています。  顕在化したリスクと認識されているリスクの両方と、それによる リスク調整後のリターンの低下は、ケニアの茶産業への民間投資 の阻害要因となっていました。それに対して IFC と KTDA は大手 ドナーの支援を受けて、小規模茶農家の生産性とビジネス・スキル の改善および KTDA のバイオマス燃料サプライチェーンの強化に 4年間で取り組むべく4億2,000万ケニア・シリング(約420万ドル) 規模の新たなイニシアティブを2016年に立ち上げました。IFC と KTDA はこのイニシアティブを通じ、すべての加盟農家を対象とし プロジェクトの効果 た継続的な土壌・茶葉試験を確立します。その目的は、土壌特性 • 56万人に対する農民が農業技術に関する高度なアドバイス に合わせた肥料の配合を決め、土壌の生産性を改善することにあ や農地に適した土壌栄養素ソリューションの提供 ります。また、33万戸の農家を対象に、農家が自らの農場と所得 • KTDA の農家1戸当たりの収穫量が平均20%増加 をより効率的に管理するための財務講習が計画されています。さ • 33万人の農民への財務管理講習 らに IFC は KTDA と協力し、燃料サプライチェーンの強化および 36 アフリカ開発の軌跡 Bridge International Academies 学校教育を拡大し、教育水準を向上 多くのアフリカ諸国は貧しい社会で良質かつ低学費の教育をなかなか実現できないでいます。限られた教室スペース、高い教員 不足率、不透明な学費、標準化されていないカリキュラムのいずれもが、低所得家庭が教育を受ける足かせとなっています。 N ewGlobe Schools は3年前、ケニアで学費負担の少 ない学校を250校運営していた Bridge International Academies の拡大を計画しました。その目的は、1 日の生活費が2ドル以下の家庭を対象とした学校をケニア国内で 400校以上に増やし、Bridge の教育モデルをウガンダ、ナイジェ リア、インドでも展開することでした。最終的な目標は、2020  Bridge は現在、複数の国で合計459カ所の保育園と小学校 年までに低所得家庭の生徒100万人が教育を受けられるように を運営し、8万人以上の園児・生徒を教育しています。独立機関 し、さらにその数を2025年までに1,000万人に増やすことです。 のテストによると、国語と算数の成績は、同校の生徒が公立学 校や他の学費の安い私立学校の生徒を常に上回っています。ま  Bridge Academies の革新的な戦略は、貧しい家庭の子供 た、世界銀行は Bridge International Academies のケニア たちに良質な教育を低価格で提供するため、教材の開発から教 におけるプログラムに関する厳確な個別影響評価を実施してい 員訓練、学校建設、請求に至るまでのすべての業務を標準化し、 ます。この調査は、サブサハラ・アフリカにおける有料教育機関 そのためにデータ、技術、規模を有効利用することです。同校 を対象とした初めての大規模無作為検査です。 の教員にはタブレット端末が支給され、教材を利用した授業、 生徒の到達度の確認、成績評価に活用できるようにしました。  2015年11月、Bridge の成績優秀な生徒がケニアの全国テス トを受験し、早くも良好な成績を収めています。中でも、2009  Bridge の学校は多くの場合、人口密度が高く低所得層が多 年に Mukuru Kwa Njenga に開設した Bridge の最初の学 校 く住み、生徒の通学距離が500メートル以下となる地域の更地 は2015年の試験において、合格率が100%かつ国の平均以上の に建設されます。学校運営が持続可能になったのは、平均する 成績を修めた19校の一つに入りました。Bridge の創立者である とちょうど1年前です。 Jay Kimmelman 氏と Shannon May 氏は、2014年の「世界 銀行アフリカ・フォーラム」で「Social Entrepreneurs of the  Bridge は高度に標準化された反復可能なモデルを採用する (1年を代表する社会的起業家) Year 」に選ばれました。 ことにより、学費を平均でわずか月額6ドル強に抑えることがで きました。学費は学区内の住民の90%が無理なく支払える金額 で、貧しい家庭が子供を男女を問わず学校に通わせ、生活水準 プロジェクトの効果とリスク低減策 と将来見通しを改善するのを後押ししています。 効果 • 2020年までに低所得家庭の生徒100万人に対する教育を実現  NewGlobe の拡張プロジェクトは費用の見積り額が6,000万 • 2020年までに5万7,000人の教員雇用を創出 ドルに上り、しかも国境を越えた拡大に伴う新たな規制に直面す ることから、IFC と世界銀行、英国の開発金融機関の CDC を 融資リスクの低減 含む開発銀行に支援を求めました。IFC は優先株式による1,000 • IFC が、Bridge の学校グループ拡大の初期段階の支援に 万ドルの投資、CDC は600万ドルの投資を行いました。さらに 必要不可欠だった長期融資を提供 Gates Foundation が1000万ドルを投資、NewGlobe の既存 投資家と新規投資家がそれぞれ1,500万ドルずつ投融資を実行 事業リスクの低減 し、米国政府の開発金融機関 Overseas Private Investment • 高度に反復可能な Bridge のビジネスモデルとケニアでの成功 Corporation が1000万ドルの融資をとりまとめました。 市場 / 規制リスクの低減  これらの資金は主に、国外への新規拡大(71%)とケニア国 • IFC、世界銀行、その他の開発パートナーが Bridge の国 内での学校の新設 、および Bridge のソフトウェア開発 (14%) 境を越えた拡大を支援する行動計画に着手 と一般業務に使用されました。Bridge が新たな3カ国における • 新たに参入する国の政策と規制の理解と対処に関し、世界 政策および規制を把握して対処するうえでは、IFC と世界銀行 銀行が Bridge を支援 が同社をサポートしました。 • NGS が Bridge の134校を試験センターに認定 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 37 Africa Improved Foods 東アフリカにおける大規模な栄養改善プロジェクト オランダの多国籍企業である DSM は、慢性的な栄養不良に対処するプロジェクトの一環として、ルワンダに栄養食品加工工場 を建設しました。この壮大なプロジェクトでは、信頼のおけるスポンサーと行動力のある政府によるリスク低減が必要とされ、 原材料と最終製品に関しては調達、供給、オフテイカーの緊密な連携が必要となりました。 2 015年、IFC は2,600万ドル の融 資パッケージを提 供す ることで合意しました。その内訳は、IFC と他の出資者 から動員された2,150万ドルの融資、Africa Improved Foods Holding 社への450万ドルの出資です。ドナーが出資す る Global Agriculture and Food Security Program(世界 農業食糧安全保障プログラム)の民間セクターへの支援は IFC が担当しています。このプログラムから食品加工工場の建設と操 業を目的とした2,600万ドルの融資パッケージのうち800万ドル を提供しました。この食品加工工場は、100万人近くの子供たち の栄養不良の解消を目的に、年間4万5,000トン強化穀物を生産 します。  このプロジェクトでは、DSM、英国の開発金融機関 CDC、 オランダの 開 発 金 融 機 関 FMO、World Food Program(世 、ルワンダ 政 府、Clinton Health 界食 糧プログラム= WFP) Access Initiative(クリントン健康アクセス・イニシアチブ)に よるパートナーシップが組成されました。使用する原材料はルワ ンダの農業協同組合と政府を通じて調達される予定であり、そ れによって農家の農作物にとって安定的な市場が形成されること 持ち合わせていませんが、こうした取り組みがサブサハラ・アフ になります。 リカにおける健康問題に対処するうえで重要と考えています。  国際連合の食糧支援部門である WFP とのオフテイカー契約 プロジェクトの効果とリスク低減策 は、プロジェクトの中で重要な役割を担っています。WFP は製 品を南スーダン、ウガンダ、ブルンジなどの国で配給する計画 効果 です。ルワンダ政府は生産された強化穀物の一部を購入し、栄 • 100万人近くの子供の栄養不足の解消を目的とする、強化 養不足に陥りやすい子供たちに配給することで合意しており、 穀物を年間4万5,000トン生産可能な食品加工工場 残りを小売市場で販売する計画です。 融資リスクの低減  このプロジェクトには、地場の農作物および地域の食習慣に • GAFSP、IFC、FMO、CDC による株式資本の提供 適した農作物を主な原材料に、幼児や女性のために地場で生産 • IFC をはじめとする出資者による長期債券の起債 される一連の栄養食品を開発する狙いがあります。ルワンダに • 債券の起債通貨に合わせるためオフテイカー契約を米ドル 続き、エチオピアでも同様の食品加工工場が計画されています。 建てで締結  ルワンダのプロジェクトの第1フェーズでは、設備投資と運転 事業リスクの低減 資金として約6,000万ドルの費用が見込まれています。IFC は • 極めて経験豊富なスポンサー、コントラクター、経営陣 融資だけでなく、FMO と CDC に資本パートナーとしての参加 を促した際にも主導的な役割を務めています。 市場 / オフテイカーリスクの低減 • 国連の世界食糧プログラムとルワンダ政府によるオフテイ  Clinton Health Access Initiative(CHAI =クリントン健 クを保証 康アクセス・イニシアチブ)は公的当事者と DSM を同プロジェ クトに参加させるなど、同プロジェクトの開発面で重要な役割 を果たしました。CHAI はプロジェクトで経済的な利害関係を 38 アフリカ開発の軌跡 GLS Liberia と SME Ventures 起業家にリスク資本と技術支援を提供 2014 年リベリアでのエボラ出血熱の蔓延により、外国資本の物流企業の大半が西アフリカ地域から撤退しました。地場資本 で成長途上の物流企業であった GLS Liberia は、それを機に、国内の感染症対策への新たな担い手として市場参入を果たし ました。GLS は、緊急医療物資がリベリアに到着次第、空港に待機させていた自社の輸送車両およびネットワークを駆使し、 全国の拠点への物資の輸送を行い、危機拡大の緩和に寄与しました。 G LS のオーナー、Peter Malcolm King 氏は、国際物 対象とし、その大半は過去に他の基金が存在しなかった国です。 流事業の経験、地元市場のニーズに関する知識を生 かし、リベリアで競争力の高い物流事業を構築した  SME Ventures の第1フェーズでは、脆弱で未開発な国に存 いと考え、2012年僅か4名のスタッフとともに起業しました。 在する70以上の高成長企業に5,000万ドル以上の投資を行いま した。これらの企業は雇用機会がとりわけ少ない国で9,500人以  ただし、こうした起業にあたっては、トラックやその他の設備 上の雇用を直接的または間接的に創出しました。また、対象企 に多大な資金を要します。SME Venture が国内で運営するリス 業の20%は女性がオーナーの企業であり、創出された直接雇用 ク資本ファンドからの投融資を受けることで、King 氏は輸送車 の20%が女性です。IFC はこうした有望な結果を踏まえ、SME 両部隊を構築し、事業の立ち上げを可能にしました。GLS は現 Ventures を脆弱で未開発な他国に拡大しており、今後4年間で 在ではリベリア有数の大手物流企業として、40人を超える従業 最大20本の基金を組成し、5億ドルの投資を行うことを目標とし 員、多数の国内及び多国籍企業の顧客を抱えています。 ています。拡大に伴い、より多くのパートナーが開発に参加する 機会が生まれます。例えば、オランダの開発銀行である FMO、  新興国では中小企業が雇用と経済成長の原動力であり、リベリ Cordaid、Lundin Foundation による SME Ventures の第1期 アのように脆弱で紛争影響下にある国では特に重要な存在です。 サブサハラ・アフリカ基金への投資に見られるように、IFC との共 ところが中小企業はマイクロファイナンス機関の融資先としては規 同投資によって高成長の中小企業は新たな資本を獲得できるので 模が大き過ぎ、商業銀行の融資先としては規模が小さ過ぎ、ある す。パートナーは SME Ventures の補助金プログラムにおいても いは分野が新し過ぎます。このため、銀行融資ではなく、リスク 重要な存在です。補助金プログラムは、中小企業が可能性を最大 許容度の高い融資や株主資本の形をとったリスク資本へのニーズ 限に発揮するために必要な技術支援の獲得を可能にします。 が非常に高まっています。一方で、中小企業は事業運営上の課題 も抱えています。例えば、経営経験が制限されたり、必要なスキ  GLS の場合、SME Ventures 基金からの支援が同社を新興企 ルや情報を取得できないなどです。King 氏のようにやる気にあふ 業から国内有力企業に成長させる原動力となりました。同社の売 れた経験豊富な起業家でさえ、こうした問題と無縁ではありませ 上高は4倍に伸び、スタッフの数は10倍に増え、現在も事業範囲を ん。リベリアでは内戦が続いた結果、教育を全く受けていないか 拡大しています。King 氏は GLS の輸送能力の大幅な拡大に取り ほとんど受けていない世代が生まれてしまい、財務管理など重要 組み、需要の大きい航空貨物用設備など、リベリアのインフラに なスキルを備えた従業員を探し出すのが容易ではない状況です。 おける他の側面での GLS の役割に関する構想を持っています。  IFC の SME Ventures は、世界で最も困難な市場にあって大 きな可能性を秘めた中小企業の足かせとなっている金融と事業運 プロジェクトの効果とリスク低減策 営上の重要課題に対処するために開発された先駆的なプログラム 効果 です。同プログラムはリスク資本と助言を組み合わせて起業家に • 70社の高成長企業に5,000万ドル以上を投融資 提供するという独自の形態をとっています。SME Ventures はファ • 直接的、間接的に9,500の雇用を創出 ンド・マネジャーが高い潜在力を持つ企業を注意深く選んで育成 • 支援した企業の20%は女性がオーナー するプライベート ・エクイティ・モデルを基に構築され、IFC は伸 び盛りの(そして時には初めて経験することになる)ファンド・マ 融資リスク低減 ネジャーに投資資金を提供し、投資先の中小企業を支援する技術 • SME Ventures Program を通じてリスク資本を提供 的支援を拡大するための資金調達も行います。また同プログラム • SME Ventures の潜在的投資家に安心感を提供 により、世界銀行グループはこれらの基金および将来の市場参加 者が適用可能な規制枠組みを政府が作ることを支援します。SME 事業リスク低減 脆弱で未開発の9カ国 Ventures には現在5つの基金が含まれ、 (バ • SME Ventures Program を通じ技術支援を提供 ングラデシュ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、 • 世界銀行グループが規制の枠組み作りを支援 リベリア、ネパール、コンゴ共和国、シエラレオネ、ウガンダ)を パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 39 Tanzania Interoperability Standards モバイル金融取引の開拓 アフリカ・サブサハラは、この 15 年間技術的な革新を遂げてきました。2000 年に1%にも満たなかった携帯電話の普及率は、 現在では 70%を超えています。こうした変化は、少なくとも 40 カ国以上に拠点を持つ世界銀行からの助言、革新的な規制政策 によって促進されました。これまで IFC は、アフリカ全土 12 カ国で、32 件のテクノロジー、メディア、通信事業における資金援 助を行ってきました。また、新しい技術の発展を促進するための助言を提供してきました。 2 014年、タンザニアは、相互運用性を備えたモバイル金 成長が見込めることを報告しています。タンザニアは、モバイル金 融サービス取引に関する標準的なビジネスルールの開発 融とモバイルバンキングにおいて主要市場として発展しています。 と実施に成功した最初の国となりました。相互運用性と 相互運用性スタンダードは、さらなる成長と金融の包括的サービ は、モバイルワレットに保存された電子価値を異なるモバイル金 スを促進するために、革新的であり続けること、金融サービス領域 融サービス業者やモバイル・ワレットと銀行間のシームレス送金 としてのアクセスの改善に役立ちます。 を意味します。この機能の実現により、サービスプロバイダーは、 非銀行利用者層へのより効果的なアクセスが可能となりました。 相互運用性の欠如は、モバイル金融サービスの拡大において弊害 となりえます。 タンザニアにおける相互 運 用スタンダードの開発プロセスお いては、Bill & Melinda Gates 財 団 および Financial Sector Deepening Trust of Tanzania の支援を受け、IFC がファシリ テーターの役割を担いました。その際、タンザニアのモバイル金 融取引のビジネス・ルールの開発資金として、280万ドルが調達さ れました。 タンザニア相互運用スタンダードによって、モバイル金融サービス プロバイダーの登録利用者(契約者)のワレット間における電子マ ネー取引(送受金)は、資金の流れを管理する産業レベルでのビ ジネスルールによって可能になりました。これは、モバイル金融取 引エコシステム全体における、相互運用性に関する長期的計画の 第一段階にあたります。 相互運用性による利点は明らかであり、多大な利益、革新的 なイニシアチブをもたらすにも関わらず、多くの市場では、銀 行ーワレット間の統合以 上の利点としては認 識されていませ んでした。 IFC はこれまでタンザニアの相互運用性スタンダードの発展に大 プロジェクトの効果 きな役割を担ってきました。実務と規制のいずれの機能からも独 • 2014年9月ワレット間操作取引に関する最終合意が締結 立した第三者機関として、IFC は、国内のモバイル金融支払い計 • 最終合意によるモバイル金融取引サービスへのアクセス増 画の立案プロセスを促進させました。そのため産業関係者ととも 加。金融サービスの統合化(インクルージョン)の加速 に、国内の共通スタンダードを発展させることに寄与しました。 ムーディーズによる開発途上国51カ国を対象とした調査では、電子 マネー取引量が1パーセント上昇することで、平均0.24% の GDP 40 アフリカ開発の軌跡 プライベート・エクイティ 世界銀行グループも参加しており、ファンドと将来の市場 プライベート・エクイティ・ファンドは、アフリカで普 参加者がビジネスを行える規制の枠組みづくりに関し、政 及しつつあるもう一つの資金調達手段です。IFC はアフ 府を支援しています。(CASE STUDY 参照) リカに重 点を置く民 間投 資 会 社の Helios Investment Partners 社に対し、当初は2007年に2,000万ドル、次 IFC アセットマネージメント社(AMC)は、開発のため に2010年に6,000万ドルの出資を行いました。IFC のア の融資を拡大し、投資家が途上国における IFC の豊富な ンカー投資は、それがなければ躊躇していた他の投資家 投資経験から恩恵を受けるための新たな手段を提供しま を引き付け、Helios 社は目標としていた10億ドル以上の す。AMC は2009年の設立以来9本の投資ファンドを設立 資本調達に目途を付けることができました。その一方で、 しており、その資産総額は2015年に90億ドル近くにまで 開発金融機関が世界の機関投資家によるアフリカ企業へ 成長しました。こうした投資ファンドには、アフリカに焦 の出資を支援することも可能です。 点を当てたものが複数本含まれています(表7・8)。 IFC の先駆的な「SME ベンチャー」プログラムは、世 市場の課題への対応 界で最も困難であるアフリカ市場において高い潜在力を有 一般に、新興国、特にサブサハラ・アフリカへの投資に する中小企業の足かせとなっている金融やビジネス上の重 課題が残されていることは間違いありません。同地域で投 要課題への対処を目的に立ち上げられました。このプログ 資機会に着目している投資家は、政治的リスクやソブリン ラムは、リスク資本と起業家へのアドバイスを組み合わせ リスク、通貨リスク、規制の不確実性、ガバナンスや汚職 て提供する点に特徴があり、ファンドマネージャーが潜在 の問題、現地の専門家や適切な投資手段の欠如など、多 力のある企業を厳選し育てるプライベート・エクイティの くの要素を考慮しなければなりません。成熟した資本市場 モデルの上に構築されています。IFC はこのモデルに基づ を有し、政治システムが安定している途上国であっても、 投資に初めて挑戦することが多い若手のファンドマネー き、 多くの機関投資家が必要とする投資適格の格付けを取得 ジャーに資本投資の資金や投資先中小企業への助言業務 することは往々にして困難です。 を拡大するための資金を提供します。このプログラムには FIGURE 7: CAPITAL INVESTED THROUGH PRIVATE EQUITY (US $mn) Sub-Saharan Africa Emerging Markets Total 2 500 37 625 40 000 35 000 31 972 2 000 39 946 27 900 28 805 29 222 30 000 25 160 Sub-Saharan Africa Emerging Market Total 25 000 1 500 20 627 20 000 1 000 15 000 10 000 500 5 000 2 329 2 103 1 396 1 041 1 927 1 186 1 115 691 0 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 Note: Includes private equity, private credit, private infrastructure and real assets. Source: EMPEA Industry Statistics, data as of 31 December 2015. パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 41 そこに、様々な方法でリスクを緩和し、民間投資を呼び • 融資適格性を確保するためのストラクチャーや技術に関 込むことのできる開発金融機関の役割があります。 する専門知識を提供します。 • アンカー投資により、投資家が必要とする信用や債権者 • 現地の政策や規制環境を改善します。 としての地位を提供します。 • 地方自治体によるプロジェクトの選択や準備を支援し • IFC とともにエクイティ投資を行う IFC アセット・マネー ます。 ジメント社などを通じて、アフリカの市場を開拓する新 • 国内資本市場を強化し、クロスボーダー投資を促進し たな方法を機関投資家に提供します。 ます。 • 強制収用やテロなどの政治的リスクに対する保険を提供  経済環境やリスク環境が厳しくても、アフリカで成功す します。 る投資に資金を提供する方法は存在します。 • 為替変動の影響をなくすための通貨スワップを提供し ます。 FIGURE 8: SUB-SAHARAN AFRICA INVESTMENT BY INDUSTRY, 2015 (US $mn) Technology 6 Health care 16 Basic Materials 21 Telecommunications 31 Industrials 77 Oil & Gas 100 Consumer Services 110 Financials 148 Consumer Goods 241 Utilities 291 0 50 100 150 200 250 300 350 Source: EMPEA Data as of 31 December 2015. 42 アフリカ開発の軌跡 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 43 Sources OPPORTUNITIES IN RAPIDLY CHANGING MARKETS World Bank, Global Economic Prospects, June 2016 World Bank, Africa’s Pulse, April 2016 PPIAF, Institutional Investment in Infrastructure in Emerging Markets and Developing Economies, March 2014 FINANCE SOLUTIONS FOR AFRICA McKinsey & Co Brighter Africa: The growth potential of the Sub-Saharan electricity sector, February 2015 Power-technology.com, Azito Power Plant Expansion, Abidjan, Cote d’Ivoire. World Bank, Enterprise Surveys, 2013 Cargill, Global Cargill Cocoa Promise Report, 2014 The Economist, “Private equity in Africa: Unblocking the pipes,” Jan 24, 2015 KPMG: Banking in Sub-Saharan Africa, 2015 Deutsche Bank, Capital Markets in Sub-Saharan Africa, 2013 EMPEA Industry Statistics, Emerging Markets Private Capital Fundraising & Investment Analysis, Industry Statistics 2015 Woman in Dodoma, Tanzania, p. 39, photo by C. Shubert (CCAFS) 44 アフリカ開発の軌跡 パートナーシップとリスクの低減により民間投融資を新たな規模で動員 45 Project Team REPORT PROJECT MANAGEMENT CONTRIBUTORS Desmond Dodd, Arthur Karlin Betsy Alley, Oualid Ammar, Ejura Audu, Jonas Ayeri, EDITOR Yaa Boakye, Eva Bakonyi, Raffaele Boldracchi, Michel Matt Benjamin Botzung, Florence Boupda, Giuliano Caloia, Vanya Candia, PRIMARY CONTRIBUTORS Brian Casabianca, Yasser Charafi, Omar Chaudry, Silven Lin Shi, Tomoko Suzuki Chikengezha, Dan Croft, Joumana Cobein, Fatou Diop, Jim Emery, Coura Fall, Jamie Ferguson, Britt Gwinner, Bill CONTENT ADVISORS Haworth, David Ivanovic, Tor Jansson, Sylvain Kakou, Emi Regional Kitasako, Mohammed Khaled, Rashmi Kharbanda, Yosuke Mouayed Makhlouf, Oumar Seydi, Vera Songwe Kotsuji, Maria Kozloski, Lisbet Kugler, Josiane Kwenda, Economics and Strategy Matthew Leonard, Douglas Lister, Monish Mahurkar, Dramane Ted Haoquan Chu, Frank Douamba, Rapti Goonesekere, Neil Gregory, Jean Pierre Lacombe Meite, Albena Melin, Florian Moelders, Biju Mohandas, Bushra Mohammad, Gene Moses, Riham Mustafa, Kalyan N. Financial Institutions Group, and Finance and Markets Alejandro Alvarez de la Campa, Allen Forlemu, Riadh Naouar, Neelamraju, Wawa Nkosi Donald Nzorubara, Nahla El-Okdah, Aliou Maiga, H. John Wilson Jane Onoka, Jordan Pace, Sean Petersen, Cecile Puiggali, Infrastructure and Natural Resources Joe Rebello, Juliette Rose, Yakhara Sembene, Janne Sevanto, Bertrand de la Borde, Linda Munyengeterwa Luba Shara, Zibu Sibanda, Wilfried Tamegnon, Wendy Teleki, Manufacturing, Agribusiness, and Services Richard Warugongo Tracy Washington Samuel Dzotefe, Aida Kimemia, Mary Jean Moyo Judy Ombura Trade and Competitiveness TEAM SUPPORT David Bridgman, Catherine Masinde, Maiko Miyake Busi Leokane, Yasue Sakuramoto, Jacqueline Santos Treasury Martin Habel Acknowledgment Saran Kebet-Koulibaly IFC 2121 Pennsylvania Ave., N.W. Washington, DC 20433 USA Tel: +1 202 458-9699 Sub-Saharan Africa Hub Offices SENEGAL,  SOUTH AFRICA,  Dakar  Johannesburg Rue Aime Cesaire x 14 Fricker Road Impasse FN 18 Illovo 2196 Fann Residence P.O. Box 41283 P.O. Box 3296 Craighall 2024 Dakar, Senegal Johannesburg, South Africa Tel: +221 33 859-7100 Tel: +27 11 731-3000 Fax: +221 33 849-7144 Fax: +27 11 268-0074 IFC has offices in more than 20 countries across Sub-Saharan Africa. Find contacts on the IFC website. www.ifc.org Stay Connected  www.facebook.com/IFCwbg and www.facebook.com/IFCAfrica www.twitter.com/IFC_org and www.twitter.com/IFCAfrica www.youtube.com/IFCvideocasts www.ifc.org/SocialMediaIndex